知って見つける私たちにできること 保護犬きほんの「き」①

保護犬を迎えたいと考えることはあるけれど、保護犬について、はたしてどのくらいのことを知っているのか。なんとなくはわかっていても、そこまで詳しいことまではわからないという人がほとんどではないだろうか。そこで、保護犬について基本的なこと、あらかじめ知っておきたいことを紹介しよう。

かつては犬を迎えたいと思ったら、まずブリーダーやペットショップを思い浮かべる人が多かったのではないだろうか。昨今は、動物愛護への意識の高まりに伴い、犬を迎える選択肢の中に、保護犬を候補に考える人が増えてきている。

ただ、かわいそうだからという安易な気持ちで迎えるのは間違いだ。もちろん、なかなか里親が見つからない保護犬を一匹でも多く救ってあげたい、家庭犬として人間との生活を楽しんでほしい、という気持ちもわかる。

しかし、本当にその保護犬の幸せを願うのであれば、その犬がこれまで抱えてきたことや性格などを理解したうえで、相性のいい家庭に迎えられるというのが一番なのである。

捕獲・保護した犬を里親募集し、譲渡まで進めるにあたっては、そう簡単なものではない。保護犬のことを熟知している、自治体の保健所、動物愛護センター、民間の保護団体、それぞれの努力が欠かせない。

保護犬を迎えたい、候補として考えてもいいかも、と思うならば、保護犬についての基本的なことをまずは知っておく必要がある。

ここではまず、ひとことで保護犬と言っても、さまざまな背景があることを理解しておきたい。

どんな原因で捕獲・保護されたのか。保護される前はどんな環境にいて、どんな生活をしていたのか。それによって、その犬の精神面や身体面、社会性などがわかってくるというものだ。捕獲・保護される主な原因ごとに紹介していこう。


野犬・迷子犬

野犬は飼い主がいない犬のことを示すが、迷子になったり、遺棄されたりで、野生化した犬が自然繁殖で産んだ犬が野犬となる。都会のように人が多い場所では迷子犬はすぐに保護されやすいが、自然が多い地域などでは野生化するケースが少なくない。

【精神】攻撃的ではなく人に対して怖がり怯えてしまう
保護するために捕獲された際、どうしても人に対して怖がって近づいてこない犬が多い傾向がある。過去に人から虐待を受けているケースもあり、怯えてしまう。基本的に自らが人に向かって攻撃的になることはない。しかし、散歩に連れ出すのに無理矢理、首輪を着けようとすると、防御性の威嚇行動や噛みつきなどの攻撃行動が見られることもある。

【身体】フィラリアや寄生虫に感染しているケースが多い
飼い犬の場合は飼い主によってフィラリアや寄生虫の管理をしてもらえる。だが、人に飼育されていない野犬や迷子になって見つけてもらえず野生化してしまう犬は、感染してしまうリスクが高い。また、野犬として子犬の頃に交通事故に遭ってしまい、骨折した場合にそのままにしておいたことで、骨が変形した姿になってしまっていることもある。

【社会性】少しずつ慣らしていけば受け入れてくれるように
自然繁殖で生まれて、親犬や兄弟犬と一緒に暮らしているところを保護されるケースだと、親犬や兄弟犬との絆が強い傾向がある。怖がりだが、少しずつ慣らしていけば新しい生活を受け入れることができる犬が多い。また、迷子犬の場合は、飼育されていた時の個性やクセが出ることもある。

 

繁殖引退犬

ブリーダーのもとで子犬を産むために飼育されてきて、繁殖という役目を終えた犬が繁殖引退犬となる。引退しても面倒を見るとなれば餌代などがかかる、法律によって飼育できる頭数に制限があるなどで、手放されて保護されるというケースは多い。

【精神】性格は多様でそれまでいた環境によっても違いがある
性格には個体差があり、明るく社交的な犬もいれば、繁殖場の環境によっては塞ぎ込みがちな犬もいる。交配の時と自分が産んだ子犬を取り上げられる時くらいしか、ほぼ人との接点がなく、特定の人からの愛情を受けていないことで表情が乏しく、人間に対して、特に男性に対して怯える犬もいる。

【身体】毛質の劣化や帝王切開の雑な手術痕などが見られる
繁殖場によっても違いがあり、劣悪な環境に置かれていた場合は栄養状態が悪く、フィラリアに感染していたり、毛質が劣化している犬もいる。繁殖犬のため不妊手術をされていないので、乳腺腫瘍を発症している場合も少なくない。また、帝王切開を行われた際の雑な手術痕が残っている犬もいる。

【社会性】基本的な社会化を行い少しずつ慣らす必要がある
塞ぎ込みがちな犬は、自分が何を求めても応えてもらえなかったことが重なり「学習性無力」と言われる状態になっていることがある。これまで特定の人間以外に出会ったことがなく、繁殖場以外の外の世界を知らないため、家族や散歩、他の人や犬などに慣らすための基本的な社会化が必要となってくる。

 

ブリーダー崩壊

経営が成り立たなくなり、それまで抱えていた犬たちの世話を放棄するブリーダーも少なくない。山の中などに犬舎を構えていたブリーダーが崩壊し、一気に500頭などかなりの頭数の犬たちが愛護団体によって保護されたケースもある。

【精神】初めて出会う人や音、物に怖がることもある
繁殖引退犬と同じで、驚くほど明るくて社交的な犬もいれば、特定の人としか接触してこなかったため、人間のことを怖がり、怯えている犬など性格はさまざま。それまで置かれていた環境によっても違ってくる。山の中の犬舎にいた場合は、街中の音や物などに怖がることも。

【身体】足の筋力の低下や重度の歯周病がある場合も
繁殖引退犬とも共通するが、ケージの中でしか過ごしてこなかった場合、足の筋力低下や膝蓋骨脱臼を起こしていることもある。保護された後、十分な散歩で筋肉をつけることで改善が見られる場合も多い。栄養状態が悪いせいで毛質の劣化が見られる、歯周病が悪化している犬も多い。

【社会性】繁殖引退犬と同様に人間社会への社会化は必要
ブリーダーのもとで常に他の犬たちと一緒に過ごしていた経験から、犬同士の社会化という面ではある程度学んでいることも多い。繁殖引退犬と同様に、さまざまな人間やこれまで知らなかった環境に少しずつ慣らしていかなければならない。ただトレーニングは比較的受け入れやすい傾向がある。

 

飼い主理由

一人暮らしの高齢者が飼い主だった場合、介護施設の入居にあたって愛犬を連れて行けない、病気で入院した、あるいは死亡したなどで他の家族が面倒を見られないというケースは多い。また、経済的理由や引っ越しなどで手放さざるを得ない場合もある。

【精神】甘えん坊な犬もいれば塞ぎ込んでしまう犬もいる
飼い主の事情で手放された犬の特徴としては、飼い主と別れたことのショックを引きずったまま塞ぎ込んでしまう犬も少なくない。これまで飼い主との家庭生活を送ってきた経験があるので、人に対して甘え上手だったりする犬もいるが、飼い主に対して依存していると留守番が苦手だったり、飼い主以外の人になかなか心を開いてくれなかったりするなど、個体差がある。

【身体】飼い主を失ったショックが体調に影響を及ぼすことも
飼い主との死別を経験した高齢犬の中には、心の拠り所としていた飼い主を失ったことによる精神的ショックなどから、それが体調にまで影響を及ぼし、里親に譲渡するよりも前に、保護されている段階で亡くなってしまうケースも。飼い主による多頭崩壊の中にはフィラリアを発症しているなど、ブリーダーの多頭崩壊や繁殖引退犬などよりも体調面に問題があることも少なくない。

【社会性】それまでに学習してきた問題行動が見られる場合も
人間との生活には慣れているものの、それまでの家庭内での飼い主との関係などから学習性に発展してきた、留守番ができない、要求吠えをするなどの問題行動を抱えていることがある。また飼い主以外の人に心を開かなかったりすると、イチから社会化を教えていく野犬などに比べ、それらの問題行動を改善するためのトレーニングに時間がかかることもある。


大きく分けて四つの原因からそれぞれの特徴について紹介してきたが、里親募集の時点で、どのような経緯で保護犬になったのかわからないというケースもある。抱えてきた背景がわからなくても、保護団体が里親を探せる段階まで基本的なトレーニングをしたり、ボランティアの預かり家庭での犬の様子などから、性格や特徴などがわかっていくもの。

その犬のことをよく知った保護団体が、その犬に合った家庭環境であり、里親と引き合わせるのはまさに理にかなっているのである。

「今回、日本動物愛護協会のご紹介で三つの保護団体さんから、実情についていろいろ伺いました。自治体の保健所や動物愛護センターで保護されても、すぐに里親が見つからない高齢犬や行動上に問題がある犬などもいます。

そういう犬を引き取って、里親を見つけるためにトレーニングやお世話をしている団体もあります。ただ、2020年6月1日から施行された改正動物愛護法によって、崩壊してしまうブリーダーが増え、保健所やセンターからの引き出しができないという問題も出ているようです」と茂木先生は言う。

動物愛護法とは、動物の健康、安全の保持のために適切な取り扱い方法を定めた法律。正式には「動物の愛護及び管理に関する法律」である。2019年6月に「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律」が公布され、2020年6月1日から段階を経て施行された。

一部業者による劣悪な飼育状況を改善することを目的として、ブリーダーが飼養できる、従業員一人あたりの上限頭数や飼養施設の広さや運動スペースが定められた。また、繁殖年齢や生涯出産回数についても改正が行われたのである。

そのため、繁殖引退犬を手放したり、飼育崩壊してしまうブリーダーが増えたというのが現状だ。こうした行き場を失った犬たちを引き取っているのが、保護団体なのである。

保護犬になるまでは、こうしたさまざまな背景があり、一匹でも多くの犬を助けるために自治体だけでなく、民間の愛護団体は保護や譲渡活動を行っている。

また、動物愛護法の改正によって自治体の保健所や動物愛護センターは、引っ越し先で飼えない、問題行動があるなど、飼い主側の身勝手な理由で引き取りをお願いされても、拒否することができる(※)というのも、ぜひ知っておきたい。

犬だけに限らず、動物を迎えたら飼い主は最後まで適切に飼養しなければならない責務があるのだ。

※自治体や保健所によって受け入れ基準が異なる場合があります。ペットの持ち込みを検討する際は、事前に保健所に問い合わせ、必要な手続きや条件を確認することが重要です。

 

保護犬と出会える場所

保護犬を迎えたいと思ったらどうすればいいのか。保護犬と出会える場所にはいろいろある。主な5つをあげてみた。それぞれの特徴や傾向を知っておき、あらかじめしっかり調べたうえで、自分に合った方法を選ぶようにしたい。

ライフスタイルに合った犬を迎えよう!

保健所・動物愛護センター

全国の自治体が管理している保護や譲渡を行う施設
全国の都道府県や市町村にある保健所や自治体が管理する動物愛護センター。かつては狂犬病予防法に基づいて殺処分なども行っていたが、現在は殺処分ゼロを目指し、捕獲・保護した犬を譲渡したり、飼い主都合による飼育放棄がないよう、適正飼養・終生飼養の啓発活動に力を入れている。

動物病院

待合室などに里親募集の情報が公開されていることも
動物病院に通う家庭の犬に子犬が何匹か生まれて、子犬の引き取り手を探しているケースもある。また、ワクチン接種や避妊・去勢手術、治療などを協力している保護団体からの依頼で、待合室に里親募集のチラシなどを掲示して、譲渡に関する情報を共有していることもある。

保護団体

民間が主催している愛護団体行政と連携している団体もある
保護犬の里親募集・譲渡活動を行う団体は、保健所や動物愛護センターなどと連携を図っている所も少なくない。行政に保護されている犬を引き出すことができる団体は行政から承認されていることが前提となっている場合が多い。規模やスタイル、譲渡の費用など異なるので、信頼できる団体を探すことが重要。

保護犬カフェ

カフェを訪れることで保護活動の支援にもなる
保護犬と触れ合える場所として、保護団体が経営していることが多く、売上を保護活動資金に役立てている。もちろんカフェにいる保護犬が譲渡へと進むこともあれば、保護犬を迎えたいけれど事情があって迎えられない人も、カフェを訪れることで保護活動の支援ができる場所にもなっている。

サイト・SNS

里親募集の専門サイトの他SNSで情報を掲載している場合も
民間の保護団体はホームページで里親募集中の犬の情報を公開しているが、個人など比較的小さな規模で活動しているところなどは里親募集サイトに情報を掲載していることもある。またSNSなどで呼びかけしていることもあるのでチェックしてみよう。ただし、トラブルが起こらないよう注意が必要。

保護・譲渡を行う団体もいろいろで、中には保護団体と名乗りながらそれを商売にしている場合もある。見極めるための主なポイントは上の通り。問い合わせした際の対応の様子からわかることもあるので、どんな団体かよく調べておこう。

本当にあった驚きトラブル

譲渡希望する柴犬の特徴を知らないことが要因
先住犬がいることで犬の飼育経験があり、譲渡にあたっての各条件もクリア。柴犬を希望していたので、柴犬についての基本的なこと知っているのかと思っていたところ……。トライアルを始めてしばらくして、「毛が抜けるから」という理由でトライアル中止の申し出が。先住犬が抜け毛の少ない犬種だったことで、柴犬がここまで毛が抜ける犬種という認識がなかったのだとか。そんな予想外のトラブルが起こることもあるのだ。

監修:茂木千恵先生
動物行動学者。獣医師、博士(獣医学)。東京大学大学院農学生命科学科獣医学博士課程卒業後、ヤマザキ動物看護大学にて勤務。2023年に株式会社モンパニエ動物行動学研究室を開設。コンパニオンアニマルの行動研究、治療カウンセリングなどを行っている。
https://www.companion-animalbehavior.jp/

取材協力
柴犬レスキュー (Dog Shelter Osaka)
https://www.instagram.com/dogshelter_osaka/#
Dog Shelter
http://dogshelter.jp
わんにゃんサークル結生(ゆい)
https://wannyanyui.my.canva.site

Text:Hiromi Mizoguchi Photos:Miharu Saitoh Illustration:Yuko Yamada

Shi-Ba Vol.133『知って見つける私たちにできること 保護犬きほんの「き」』より抜粋

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