高齢や寒さ以外の理由は?犬が震える原因と受診前にやっておくべきこと

愛犬が震えるその背景には、実に多くの理由が隠されている。気にしなくていいものから、すぐに手を打つべきものまで。また理由がはっきりしていない震えもある。一度きちんと整理して、震えに対する知識を備えておきたい。
 

 

犬の震えはどの程度解明されている?

犬が震える理由

震えはどのような時に起こるのか。まずは人間の場合で挙げてみることにする。寒い時、怖い時、高齢に伴うもの、病気に伴うもの、少し考えただけでこのくらいは出てくる。

大雑把に言えば、心が原因の震えと、体が原因の震えに分けることができるのだ。特に心が原因の震えに関しては、体験したことのある飼い主は多いと思う。愛犬が何かに怖がって震えている、という姿を目の当たりにした飼い主もかなりいるのでは。例えば、動物病院へ連れて行くと震え始める、など。人間と犬の震えは似ている部分がかなりある。

犬の震えに関する研究の現状について、人の方で解明されていることを犬にも当てはめられていて、哺乳類として、震えのメカニズムに関する基本は同じ。犬に限らず、他の脊髄動物も概ね同様なのでは、と考えられている。ただ、すべてがそれで解明されるわけではない。はっきりしないこともまだ多く、それぞれの生物で特有の原因もあるかもしれない

例えば、寒い時期に人間はオシッコをすると、体が震えることがある。それが犬でも同じかというと、断定はできないとのこと。それに犬には体毛が密に生えており、オシッコによる体温喪失は人間ほどではないかもしれない。わかっていること、わからないことも含めて、震えについての知識を深めていきたい。

 

健康な犬が震える3つの理由

犬が震える理由

これらはすべて、もともと動物に備わっている生理的な震えであり、人間もまた例外ではない。

■寒さ
体温が奪われることに対し、ほとんど本能的に起こる震え。犬の場合は寒い時期はそれに対処できる体毛を備えることによって、体温低下を防いでいる。そのため、理論的には人間ほどは震えない。
 
■恐怖
怖い時に震えるという生理現象は、人間には当てはまるが犬ではどうか。動物病院が近づくと震えて足を踏ん張る、という姿を見たことがある飼い主は少なくないだろう。これも恐れによる震えだ。
心因性による震えを知る
 
■痛み
相当に鋭利な痛みを伴う時、犬にもそれを原因とした震えが現れることがある。ただ、痛みの継続時間はおよそ24時間と言われているので、鋭い痛みが延々続くということはほとんどない。
痛みによる震えを知る
 

ウレションは震えに似ている?

嬉しくて興奮のあまりにオシッコが出てしまう、という犬も多い。これと震えとどう関係あるのだろうか?

この時の精神状態が交感神経を刺激されたことによると考えるならば、出所は一緒

その結果が震えかウレションかということだ。ちなみに、人は寒い時にオシッコすると震えるが、犬はそれはないようだ。

 

犬で見られる代表的な不随運動

犬が震える理由

不髄運動とは、意識とは無関係に体が動く状態のこと。大きく分けて次の3つに分けることができる。

■振戦(震え)
筋肉が緊張したり緩んだりを繰り返す運動。リズミカルであることが多い。これを引き起こす要因は多岐にわたり、何かの疾患によるものの他、老齢性、遺伝性、疲労による振戦もある。

 
■けいれん
脳の疾患によって引き起こされることが多い。単に震えているという状態とは明らかに異なることが多く、激しい不随意運動だけではなく、口から泡を吹いたり失禁脱糞を伴なうことも少なくない。

 
■ミオクローヌス
ピクンピクンという短く速い収縮を繰り返す不随意運動。ジステンバーの後遺症や椎間板ヘルニア発症時に起こることもあり、脳や脊髄が原因と考えられている。しゃっくりもミオクローヌスの一種。

 

ここが悪いと犬は震える

犬が震える理由

どうして震えるのか、というところを理解すれば、多少は不安を解消できるし、素早く対応することもできる。そのための知識として頭に入れておきたい。

■中枢神経(脳・脊髄)
脳と脊髄を中枢神経といい、身体のほぼ全てを支配している。ここに何か疾患や異常が現れると、それらの病気によって様々な症状が現れてくるのだが、その症状のひとつに震えが挙げられる。振戦(震え)だけでなく、けいれんも脳の異常によるものが多い。

 
■筋肉
神経を伝わってある部分に震えが現れる。それだけではなく、筋肉そのものが原因で震えることもある。いわゆる筋肉疲労や筋肉痛である。運動量が異常に多い使役犬などでは、震えが現れやすいと考えられる。筋肉の病気による震えもある。

 
■体内環境(血液など)
血液内のバランスが崩れても震えの原因となる。低血糖症が代表的な例であるが、それ以外にもカルシウムやナトリウムが高すぎても低すぎても震えが現れる。これらは、考えている以上に重篤な症状と言えるので、早急な治療が必要となる。

 
■抹消神経(中枢神経と筋肉をつなぐ神経)
中枢神経を幹とすれば、そこから枝状に体の隅々にまで行き渡っているのが末梢神経。したがって指先などの体の末端が震えることが多い。原因はまだよくわかっていないが、なんらかの理由で交感神経が刺激されて引き起こされていると考えられる

 

犬の震えを引き起こす病気

犬が震える理由

愛犬が震えることで飼い主が一番気になるのは、それが病気による震えなのかということ。気にしなくてもいい震えと、病気が原因での震えを、ほとんどの飼い主は見分けられないと思うので、なお厄介なのである。

■突発性全身性振戦症候群
犬の震える病気で最も多いのがこの病気である。別名、ホワイトシェイカードッグ症候群と言われている通り、白い犬に発症例が多い。その原因は解明されていないが、遺伝的要素があるのではと考えられている。脳脊髄に炎症が及び、ステロイドや免疫抑制剤を投与することで改善される。免疫関係の異常と考えられており、日本犬の症例はほとんどない。

 
■小脳低形成症
小脳が成長せず、萎縮してしまった状態で生まれてくる先天性疾患。体の震えの他、歩く時にふらつきが見られたり、眼振を起こしたりすることもある。

 
■脳の腫瘍
脳にできた腫瘍が震えの原因になることも多い。微細な震えだけでなく、てんかん発作の原因でもある。治療がなかなか難しい病気のひとつである。

 
■突発性頭部振戦
ヘッドボビングとも呼ばれ、頭が震える症状が出る。原因はよくわかっておらず、遺伝が関係しているのではと疑われる。洋犬の中型犬に発症することが多い。何か動作を始めると、震えは止まる。悪化はしないので治療も必要ない。

 
■甲状腺機能の異常
細胞の代謝を促進するが甲状腺ホルモン。これが老化など何らかの理由で機能が低下することで、震えが現れる。甲状腺機能に異常が現れると、震え以外にも様々な症状が現れる。

 
■筋肉疲労
過剰な運動などで筋肉が疲労し、その働きがアンバランスになった時筋炎を引き起こし、熱を帯びたり力が入らなかったりする他、震えが現れることもある。

 

震えを引き起こす中毒物質

犬が震える理由

■マカダミアナッツ
成分中、何が震えを引き起こしているかは今のところ明らかになっていない。これを摂取することで、筋肉が脱力することがある。

 
■ボツリヌス菌
食中毒の原因菌のひとつ。腐った肉の他、海や川や土などにも分布している。震えというより、全身脱力を引き起こし、最悪の場合は死に至ることも。

 
■キシリトール
多くの食品に含まれている糖アルコールの一種。犬がこれを摂取すると、低カルシウムや低血糖を引き起こし、震えが引き起こされることがある。

 
■ニコチン
タバコに含まれる有毒物質で、依存性が強力であることが知られている。常用した場合、ニコチンが切れると震え出す、ということが犬にも稀にある。

 
■イベルメクチン
腸管糞線虫症の駆虫薬のひとつで、フィラリアの薬に使用されている。これが震えを引き起こすこともあるのだが、日本犬での症例はあまりない。

 
■マリファナ
日本では所持も栽培も禁止されている麻加工の薬物。犬が服用すると深刻な症状が出る。アメリカでは犬の誤飲が問題化されているとも。

 
■有機リン
農薬として使用される殺虫剤として身近な存在。かなりの毒物であることは容易に想像でき、末梢神経や筋肉に刺激を与え、震えを引き起こす。

 
■エチリングコール
保冷剤として身近に存在している。脳や神経系の障害を引き起こし、震えを誘発する他、腎臓にも悪影響を与える。多量摂取は死に繋がる。

 
■メタルアルデヒド
ナメクジ駆除剤として使用されている他、キャンプ用の固形燃料としても利用されている。これを口にすると、脳に影響を及ぼし、震えなどの異常が現れる。

 
■カフェイン
アルカロイドの一種で、薬としても使用されている。犬にとっては劇薬に近く、中毒症状を引き起こしやすい。コーヒーだけでなく、チョコレートも。

 
▼犬が中毒を起こす物質は生活の端々に存在する

上の中毒物質を見ていただけばわかるように、一部例外を除くと犬が中毒を起こす物質は身近なものが多い

好奇心や興味本位でつつく、かじるといったことは犬にとってはごく普通のこと。しかし、それは大事故に直結する危険な行為であり、そのようなことが起こってもおかしくない状況が家の中には溢れているのである。このような製品の管理は、やはりきちんとしておきたいもの。

飼い主の知らないところでそれらを口にした愛犬が震えながら現れても、飼い主にはなかなかその震えの理由を察することはできないだろう。そして、それらが引き起こす中毒症状は、死に至る可能性も高いということを知っておくべきである。

 

犬の心因性による震え

犬が震える理由

心因性の震え、というのは恐怖心であることがほとんど。これは犬が自身の体験に基づいて、再びそのような恐怖に置かれることを想像することで体が震えるということである。心因性による震えは、飼い主にとっても比較的想像がつきやすい。愛犬が怖かったこと、嫌だったことに思いを巡らせれば、何となく震えの理由がわかるだろう。

まれに、嬉しくて震えることもある

これら心因性によるものは、基本的には身体を危険な状態に陥れるものではない。

 

犬の外傷の痛みによる震え

傷の痛みに関しては、飼い主としては取り除いてあげたいものである。痛くて震えているという姿は、犬にとっても飼い主にとっても辛いものだ。

愛犬が震えている時、飼い主としては体をさすったり抱きしめてあげたくなるのは当然。

しかし、それが逆に危険な場合もある。交感神経には闘争心を掻き立てる要素があり、そこが原因で震えている場合は攻撃的になりやすい状態にある。

特に痛みによって震えているときは、攻撃性が高くなっているので注意した方がよい

 

飼い主には難しい原因の特定

犬が震える理由

激しいけいれん発作が現れた場合などは、飼い主にも愛犬に起こっている異常を察することができるだろうが、それ以外の場合はどう判断するだろう。多くの飼い主がそれらすべてを「震え」という言葉で獣医師に伝えるのではないだろうか。

そう、震えのことをよく知る専門家以外には、不随意運動に対してその症状を細かく見分けることはできないし、それで致し方ないとも言える。それくらい震えの背景にあるものを見極めるのは難しいのである。

3つの不随意運動は全く違うものである。それだけに、震えが気になって動物病院を受診する飼い主の言う「震えている」という言葉だけでは、なかなかその原因にたどり着くことは難しいようだ。

そして問診から、必要と思われる検査を経て、震えの原因を絞り込んでいく。血液検査などで震えの原因がわかることもあり、その場合は内科的治療で症状を改善する。

また、遺伝的要素や免疫関係から震えを引き起こすこともある。

そして、早急に治療が必要な病気であることもあれば、そのまま放っておいても命の危険性はない病気もある。

様々な検査の結果、身体面で震えの原因が見つからない場合は、次に精神面の原因を探るため、行動学の専門医の診察を受けることになる。

 

受診の前にやっておきたいこと

犬が震える理由

その震えの原因は何なのか。専門家でない限りはまず断定できないのが震えの難しいところ。そのため、動物病院に診せる前に飼い主が状況を判断しておく必要がある。以下の点を押さえておくことで、正確な診察に繋がるのだ。

1.震えるタイミングを観察する
まず、震えが出るのがどのような時なのかを絞り込む必要がある。起きている時なのか、寝ている時なのか。立ち止まっている時なのか、動いている時なのか。もう少し細かく観察できるのであれば、それが歩き出しの時のみに出るのかなど。震える時間帯や、動作の中でどのような時に出るのかがわかると、診察時に大いに役立つ。また、震えが続く時間なども計っておけると、さらに原因を絞り込める材料となる。
 
チェックポイント
□動いている時に震える
□立ち止まっている時に震える
□動き出したときに震える
□いつも震えている

 
2.震える状況を把握する
震えが自分以外の何かによって誘発されているということもある。それは場所であったり、人であったり、あるいは音であったりと、生活環境の中にあるほとんどのものが対象となる。ある人が来るといつも震える、ある音がすると震え始めるなど、震えとの因果関係がはっきりしている何かがあるかもしれないので、震えた時の状況を注意して観察することも大切なのだ。これは毎日共に生活している飼い主でなければなかなかわからないことだ。
 
チェックポイント
□特定の人がいる時に震える
□特定の音がした時に震える
□特定の場所で震える
□何かを食べた時に震える

 
3.ビデオを撮る
そうは言っても、震えが何に起因しているのかを見極めることはなかなか難しいというのが現状でもある。そのような時には、震えが始まった時にビデオ撮影しておくことが有効である。最近では動画機能の付属した携帯、スマホがほとんどなので、とっさの時でもすぐに撮影できると思う。その動画を獣医師に見せることで、飼い主が見落としている、あるいは知るべくもない震えの要因が判明する可能性は大きい。
 
撮影時のポイント
□震える前後の様子
□何もしていない時の反応
□呼びかけられた時の反応
□食べ物を見せた時の反応

 

飼い主が状況を正確に判断しておくこと

犬が震える理由

なかなか一筋縄ではいかない震えの現実。では、愛犬に震えが見え始めた時、飼い主にはどのような心得と行動が必要なのだろうか。それらについて上記に挙げてみた。

大事なことは、なるべく多くの情報を獣医師に伝えること。日常の観察だけでなく、ビデオ撮影ができればなお良し、というのは客観的な情報を獣医師に見てもらうことができるから。獣医師はそれらの情報から震えの原因の優先順位を立てて、それに必要な検査を始める。

身体的な部分に異常が見られなければ、次に神経系を疑ってみる。さらには行動科で心理的な要因を探っていくというように段階を踏んでいく。それでもわからない時には、MRI検査や脳脊髄液検査を行うことになる。
 
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Shi‐Ba vol.88『寒さや高齢の他にも理由がある!?震える犬』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。

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