自分の行動を見直してみよう!犬にとっての“優しい”って何だ?

日常の中で何気なく愛犬に行っていることは、本当に犬とって優しい行為なのか?

そんな風に考えたことはないだろうか。今一度、考えてみよう。

コミュニケーションやしつけの一環と考えて、日常生活の中で愛犬に対して行うことにはいろいろあるもの。それらの中には、飼い主側には全く悪気がなくても『犬にとって実は優しくない行為』があるかもしれないと聞くと驚く人もいるだろう。

近年「動物愛護」や「動物福祉」がよく取り沙汰されているため、叱るのではなく、望ましいことをしたらほめてあげる「犬に優しい」トレーニングなどが主流になっている。

ここで「優しい」と「甘やかす」との違いをまず理解しておきたい。
「犬が求めているものを約束ごともなく叶えてしまうのが『甘やかす』こと。人間社会で暮らすための約束ごとを守らせたうえで、叶えるのが『優しい』なのです」と堀井先生。

約束ごとというのは、例えば、散歩に行きたいと愛犬が吠えてアピールしてきたら「興奮している時は行かないよ、落ち着いたら行こうか」といったことである。

では、よくありがちな、実は犬にとって優しくない行為にはどんなものがあるのかを紹介していこう。

覚えておきたい犬のこと
OK
犬が望ましい行動をした際にほめれば、犬はまたその行動を繰り返すようになる。これを「正の強化」と言う。良い側面を伸ばしていく接し方は良好な関係性も築くことができ、飼い主も犬も豊かに暮らしていくことにつながる。

NG
トレーニングを行ううえで、叱ったり、体罰を使ったりするのは禁物! 犬のパフォーマンスが下がり、過度のストレスから行動が萎縮してしまうだけでなく、学習効率を低下させることも。お互いの関係性も崩れてしまう恐れがある。

コミュニケーション

強制に近い服の着用や写真撮影


愛犬のかわいいところやナイスなところをSNSにアップするためや撮影会などに参加するパターンも意外と多い。せっかく撮るならとあれこれ洋服を着せ替えたり、ポーズを決めてもらうのに「マテ」を何度もさせたり……。飼い主としては愛犬と一緒に楽しみたい! という思いでやっていることなのに、洋服を着ることやカメラを向けられるのを嫌がる犬も中にはいるのだ。

犬の気持ち:いつまでこれを続けるのぉ?

改善策
愛犬にも一緒に楽しんでもらうためには、まずは洋服を着ることや写真を撮られることを好きになってもらおう。洋服を着たら楽しい散歩に出かけられる、写真を撮った後に最上級のごほうびがもらえるなど、楽しいことやいいことが起こると結びつけてあげることが大切。

サークルに閉じ込めたままにする

共働きなどで日中はどうしても留守番をさせなければならない家庭もある。部屋で自由にさせておくと心配、愛犬の安全のために……とサークルに長時間閉じ込めたまま、というケースも少なくない。狭いサークルの中に長時間入れられ、そこから出ないと何も楽しいことが起こらないとなれば、当然だが犬もフラストレーションがたまってしまうというもの。

犬の気持ち:狭いし、ここにいても退屈だなぁ

改善策
サークルはできれば2畳分くらいのスペースを設けてあげるのが理想的。その中に寝床となるクレートやベッド、トイレなどを設置しておく。イメージとしては飼い主が中に入れる広さ。それが難しいなら、できる範囲で環境を整えて、愛犬の生活空間を快適にしてあげよう。

執拗なボディタッチや抱っこ

仕事や外出先から帰宅して「ただいまぁ~、寂しかったよぉ」と愛犬をギュッと抱きしめて、もふもふを感じたいという飼い主の気持ちはよくわかる。また、ふとした時にボディタッチしたり、子犬の時にありがちなのがずっと抱っこしていたり。犬としては仕方なく飼い主に付き合ってあげているという場合が少なくない。しつこいと犬側も次第に嫌がってくるもの。

犬の気持ち:少しならいいけどしつこいのは嫌!

改善策
ボディタッチや抱っこしている際に愛犬が絶え間なくどこかを舐めていたら、ストレスを感じているサイン。早くやめてあげよう。抱っこしている間に子犬が寝てしまったら、寝場所に戻ししっかり寝させてあげること。

寝ている犬にちょっかいを出す

ソファで気持ちよさそうに寝ている愛犬の横に座って、じっと見つめていたり、話しかけたり、触ったり。寝ているのを邪魔されるのは人間だって嫌なこと。それは当然犬だって同じ。ただし、寝ているだろうから朝も起こさないでおくといった過度な気遣いは、実は優しくない可能性も。犬はすでに起きていて散歩に連れて行ってもらうのを待っている場合もある。

犬の気持ち:気持ちよく寝てるのに邪魔しないで

改善策
明らかに寝息をたてて寝ている犬にちょっかいを出して起こすのはやめておこう。1日の生活スタイルの中でしっかり寝ている時間があるかどうかを把握しておくことで、声を掛けてあげるタイミングもわかるはず。

一方的な追いかけ

小さい子供がいる家庭ではありがちなのが、「遊ぼうよ~」と一方的に愛犬を追いかけ回してしまうこと。追いかけっことして犬も楽しんでいる様子があるならよいが、嫌がってひたすら逃げ回っているのであれば、それは犬にとって優しくない行為になってしまう。犬同士においても同じケースがある。

犬の気持ち:追いかけてくるのはやめて~!

改善策
追いかけた時に逃げるだけでなく、向こうからも追いかけてきたり、楽しそうにしていたら遊びになっていると考えてよい。犬の様子をよく見ておき、嫌がって逃げ回っているのを執拗に追いかけることはやめてあげよう。


怖がるものをしつこく見せる

愛犬が明らかに怖がっているものを、何度も見せておけばそのうち慣れるのではと勝手な判断で行うのは間違い。より怖がるようになるなど、逆効果である場合がほとんど。また怖がっている反応を面白がるのも優しくない行動。飼い主としては冗談のつもりでも、犬に冗談は通じない。冗談ではなく愛犬との関係性が崩れてしまう恐れもあるのだ。

犬の気持ち:もうっ、怖いのに……勘弁してよぉ追いかけてくるのはやめて~!

改善策
反応を面白がるのはとにかくNG。犬に優しい慣れさせ方を専門家に教えてもらおう。それでも成犬になると苦手なものをなかなか受け入れられないこともある。避けられるものであれば、避けてあげたほうが優しい場合も。

しつけ


コマンドを連呼する

例えば「オスワリ、オスワリ、オスワリして!」など愛犬が座るまでコマンドを何度も繰り返し言うことも実は優しくない行為のひとつ。いつもならすぐ座ってくれるはずなのに、普段と違う場所だとなかなか聞いてくれないと、伝わらないことに焦れば焦るほど、コマンドの口調も強くなっていないだろうか。

犬の気持ち:何度も言われて混乱しちゃう

改善策
まずは犬が理解しやすいようにコマンドを教えたうえで、犬が覚えていることが大前提。いつもはできるのに場所が違うとできないのであれば、飼い主側が普段と違う緊張感を持っていないかどうか、いつもは笑顔で言うのに真剣な顔になっていないか見直して、普段通りを心がけるようにしよう。

忘れないで!
「教えていることができない」と犬のせいにする前に、自分の教え方は間違っていないか、まずは考えるようにしたい。犬が覚えやすく、理解しやすい方法で教えてあげることが大事。

マズルをつかんで叱る

望ましくない行動をした際にマズルをつかんで叱るのは「嫌な思いをさせたら、次からはしないだろう」という考え。飼い主は犬のマズルをつかむこと=嫌がること、と理解して行っているはずなので、当然優しくない行為となる。恐怖や不安を与えるきっかけになるということを理解しておきたい。

犬の気持ち:つかまれるのは嫌だし、怖いよぉ

改善策
例えば、何かに飛びつこうとするのを咄嗟に止めるのであれば、マズルではなく胸のあたりなど犬が痛い思いをしない部分を持つなどしよう。それ以前に愛犬が飛びつく傾向があるとわかっていたら、あらかじめリードの長さを調整しておくなど工夫することが大切。もちろん、飛びつかないように優しくトレーニングすることが重要だ。

忘れないで!
何かをやめさせる手段に体罰を用いてしまうと、犬が恐怖や不安を感じるようになってしまう。その場合、下記のどちらかに。リスクがあるだけでなく、犬と楽しく生活することからかけ離れてしまうのだ。

恐怖や不安
やらないようになる or 抵抗して攻撃的になる

食事

食事前に必要以上にマテをさせる

ゴハンを目の前に置いて愛犬を待たせるという家は多いのではないだろうか。ただし、必要以上の長時間マテをさせるのは、犬にとってはストレスなだけ。「こんなに待てができて偉いね」というのは人間側の満足感でしかない。食事の前に待たせる本来の目的を見失わないように。

犬の気持ち:いつまで待っていたらいいの?

改善策
食事という犬が興奮しやすい対象に対し、吠えたり、ジャンプしたりするのを落ち着かせる目的がマッテにはある。そのため、落ち着いていたら長時間待たせる必要はない。興奮しているうちは食器を下ろさなければ、徐々に落ち着いてくる。

忘れないで!
「待っていたらいいことが起こる」のが本来のマッテ。お預け状態では、ただ我慢が続くだけでいらぬストレスがかかってしまうのだ。

×欲しいものを我慢する  ◎待ってたらいいことがある

食べないものをムリに食べさせる

介護や医療的なことでどうしても食べさせなければならない状況を除いて、単にゴハンをなかなか食べてくれないという場合に、ムリに口の中に入れて食べさせようとするのは犬にとっては優しくない行為となる。そんなことを行う飼い主の手を嫌がるようにもなりかねない。

犬の気持ち:今は食べたくないからやめて

改善策
食べないのが単なる嗜好性の問題ならば、フードが入った食器を下げて、次の食事時に出してあげる。お腹が空いていれば、食べてくれるはず。空腹時に食べるものをおいしく感じるのは人間も犬も同じ。与えないのはかわいそうと思うかもしれないが、結果的にそのほうが優しいのだ。なお、食事の置きっぱなしは食べ物が劣化し、食事のサイクルも乱れるので望ましくない。

散歩

飼い主がリードを強く引く


散歩中に愛犬が突然立ち止まってしまったり、飼い主が思っているのと違う方向へ行こうとする犬のリードをグイッと強く引っ張ってしまうことはないだろうか。この時、犬にかなりの負担がかかっている。リードを引っ張らないと愛犬をコントロールできないと考えてしまうこと自体が優しくないのである。

犬の気持ち:強く引っ張らないでよぉ

改善策
まずは、立ち止まっても声をかければ歩いてくれるように育てよう。

  • それでも何かしらの理由で歩いてくれない場合は、オヤツでつって移動させるのではなく、何も言わずに抱き上げて少し移動した所で降ろす。すると歩き始めることがある。
  • 自分が行きたくない方向だと犬が進みたがらない場合、一旦犬が行こうとしている方向に「行こう」と進み始める。そして飼い主に注目させながらUターンするというのもひとつ。
  • 愛犬からのアイコンタクトをスルーしていないか見直しを!リアクションしてあげなければ「飼い主を見ても楽しくない」と見てくれなくなる。一緒に歩くのは楽しいと覚えてもらおう。

フレキシブルリードの扱い

フレキシブルリードを正しく使っているだろうか。例えば、伸ばしていて他の犬に飛びついてしまいそうな時に突然ロックをかけたりすれば、犬の体に負担がかかる。また、何かの拍子に持ち手を離してしまい、カランカランと持ち手が追いかけてくる状態を犬が怖がってしまうということも少なくない。

犬の気持ち:急に衝撃があるとびっくりするよ

改善策
フレキシブルリードは通常のリードに比べ、ずっとリードが突っ張った状態を保つことが多いため、犬はリードを引っ張った感覚が当たり前になってしまう可能性がある。普段から引っ張り癖がある犬には、道路での散歩では使わないようにして公園や安全な場所で付け替えるようにしよう。突然ロックをしないためには、最初から長さを決めてロックしておくこと。

散歩にほとんど行かない

散歩は犬の運動欲求を満たし、飼い主とのコミュニケーションの機会のひとつでもある。散歩に行きたがっているのに、行かないのは犬にとって優しくない。ただし体調不良の場合や、犬によって外に行くことが怖い場合などは無理矢理連れて行くことのほうがかえって優しくないと考えられる。

犬の気持ち:散歩に行きたいのになぁ……

改善策
散歩は必ず毎日連れていかなきゃ! と強迫観念に捉われるのではなく、1週間トータルで考えるといいだろう。犬が行きたがっているのに飼い主が面倒だからと1週間のうち1日しか散歩に連れて行かないのは問題だが、悪天候だった場合に今日はやめておこうという判断は構わない。犬も気が乗らないのであれば、排泄だけして帰ってくる日があってもよい。

本当の優しさは何かをしっかり理解しておくことが絆を深めることにつながる

本当に日本犬に優しいポイント

日本犬は忠犬で、ご主人の言うことは聞くが、それ以外の人のことは聞かない、といったイメージがついている。そして、オオカミに近い犬種とされていたために、ひと昔前まではオオカミの群れ同様、日本犬の場合も縦社会(主従関係)をしっかりわからせないといけないと解釈されていた。

だが、近年、オオカミは家族という小さいコミュニティで強い絆を結んで生活していることがわかってきた。日本犬が家族以外の人にそっけないというのも、オオカミと同じく家族という小さなコミュニティを大切にしているからなのだと堀井先生は言う。

「そんな特徴をふまえて、家族という大事なコミュニティの中でしっかり絆を築いていくことは欠かせません。そして子犬の頃から、家族以外の人や犬と慣れさせたり、社会の中に溶け込めるように育ててあげるのが、日本犬にとっての優しい育て方なのです」

監修:堀井隆行先生
ヤマザキ動物看護大学動物看護学部動物人間関係学科講師。愛玩動物看護師。動物のストレス管理や行動修正を研究し、講演活動や動物病院での行動カウンセリングも行う。共著に『知りたい! 考えてみたい! どうぶつとの暮らし』(駿河台出版社)。

Text:Hiromi Mizoguchi
Illustration:Yuko Yamada

-柴犬, 気持ち