まる子:2022年5月現在、14歳。6月で15歳を迎える。「成人式まであと5年」との野望を抱いていたが暗雲立ち込めた今年の春。この連載での取材がすごく役立った!
口の中、首や肩、背中の痛みその他、食べない理由は多々あり
歳過ぎから食べ方にムラが出てきたまる子。「ここ2〜3日、あまり食べないかも」と感じたら、食べた物、量、食べ方を記録したり、食べさせ方を変えてみたり(手の平からあげたり、食器の高さを変えるなど)、お腹の調子が悪い時は便の写真を撮って記録することもあった。
「客観的に見ることができるので、記録をつけることはおすすめです。1週間前の記述を見て、改善できていることがわかれば、自分のやってきたことが評価できますし。特に排泄物の色は毎日見ているとその変化がわかりづらいものです。
尿の色は排泄後のペットシーツの写真を撮っておくと、動物病院に行った時に『先月はこんな色でしたが、今日はこんな色です』と伝えることができます。今起きている症状が慢性なのか急性なのか、獣医師も把握しやすくなり、投与する薬、治療法などの適切な選び方につながります」
まる子のようなハイシニアが食べなくなった時に考えられることは様々だ。
「食べなくなって体重が減る場合や食べているのに体重が減ることもあり、これらは併せて考える必要があります。しっかり食べているのに体重が減る場合は甲状腺機能低下症や糖尿病が疑われますので、体重は2〜3日に一度量るのが良いでしょう。食べなくなるのは不調のサインです。
痛みや痒みがあったり、不安を抱えている場合もあります。今まで同じものを食べていて食欲が落ちるのは、歯周病、歯折、歯茎が熱を帯びているといった口の中の痛みや、アゴや関節炎などで咀嚼すると痛みが生じることが原因として考えられます」
場所や食器の位置の工夫
首が重い様子が写真でもわかる
首を下げて歩くまる子。かかりつけの動物病院からも「首や背中に痛みを抱えている可能性がある」と指摘されている。
器の形状も食べやすさに影響する
口を動かせる範囲も狭くなる。底上げされていたり器自体が傾き、ヘリが高くない器が食べやすい。手の平もおすすめ。
食器を置く高さは慎重に検討して
最初は食器を持って食べやすい高さを見るのがおすすめ。1匹で食べさせる場合は食器台が動かないものを選ぼう。
ヨガマットは足が踏ん張れて◎
肩からの痛みがあると立って食べている時に足が開いてしまい疲れてしまう。ヨガマットを敷くとしっかり踏ん張れる。
食べ方の工夫❶
おいしいスープをフードにかける
肉汁やスプーン1杯ほどの缶詰タイプのフードをお湯に溶かしたものを、ドライフードにかけるのもおすすめ。
食べ物の温度は必ず指で確認しよう!
温かいスープなどをフードに注ぐ際は必ず指で温度を確認。ふやかしたら手ですくい、犬に食べさせてあげるのも良い。
硬い好物はスリガネでおろすのも手
実際に茂木先生が愛犬にやってあげた方法。大好きなクッキーをスリガネで下ろし、ふりかけとしてフードにトッピング。
ドライフードは最強の完全食
缶詰やパウチだけだとエネルギーが足りず痩せてくることも。できるだけドライフードを与え、固いようならふやかそう。
まる子の食欲が落ちた際、食べる姿を見て首が痛そう、と思ったことがある。
「人間は重い頭を背骨が支えていますが、犬は頭を上げる際に肩回り、背骨の上、首の後ろあたりの筋肉をすごく使います。その筋肉が加齢により落ちてくると頭を支えきれず痛みが生じることがあります」
我が家では食器の位置を高くしたり、手の平からあげるなど、食べやすい方法を何度か試したら、元の食いしん坊時代の食べっぷりに戻った。
「小分けに与えて休憩を挟み、首や背中のマッサージをしたり、リラックスさせて1回の食事にかかる首や肩への負担を減らすと良いでしょう。そうすれば、食べる=痛い、という食事への悪い印象がつきません。高齢犬は首のヘルニアを発症しているケースが多いもの。外科手術をすれば治せることもありますが、全身麻酔のリスクもありますので、主治医と相談してステロイドや鎮痛剤を併用しながら、痛みの緩和ケアを進めていくと、無理なく食べられるようになることもあります」
この他、食べなくなる要因には、運動不足、老化による代謝の機能低下、認知機能が低下し空腹感がわからない、視覚や嗅覚が衰え目の前にある物が食べ物なのかどうかがわからない、といったことも考えられるそう。
「高齢になると不安を感じやすくなりストレス性の食欲不振になることもあります。病気の疑いがない場合は、そばにいてスキンシップをとり安心させてあげましょう。老犬介護は長く続くこともあります。『たまには食べないこともあるよね』という気持ちの切り替えも、時には大切かもしれません」
実はこのコーナーの取材を終えた翌日の真夜中に、まる子が前庭疾患を発症。今は回復したが実際に「食べられない」状態に陥り、茂木先生から伺った具体的な食べさせ方のアドバイスがとても役立った。食べずに痩せ細り、抱くと驚くほど軽くなっていく愛犬を間近で見るのは本当に辛い。
しかし一口でも食べてくれれば「これできっと元気になる!」と飼い主が希望を持つことができる。愛犬が病気になり、食べることが困難になって初めていろいろ調べたり、グッズを準備するのは正直、かなり大変だ。実際は動物病院通いや1〜2時間おきの排泄、寝返りの世話、大量の洗濯物の始末などに追われるからだ。
普段から食の細い犬も含め、元気な時から滑らないで食べられるような場所の整備、食べやすい位置や食器の高さの見直し、シリンジやスプーンなどでの食べさせ方の練習、手作り流動食の試作、試食などをやっておくと、いざという時に慌てなくて済む。また、食べさせる時に抱き抱えたり、食後に口まわりを拭いたり、口の中のお手入れも必要になってくる。抱っこをはじめ、どこを触られても嫌がらないように練習しておくと、犬も飼い主も余分なストレスを抱えることなく介護生活を送ることができると思う。
食べ方の工夫❷
水や流動食はシリンジで
数日間、自力飲食が不可能になったまる子。水分摂取や給餌の際シリンジを使用。冷たい流動食は湯煎して与えた。
スプーンを入れる向きなども考慮
まる子の強制給餌の際、スプーンを入れる口の場所にもこだわりがあった。愛犬の食べやすい向きや姿勢も尊重しよう。
元気なうちに試食しておこう
豊富な種類のシニア用介護食類。でもまる子は警戒心が強く食べない缶詰もあった。元気な時に試食しておくと便利かも。
オイルボトルは流動食にグッド
シリンジより量が入るオイルポットは流動食を与えるのにおすすめ。実際に茂木先生が愛犬に使用していた。
注意!こんな時はすぐに動物病院へ!
ある日突然全く食べなくなり元気がない、ずっと水ばかり飲んでいる、ジャージャーおしっこをし始めた、飲んでは出しを繰り返し、はぁはぁと荒い息をしている、ずっとキュンキュン鳴いている、ずっと寝ている、名前を呼んでも反応がない(寝ているから起こさなくていいやと考えず、起きられないほど辛い状況なのかも、と推察した方がベター)、便秘や下痢などの胃腸障害が続いている、嘔吐が止まらない、丸1日食べない、水を飲まない場合はすぐに動物病院へ。
症状が重い時や最晩年は、自力で水を飲むことができなくなり、シリンジなどで強制的に飲ませることが必要になってくる(ただし、寝たきりで飲ませると誤嚥の危険があるので、立たせた状態で脇に抱えて飲ませる)。
水分が摂れない場合は入院しないと命に関わってくるからだ。在宅でケアしたいという希望があるなら、水分の与え方をしっかり練習しておこう。寝たきりにならないように、元気なうちから筋肉量を維持すること。タンパク質をしっかり摂取し適度な運動を心がけ、食欲が湧く生活を心がけたい。
食欲が落ち、1週間で1キロ体重が減少。6.4キロにまで落ちてしまい皮がたるんでしまった。
まとめ
食べない原因を突き止めることができたら食べる工夫をしてなんとしても命を繋ごう!
監修:茂木千恵先生
東京大学大学院農学生命科学科獣医学博士課程卒。獣医師。専門は獣医行動学。ヤマザキ動物看護大学准教授。教育・研究活動のかたわら、東京都町田市内でペットの問題行動治療やパピークラスの開催も行う。「飼い主が幸せになれば犬も幸せになり、犬が幸せになれば飼い主も幸せになる」という考えをベースとし、飼い主の話をじっくり聞くことも大切にした指導は、多くの人や犬から好評を得ている。
Text&Photos:Mari Kusumoto
Shi-Ba Vol.124『おとボケまる子日記』より抜粋