犬びより

『愛犬の子犬が見たい』その前に知っておきたい知識・交配~出産の流れ

2018/12/22

かわいい愛犬にそっくりの子犬がいたら? そんな夢を見た経験がある飼い主は多いだろう。ブリーダーが行う繁殖には、先人から受け継いだ健全な犬を、後世に残すという目的がある。いち飼い主も愛犬と暮らす現在だけではなく、過去と未来の血統を見据えて考えることが大切だ。

 

繁殖に必要なこと

繁殖は愛情だけで行えるものではない。子犬を販売する場合は資格が、母子の命を守るためには獣医師が、健全な犬を生み出すためには知識が必要だ。

■子犬の販売は第一種動物取り扱い業の登録が必要になる
飼い主が生まれた子犬を販売する場合は、「動物取扱責任者」になるための要件を満たす必要がある。その要件とは、動物関連の学校の卒業生や動物看護士などの資格を有すること。次に、動物取扱責任者が「第一種動物取扱業」の申請を管轄の都道府県知事、または政令市の長の登録を受けなければいけない(問い合わせは各動物愛護管理行政担当部局へ)。飼い主がこれらの条件を満たさない場合は、相手に無料で譲渡することになる。ただし交通費などの必要経費は、当事者同士の話し合いによって発生する場合もある。

 
■妊娠、出産時に母子を救える動物病院を確保する
愛犬が母犬になる場合、妊娠中の健康状態を確認でき、出産時の事故に対応可能な獣医師を交配前に探しておく。特に初産や高齢出産の母犬は事故が起きることもあり、帝王切開手術になることも。生まれた子犬の健康状態によっては、心臓マッサージなどの救命措置が必要になることもある。妊娠中の検診や出産に立ち会った経験が豊富な獣医師やベテラン繁殖者に、事前によく相談することが大切だ。交配の適切な時期を逃さないために排卵検査も必要なので、繁殖の流れを把握している獣医師が見つけられればなおよい。

 
■柴犬の正しい特性を知っておくこと
信頼できる畜犬団体が定めた「犬種標準(スタンダード)」を知っておきたい。犬種標準とは、先人が守ってきたその犬種の特性であり、健全であるための基準である。気質、骨格、毛色、体格など、細部に渡って定められている。犬種標準に則った柴犬を後世に残すという意味では、愛犬が大きくはずれていないことが望ましい。また、交配相手の犬を探す時にも、良い犬を選ぶ基準として知っておくと役立つ。

 

繁殖の流れ

柴犬のブリーダーが行う繁殖の一連の流れを知っておこう。優れた素質の子孫を生み出すためには犬の長所と欠点を見極める知識が必須。加えて愛犬と相手の犬の安全に配慮し、命に責任を持って繁殖に挑みたい。

■自分の犬の確認~交配させたいと思ったとき

・健康状態や遺伝的な問題の有無を確認する
まずは愛犬の健康状態を確認する。感染症などに罹患している場合、交配時に相手にうつしてしまう恐れもある。疑いがあれば動物病院を受診しよう。現在健康であっても、遺伝的な問題を受け継いでいることもある。例えば、親犬が緑内障を発症した、生まれつき足腰が弱い、といった犬。子孫に受け継がれてしまうので、繁殖に向いているとはいえない。

・色のバラエティを危うくする組み合わせに注意
母犬と父犬の毛色の組み合わせによって、生まれる子犬の毛色がある程度決まる。この中で特に注意したいのは、白と白の組み合わせ。白以外の毛色が生まれることはほぼなく、繰り返せば柴犬の4色のバラエティを危うくするので避けたい。また、交配料を謝礼ではなく子返し(子犬を渡すこと)にした場合、希望どおりの毛色が生まれなかったり、自分と相手が欲しい毛色が同じだったりして、トラブルのもとになりかねないので事前にしっかり取り決めをしておくことが必要だ。

 
■相手犬選び~2週間前
オスを選ぶ場合は、交配経験がある犬を選んだほうがスムーズだ。自然界ではメスに相手の選択権があり、意に沿わないオスは受け入れない種が多い。

柴犬も同じく、飼い主が選んだ相手の犬を気に入るとは限らない。交配経験があるオスは、メスに攻撃されてもひるまずに向かっていく強さを持っているので成功しやすい。もし愛犬が交配経験済みであれば、慣れていないオスでも成功するかもしれない。

メスを選ぶ場合は、愛犬であるオスが交配経験済みなら魅力を重視して選んでよい。交配経験がなければ、逆に経験済みの穏やかな気質の年上が成功しやすい。ただし、自然交配は難しく、人の介助が必要になる。ブリーダーなど慣れた人に立ち会ってもらおう。

交配の場所はオスの犬舎で行われることが多い。住みなれた場所で交配した方が、メスに強気で向かって行くことができる。相思相愛で交配が進むとは限らず、メスが相手を気にいらず、時にはケンカに発展したり、強制交配でメスが悲鳴を上げたりすることも。周囲に迷惑がかからないように、交配の場所も相手と相談しておいた方がよい。

 
■交配 生理開始 13・14日目頃
生理(最初の出血)が始まってから、13、14日目頃がタイミング。出血を見落としがちなので注意。

オスが陰部のにおいを嗅いだり、メスがじゃれたりして相性を確認、交配に向けて準備する。ベテランのメスは積極的に尻を振って見せることもある。

メスは準備ができると尾を左右どちらかにずらす。それを合図にオスはマンティングの態勢に。時間がかかると焦れたメスに「下手くそ!」と怒られることも

交配開始から約15分後、交配態勢になれた。オスのペニスがメスの膣に挿入された後、射精が終わるまで5分~30分ほどかかる。

 

 
■妊娠の確認 交配後 40~50日後
メスは生理が始まってから13、14日目頃の数日間しかオスを受け入れない。この時期をわずかでも逃すと交配が難しくなり、妊娠の可能性も大幅に下がる。ベストなタイミングを確実なものにするために、獣医師に排卵検査をしてもらい、時期を計った方がよい。黄体ホルモン検査ができれば最も確実だが、検査可能な動物病院は少ない。

交配後、徐々におっぱいが大きくなり、陰部が腫れた状態が続いたりすれば妊娠のサイン。想像妊娠の可能性もあるので、40~50日頃に獣医師に超音波検査で妊娠の有無と、子犬の頭数の確認をしてもらうとよい。ただし、子犬は正確な頭数は確認しづらいので、目安と考えよう。
 
 
■出産準備 交配後 55日以降
犬の妊娠期間はおよそ60日間。55日頃から出産の準備を始めよう。場所はメスが住み慣れた自宅が最もよい。サークル、ケージ、段ボール箱などで、メスがひとりで落ち着ける場所を作る。サークルやケージを使う場合、子犬が産まれた時に格子に頭が挟まってしまう危険があるので、板などで必ず内側を覆うこと。

妊娠中は子犬を守るために警戒心が強くなり、特に犬に対してそれが顕著になる。同居犬がいる場合は、出産が終わるまで過ごす部屋を分けたさせた方が無難だ。

獣医師にも犬の様子を知らせて、出産に備えて往診を依頼しておくと安心だ
 
 
■出産 交配後 60日頃
交配から60日後頃に出産が始まる。地面や寝床を掘るしぐさを始めたら出産が近い。柴犬は全犬種の中でも比較的安産で事故は少ないが、逆子などの異常分娩で帝王切開手術が必要になるケースもある。獣医師との連携は欠かせない。

子犬が無事に産まれても、初産のメスは産後のケアをしないこともある。産後のケアとは、子犬が包まれた袋を破り、へその緒を切り、舐めてきれいにすること。しばらく待ってもメスがケアを始める様子がなければ、飼い主が介助しよう。

生まれた子犬の中で、あまりにも小さく体温が低い犬は、育たず亡くなることもある。メスもそのような子犬には母乳を与えず、育てないことが多い。自然淘汰のひとつといえるだろう。飼い主や獣医師の手当てで生き延びるかもしれないが、健康に問題を抱えている可能性もあるので、救う場合は育てる覚悟を持とう。

 

犬の長所と欠点を見極め母子と子孫に責任を持とう

ブリーダーは子孫に素質が受け継がれることを考えて相手の犬を選ぶ。

基本の選び方は、愛犬にない魅力がある、あるいは、愛犬の魅力をさらに増強してくれるだけの魅力があること。その魅力とは、ブリーダーが描く理想の柴犬像や、愛犬の特性によって異なる。目力や足腰の強さを求める人もいれば、容姿や血統を重視する人もいる。

展覧会で優れた賞歴を持つ犬を選ぶ方法もあるが、賞歴が良い犬を交配させれば良い子犬が生まれるとは限らない。賞歴がなくても、受け継がせるべき良い素質を持っている犬もたくさんいる。まずは犬をよく見て、理解することが大切。はっきり言って全てにおいて完璧な犬はいない。それを理解したうえで、少なくとも愛犬の欠点と同じ欠点を持つ犬を選ぶのは避けたほうがよい。愛犬と相手の犬の長所と欠点を見抜く目が不可欠だ。

また、優れた素質があっても、繁殖の適齢期を守ることが大切。それは母子や遠い子孫を守ることにもつながる。適齢期に繁殖すれば健康な子犬が生まれる可能性が高く、優れた素質が子孫に受け継がれていく。

ただし、オスは10歳を超えると身体的な問題や精子の衰えが顕著なので、なるべく高齢に差しかかる前にしよう。メスは2回目の生理を迎える1歳すぎ以降が望ましい。未成熟なメスの出産は母子共に危険。また、高齢になると身体的な衰えにより妊娠しにくくなり、妊娠しても子犬の生育に悪影響が出る。8~9歳が限度、できれば高齢期前に出産させること。止むを得ず高齢の犬を交配させる場合は、母子の安全や子孫への影響を考えて、もう一方は若い犬にすること。

繁殖には、母子と子孫を守る責任が生じる。繁殖を検討する際は、プロの助言と介助を受けよう。

 

繁殖のトラブル

交配、出産、譲渡という一連の流れが安全かつスムーズに進めばよいが、残念ながらトラブルが起きてしまうこともある。事前に取り決めをしておくことが最も大切だ。

1.交配した後に交配料を払ったが妊娠しなかった
妊娠しなかった理由は、メスが妊娠に適した時期を過ぎていたというが多い。相手が無料で再交配を受け付けてくれることもあれば、交配のために時間をあけた分、再交配料の支払いを求められることもある。獣医師の排卵検査を受けて確実な時期に交配すること、再交配についての話し合いをしておくことが大切だ。

 
2.希望していた犬ではない別の犬と交配されてしまった
交配前に互いの犬を確認しているなら、気づけなかった飼い主にも責任がある。もし不慮の事故であれば相手に責任がある。妊娠していなければ再交配、妊娠していれば子犬の譲渡先を相談する。このようなトラブルは飼育環境がよく管理されている犬舎であれば起きない事故。飼い主が相手の犬舎選びを誤ったともいえる。

 
3.メスが交配後や妊娠中に体調を崩してしまった
動物病院の治療費はメスの飼い主が負担する。もし相手のオスに病気をうつされた可能性があるなら、連絡して治療費の負担などを相談する。獣医師の診断書があれば話し合いがスムーズだ。交配前に健康診断をしておくとより安心だ。特に疑わしい病気がある場合は必須と考えよう。このようなトラブルは本来起きてはならないこと。互いの愛犬を守るための、マナー以前のモラルである。

 
4.出産時に問題が起き、母犬と子犬の一方しか助けられない
命がかかっているのはメスなので、メスの飼い主の気持ちを最優先する。あらかじめ相談していた獣医師に最善を尽くしてもらう。子返しの約束をしていた場合は、オスの飼い主に相談してもよい。とはいえ緊急事態なので、事後報告になってもやむを得ない。ブリーダーは子犬より母犬の命を優先する。

 
5.相手から好きな子犬を選ばせてほしいと言われた
生まれた子犬が飼い主と相手によって争奪戦になることもある。交配料ではなく子返しをする場合は、選択の優先権を持つ方を決めておく。プロはトラブルを避けるために、交配後に交配料を支払って終わりにすることが多い。

 
6.子犬を譲渡する約束をしていた相手に断られてしまった
生まれた子犬が相手の好みではなかったなど、何らかの理由で譲渡を断られることもある。事前に希望とは異なる子犬が生まれた場合のことを決めておく。

 
7.相手に血統書がなく子犬の血統書が発行されないかも
血統書を紛失した場合は、畜犬団体に再発行を依頼できる。もともとない場合は、血統を証明できないので、子犬にも発行されない。とはいえ、家庭犬として暮らす分には困らない。

 

トラブルが起きないように事前に対策を取ることが重要

時には命が関わるため、繁殖はトラブルが起きることもある。プロのブリーダー同士でも、小さな行き違いが後々問題になるケースもある。

当事者同士のトラブルのほぼ全ては、事前の取り決めをしておかなかったことが原因。悪気はないだろうから、話し合いで解決しよう。

犬の健康に関するトラブルも、事前の検査や獣医師との連携で防ぎたいもの。上述で紹介した繁殖の流れを見て、事前に細部まで相手と相談しておこう。

 

愛犬の正しい姿形を後世に伝えるために繁殖を続ける

繁殖について知れば知るほど奥が深く、容易に実践できるものではないことがわかる。

ブリーダーが大変な繁殖を続ける理由は柴犬を正しい姿形で後世に伝えるため。縄文時代から今日まで、多くの人の努力によって保存されてきた犬種だから。ブリーダーは柴犬のいち愛好家でもある。大好きな犬を良い姿形で残したい、より良い犬を作りたいと思うのは自然な気持ちだろう。

ブリーダーには飼い主としての思いもあるのだ。飼い主が繁殖をするには覚悟が必要だが、想像することは愛犬の血統に目を向けるきっかけになるかもしれない。

多くの柴犬の血統は、さかのぼれば昭和時代初期の2頭の名犬にたどり着く。島根県出身の石号(オス)と、四国地方出身のコロ号(メス)だ。純粋な日本犬が少なくなった時代に、この2頭を中心に保存活動が行われ、現在まで続く柴犬の基礎になった。

といっても、柴犬はもともと山野で猟をしていた山出しの犬。保存活動が始められてしばらくの間は、血統書がない犬もたくさんいた。愛犬の血統を遡れば、山出しの犬にたどり着く可能性もある。それでも柴犬であり、猟犬の子孫といってよいだろう。

畜犬団体への登録を証明する血統書は、単なる身分証明書ではない。保存活動によって柴犬が見出された時代から続く、歴史ある家系図でもあるのだ。さらには記載されていないその先に、縄文時代に生きた祖先がいる。

繁殖には、柴犬を後世に伝えるという、未来を見据えた目的がある。目の前にいる現在の愛犬の祖先、そして子孫は? 脈々と紡がれてきた命の血統に向き合い、「愛犬の子犬が見たい」という思いの意味を、改めて考えることが大切だ。

 
 
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Shi‐Ba vol.88『プロの繁殖に学ぶ「愛犬の子犬が見たい」その前に知っておきたいこと』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。

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