犬びより

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何が違う?どう違う?犬と人の真・常識【基礎編】

2018/08/09

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飼い主の犬に関する悩みは、犬に人の常識を押し付けていることが原因かもしれない。動物種の違いを正しく理解し、もっと楽しく暮らそう。

 

最初に知っておきたいこと

脳の違い

人の脳は前頭前野が特異的に発達している。前頭前野は倫理や予測などを司る部位であり、人は他の動物種に比べて脳の中で占める容量の割合も大きい。人が地球の支配者のように繁栄したことも、発達した前頭前野によるものである。

犬の前頭前野は容量が少ないため、人のように複雑な思考はできないわけではないが苦手である。例えば、予測する、察する、うらやむ、思いやる、といったことが得意ではない。ただし、感情やその瞬間を司る視床下部や海馬の構造などは似ており、喜怒哀楽は人も犬も基本的に同じである。

コミュニケーションの違い

人は言語が発達しているため、コミュニケーションの手段を言語に頼りがちになる。犬とコミュニケーションを図る時に語りかけたり、しつけの時に言ってきかせたりしてしまう。犬は音声のコミュニケーションの手段を持っているので、鳴いたり吠えたりして感情を表すことはできる。人のような言語を持たないので意味は理解できないが、号令は音声として教えられる。

解剖的な違い

人と同じことを犬に求めても、解剖的に無理なことも多い。単純なことだが、身体的な構造の違いである。

例えば、人は手がものを持てる構造をしているのでボールを手でキャッチできるが、犬はできない。犬に後ろ足で立つチンチンの芸は教えられても、マラソンは不可能だ。

トレーニングを含めて何かを教える時に、人との解剖的な違いを考えてあげる必要がある。犬に無理な負担をかけないように、単純で当たり前のように思えるが身体の構造を知っておきたい。

 

擬人化したしつけは誤った接し方に

犬は家族のような存在。そう考える飼い主が増えている。犬と人の距離が近くなり、愛情が深まっているのだろう。しかし、家族の一員として人のように扱うことがよいとはいえない。

擬人化とは、人にしかできないことを動物などに当てはめるもの。一例として動物キャラクターが挙げられる。彼らは人のように示唆に富む発言をして倫理的な行動をしますが、実際の動物にはできないことだ。擬人化についてきちんと考え、人と犬は動物種が異なることを理解しておこう。

犬を家族のように思うことで愛情は深まるが、擬人化は誤った接し方につながる。人にしかできないことを犬に要求したり、犬本来の生活にそぐわないことを強いたりすることになってしまう。例えば、説教すれば理解する、おしゃれな服を着せれば喜ぶ、という考えのこと。ただし、服を着せることの全てが擬人化ではない。ドレスは必要ないが、寒がっている犬に防寒用の服は必要。

人は犬の行動などに人の常識を当てはめようとする。犬は擬人化されたキャラクターが多いので、人のように感じる、人と同じ常識を持っている、と誤解してしまうのだろう。人には人の常識が、犬には犬の常識があることを知っておきたい。

 

犬の学習能力とトレーニングの基本

犬の常識と情報

子供を叱って効果がある理由は、人の常識や情報があり、するべきことやするべきではないことを理解しているからだ。それらは家庭や学校で教えられ、テレビやインターネットでも知ることができる。

対して、犬は犬の常識しか持っていない。情報も飼い主からしか得られない。叱られただけでは、「自分の常識で行動したら飼い主に嫌なことをされた」と思ってしまう。以下の例を参考に、人が得意な想像力を働かせて犬の気持ちを理解してみよう。

東京都ではエスカレーターは左側に乗り、右側は急ぐ人のために空けることが慣習。しかし、大阪府では逆になる。もし東京都の人が大阪府に行って、エスカレーターの左側に乗ったら? 急ぐ人に叱られたりぶつかられたりするかもしれない。大阪府の常識を知っていれば、叱られた時に「右側だった」と誤りに気づける。知らなかった場合は、「東京都の常識に従って行動したのになんで?」と思うはずだ。この混乱した気持ちは、犬が自分の常識に従って行動して、飼い主に叱られた状態に近い。正解の行動をした時にはほめて、飼い主が正しい情報を教える必要がある。

予測は得意

犬は経験していないことを察するのは苦手だが、経験したことに対する予測はとても得意。適切な方法でトレーニングを行えば、さまざまなことを覚える。

トレーニングの基本は号令→行動→ほめる→オヤツ→うれしい、という一連の流れだが。犬が得意な経験に対する予測は、最後のうれしい気持ちを前倒しにして、最初の号令の時点でうれしい気持ちにする。飼い主とのトレーニングを好きなことにするためには、ほめて良いことを提供することが大切だ。もし叱っていた場合、号令→行動(座る)→叱る→嫌、という流れになり、最後の嫌な気持ちが最初の号令の時点まで前倒しになる。

犬は日常生活の中でも飼い主の様子からさまざまな予測を行っている。散歩が好きな犬は、リードを用意する→飼い主が着替える→散歩→うれしい、という一連の出来事を覚え、リードを見ただけでうれしくなる。雷を怖がる犬の場合、空が暗くなる→雨が降る→雷が始まる→怖い、という一連の出来事を覚え、空が暗くなった時点で怖くなってしまう。

「般化」は生活に必須

人は憶測することができるので、経験したことがなくても想像で対処が可能だ。行ったことがない場所でも「ここでは静かにしていればよさそう」と察することができる。TPOをわきまえているともいえる。犬を含めた動物種は、経験したことがなければ似たような状況であっても適切にふるまうことが難しい。「似たようなことは全て同じ」と思うことが苦手なので、人や環境などが変わっても同じことができるように教える「般化」という練習が必要だ。

例えば、家の中ではオスワリができるのに公園ではできない犬。家の中でのオスワリと公園でのオスワリは全く別の行動なのだ。自分ができるから犬もできるはず、と押しつけてはいけない。犬は憶測が苦手とはいえ、日常から般化を意識して生活すれば、経験から学習することは可能。

観察学習は苦手だが…

宮崎県の幸島のサルの間では、一頭のイモを洗う行動が世代を越えて伝わっている。他者の行動を真似する模倣学習や見て覚える観察学習は、人は得意だが犬は得意ではない。サルはその中間と考えられている。前頭前野が発達していない動物種は、察することが苦手だからかもしれない。

言葉が通じない外国人に「座ってください」と伝えたい場合、自分が座ってみせれば相手に伝わりやすい。しかし、犬にオスワリを教える時に、飼い主が座ってみせても伝わりにくい。犬は人のしぐさを真似することがほぼないが、人の食べ物を食べようとするので観察学習はできている。

子犬が先住犬のトイレを見て覚えることもある。「トイレシートで排泄すると良いことがある」という覚え方だ。先住犬がほめられている様子を見たからこそ、このような観察学習ができる。

意欲はギャンブル

将来のためにがんばろう、これができれば役立つから身につけよう、苦手を克服しよう。目標は人の意欲のもとになる。犬の意欲を高める方法はいくつかある。まず、行動に対して良いことを与えるというもの。トレーニングにごほうびを使う理由のひとつ。

教え始めたばかりの頃はごほうびを毎回与えるが、徐々にランダムに変えていくことが重要。毎回ではあきてしまい、与える比率が2回に1回と定期的に固定化されれば順番を覚えてしまう。犬は経験に対する予測が得意なのだ。

しかし、予測できないようにランダムにすれば「次はもらえるのかな?」と期待が高まる。動物種への実験により、毎回のごほうびよりもランダムの方が意欲は高まることが明らかになっている。ギャンブルに夢中になる人の心理に似ている。

また、成功すればするほど、号令をきこうという気持ちになる。トレーニングは成功するように導くことも大切だ。長時間は嫌になってしまうので、やる気を持続させるためには楽しいところで終わることも必要だ。

犬の意欲を高める3つのポイントは、
1.環境を整えて成功できるようにしておく
2.「叱る」ではなく「ほめる」ことをトレーニングに使う
3.しつこくやらない。
この3つのポイントを覚えよう。

 

動物種の違いを理解すれば悩まない

かつて犬は体罰訓練が主流だったが、現在はほめるしつけが広まっている。

犬をほめることは、何をすればよいのか、という情報を教える作業。また、犬は経験に対する予測が得意なので、ほめる機会を多くすればトレーニングそのものが楽しくなる。ほめる機会を増やすためには、成功するように環境を整えることが大切。意欲を高めることにもなる。

犬を叱っても嫌なことが起きたと思うだけで、情報を何も教えられません。叱ることが多ければ、号令を言われただけで嫌な気持ちになってしまう。

それでも、犬がいけないことをした時には、言葉をわかってくれるような気がしてつい叱ってしまうこともあるだろう。飼い主さんがなぜ叱るのか? それは犬を人と同じように見ているから。極端に言うと、『私と同じことができるはずだ』と犬に要求しているようなもの。これは擬人化といえるかもしれない。

犬は犬の常識しか持っていない。人が人の行動をすることが当たり前であるように、犬が犬の行動をすることが当たり前だと思えば、飼い主さんの悩みは大幅に減るだろう。なぜ甘噛みするのか? 叱ってもわからない? どうして吠える? 全て犬だから。動物種が違えば常識も行動も違う。

犬のことで悩んだ時は、擬人化をやめて犬への理解を深めよう。

 
何が違う?どう違う?犬と人の真・常識【トレーニング編】
 
Shi‐Ba vol.79『何が違う?どう違う? 犬と人の真・常識』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。