キュティア 老犬クリニックで学ぶ いとしのシニア犬ライフ

日々変化する愛犬を前に「今後どんなお世話をしてあげるといいの?」と不安を抱く方に読んでほしい。老犬介護のプロと介護真っ只中の飼い主さんの工夫と知恵をご紹介。

協力してくれたシニア犬

清沢はな(メス・1 6 歳)
キュティアの利用頻度月2回(鍼灸、整体)
「性格は内弁慶、ツンデレ。ベタベタされるのはあまり好きではないが、ほめられるのは大好き」と飼い主さん。
この1年で9キロだった体重は6.5キロになったものの、食欲は◎。食事内容はロイヤルカナンの消化器サポート、ササミ、豚ヒレ、さつまいもなどをあげている。2009年に骨頭切除。2019年に腫瘤切除。12歳で全身麻酔ギリギリのタイミングだったそう。同年12月に前庭疾患。2021年6月に認知症発症。

ご自身も14歳のメスの黒柴と暮らす横山先生。

「高齢になると前頭葉の萎縮により感情の抑制がしづらくなります。今まではいい子で我慢してきたことを『嫌なことは嫌!』と素直に表現しているだけ。

そんな犬の思いをくみ『今はわがまま、まぁ仕方ないよね。10何年もありがとう、お利口でいてくれて』という気持ちで接してあげてください。そうすると本当はこんなに甘えん坊だったんだ、もっと自由にこうしたかったんだね、というのがわかってきます。高齢になって性格が変わり、訳わからなくなっちゃった……と思わないでください。

自分は歩きたいのに体が思うように動かず、つい怒ってしまうこともあります。でも、『すごく歩きたい!』という思いが柴犬は強く、そういう気持ちを満たしてあげることがとても大切。こんなこともできなくなった……と思うのではなく、今まで我慢してきたのね、と考える。できなくなったことが怒りにつながるのも柴犬の犬種的特徴ですから」と先生は笑顔で話してくれた。

ところで犬種的な特徴といえば、スキンシップが苦手なことが挙げられる日本犬。キュティアでもマッサージを嫌がって逃げる子が多いそう。

「こんな場合は犬の方から飼い主に近寄り構ってほしそうな時に、遊びの感覚で背中をわしゃわしゃするだけでもOKです。耳の辺りまで動くほど、大きく皮膚を動かすことを意識してわしゃわしゃすると全体的に結構ほぐれます。背中をほぐすだけでも背中の筋肉と骨盤がゆるみます」

スキンシップ好きな子はここで紹介するマッサージを。苦手な子はご機嫌をとりつつ、ゴハンの前などに「いい子~」と言いながら、肩甲骨の辺りを撫でるだけでも良いそう。

「柴犬は他犬種に比べて丁寧なマッサージができないことも。簡略系で『こっちのやり方でもいいですよ』とお伝えすることもあります」

マッサージの効果

夜鳴きなどで吠えることが多いシニア犬は、吠えることで体に圧がかかり筋肉が固まっている状態なのでマッサージはこまめにやってあげよう。触られることで安心感も得られる

肩甲骨

肩甲骨部分に手を当て皮膚が動く位、手の平を毛先の上で滑らせるように撫でる。揉まないのがコツ。
力が入りすぎると犬の体にも力が入り、かえって体が固まってしまう。手を当て円を描くように撫でる。肩甲骨がゆるむと背中全体が緩むのでぜひやってあげて!

股関節

肩甲骨マッサージをやって全体がゆるんだら行う。力加減は肩甲骨マッサージと同様。股に手を挟み、その手で「の」の字を描くようにマッサージ。可能なら反対側も行おう。これで足のつっぱり感が取れてくる。

棒灸(鍼灸道具店やネットショップで入手可能)に火をつけ、人の手で温かさを感じる位置に、犬の体から10cm離してかざす。必ず上半身から下半身に向かうよう、棒灸を回しながら2 ~ 3分行う(下半身→上半身だと犬が温かさでのぼせるのでNG)。お尻周りを温めるだけでも膀胱炎の予防になる。

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棒灸(鍼灸道具店やネットショップで入手可能)に火をつけ、人の手で温かさを感じる位置に、犬の体から10cm離してかざす。必ず上半身から下半身に向かうよう、棒灸を回しながら2~3分行う(下半身→上半身だと犬が温かさでのぼせるのでNG)。お尻周
りを温めるだけでも膀胱炎の予防になる。

咬筋

写真のように胸、首、喉にかけても同様の力加減でマッサージ。咬筋や舌につながる筋肉がゆるみ、誤嚥防止にもなる。取材後、愛犬に毎日行っているが、噛んだり、飲み込むのが上手になってきた感じだ。

足先[抵抗運動]

足先マッサージもおすすめ。ただし無理に押さえつけないこと。犬がリラックスしている時に足先を触る。「いや!」と足を引いた時(=抵抗運動)が実はリハビリになっているので、様子を見ながら3~4回やってみよう。

ドライアイ

おでこと頬に手を乗せて上下に動かし、パチパチとまばたきの動きをさせるマッサージ。目の脂の分泌が悪くなるシニア犬は、ドライアイになりがち。
放置すると出血、角膜がくぼむ、穴があく、まぶたの癒着などが起きる可能性も。目の縁にあるマイボーム腺から出る脂の分泌を促し、目を脂でコーティングするマッサージを朝晩やろう。

便秘解消

おへそより下の腹部を時計回りにマッサージすると自然に腸が動き便が出やすくなる。やり方は股関節マッサージとほぼ同じ。それでも出ない時は肛門にワセリンを塗り、背骨の真下あたりの腹部を触ると溜まった便がわかるので、それを押すと自然に便が出る。

正しい抱っこ


自力歩行が難しい犬には体にフィットする布製の柔らかいハーネスがおすすめ。背に持ち手があると介助が楽。「ハーネスの取手を持ち、自分の体に犬を乗せる感じで抱きます。犬の脇の下がぶらんとなったり、首がぐにゃっとならなければ縦抱きでも大丈夫。腕だけで抱くと腕、肩、腰に負担がかかりますのでご注意を」

食の悩み

寝ている犬の飲食時に便利なシリンジは、口に入れやすい針先部分が長いものが◯。ちなみにはなが家で水を飲む時に使うのは、ノズルのついた洗浄ボトル。歯磨きが難しくなった子の口の洗浄にも便利。

誤嚥させないよう注意!
今まで通りに食べられなくなったら、飲み込みやすいとろみのついた物を与えよう。食べさせる時は顔を横にした姿勢をキープ。口の中の溜めておける部分に流し込み、いきなり喉に入ってしまわないようにする。起き上がらせた状態で流し込むと誤嚥の可能性が高まり危険。

また、健康状態は良いのに食べない場合は「温めたり風味をつけましょう。ノンオイル、ノン食塩のツナ缶や、スクランブルエッグの仕上げにごく少量の無塩バターで香りづけするのも◯。食べなくても水分はとり、下痢がなければ食べたいだけあげて大丈夫です。ドッグフードにこだわらず人も犬も食べられる食材をあげれば、犬が食べなくても人が食べればいいいので、食材の無駄もなくストレスがかかりません」

食べなくなった時に疑うこと
口の中に腫瘍がある、何かのストレスがある、舌の筋肉が固くなっているなどの可能性がある(P51の咬筋マッサージをすると舌の筋肉が柔らかくなる)。また、選り好みやわがままで食べないことも。「最も多いのは日中の活動量が減り、横隔膜の動きが弱まって胃の動きが低下し食欲が落ちるケースです。歩行が難しくなってきた犬は、車椅子を使って歩き始めると食欲が安定しやすいですね」

車椅子


犬によって体のサイズ、胸の深さ、胴や足の長さなどもバラバラなので、体にフィットするオーダーメイドの車椅子が絶対に良いそう。価格は4~5万円から。

排泄の介助法など

自力排尿が難しい子は1日1回は必ず圧迫排尿を行う。尿が溜まると腹部に水風船のような感触を得られるので、お尻の方に出すイメージで腹部を押す。

排泄コラム
自力排泄が困難なはなには、1日の内4~6時間おきの圧迫排尿と2回の排便を促している。「私は力が弱いのではなを足で挟んで固定し、主人ははなの体の横から足で支えています。老犬さんは意外と力が強いので油断できません(笑)」と奥様。

自力歩行や車椅子で自力排泄ができる場合でも、体幹の筋力の衰えによって十分な腹圧がかけられない子の場合は排泄介助が必要。おしっこが出ているようでも、1日に1回は膀胱がカラになるようにしないと膀胱炎を繰り返す可能性がある。股関節マッサージをした際、腹部を触ってチャプチャプとした水風船のような感触を得たら圧迫排尿をしよう。また足腰が弱ると便でお尻周りが汚れることも。そのたびに風呂場で洗うのも大変なので、100円ショップのドレッシングボトルにぬるま湯を入れ、汚れた所を流しタオルで拭くとお尻周りのケアが楽になる。人間用のポータブルお尻洗浄の器具を活用している飼い主さんもいるそう。

「いい子だね!」とほめながらお世話すれば愛犬も大満足♡

キュティアで整体も受けているはな。今回紹介してくれるのは過程で飼い主ができるマッサージだ。

愛犬と人のコミュニケーションを深めるためにも、ぜひ毎日無理のない範囲でやっていただきたいが、こんなことに気を付けてほしい。

「整体師は骨格や筋肉のことなど、細かいことを専門的に学んでいます。例えば肩甲骨の裏の筋肉までほぐすにはどこをどのように揉めば良いか、この筋肉がどの方向に動くのか、この関節の正しい動きはこの方向、などです。しかし、家で飼い主さんが見よう見まねで行うと剥離骨折を起こす可能性があります。整体を行う場合は、必ず犬の整体の専門家に施術してもらいましょう」 家で飼い主ができるマッサージを専門家から教えてもらい、整体としてのマッサージはプロに任せる、と分けて考えることが大切だ。

今回の取材で一番勉強になったのが、車椅子を使うタイミングについて。

「歩けなくなったら使うのではなく、まだ歩けるけれど足元がおぼつかない時期から早めに慣らして使うことをおすすめします。いざ使う時にうまく動けず『こんなの嫌だ』と怒ってしまう柴ちゃんが多いんです」 自力歩行が難しくなるとハーネスを使い体を吊り上げて歩かせることが多いが、これは大腿骨と股関節の動きを妨げる可能性があるそう。

「犬の車椅子はお腹を支えるので足を動かすことができます。自分の体を支えずに足の動きに集中でき、歩けると実感できるので自信にもつながります。特に柴犬は歩けなくなってからの生活が本当に長いんです」 車椅子を使う時に推進力として前足への負荷がかかり、疲労で前足がクロスすることがある。使用後は先に紹介したマッサージをして足の筋肉をほぐしてあげよう。

先生からメッセージ

日本犬の長い介護生活には飼い主の体力維持も不可欠!
「認知症になっても歩くうちは夜鳴きはしません。また躁状態で激しく興奮するのは、思うように体が動かずハイになっている可能性もあります。大切なのはとにかく運動。歩行困難な犬でも車椅子を使って歩かせてあげたり、大好きだった散歩コースに連れて行き若い頃の楽しい記憶を思い出させてあげてください。

歩くことで足裏からの刺激が脳へ伝わり、それがリハビリになります」 臓器年齢にしても筋肉がものをいう。若い頃からよく運動し筋肉がついた犬は、体調を崩して入院しても回復が早いそう。車椅子を使ってでも、とにかく歩くことが大切なのだ。

また、長い介護生活は飼い主の体力維持が最重要課題。例えばトイレに行った時に膝が前に出ないように鼠蹊部を引き、深くしゃがまずに3回スクワットをする。これだけで腰に筋肉がつき、無理のない姿勢でのお世話が可能になる。飼い主の体幹トレーニングは必須なのだ。

「認知症になっても飼い主のことは絶対に忘れません。犬は飼い主と共にあるのが幸せと感じる生き物です」 先生の言葉を励みに、シニア犬の飼い主さん、共に頑張りましょう!

 

監修:横山恵理先生

多くのシニア犬を診察し、飼い主の不安に寄り添いながら具体的な介護方法をアドバイス。
中医学を取り入れた治療も実践している。
キュティア老犬クリニック
神奈川県横浜市青葉区美しが丘4-7-28メゾンドアミ1F
☎045-903-1334
https://cutia.jp

Text:Mari Kusumoto
Photos:Minako Okuyama

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