知って見つける私たちにできること 保護犬きほんの「き」②

保護犬を迎えたいと考えることはあるけれど、保護犬について、はたしてどのくらいのことを知っているのか。なんとなくはわかっていても、そこまで詳しいことまではわからないという人がほとんどではないだろうか。そこで、保護犬について基本的なこと、あらかじめ知っておきたいことを紹介しよう。

里親になるには?

里親を希望しても、それぞれの団体ごとに譲渡を受けるための条件が定められている。団体によっても異なるが、里親を希望した時に主にどのようなことを聞かれるのか、知っておきたい。

◎犬の世話をする人の年齢や同居家族構成
譲渡を受けられるのは60歳以下と具体的に年齢制限を設けている場合も多い。散歩を行う必要があるし、もし飼い主が先に亡くなってしまうと、犬たちの過ごす環境が何度も変わってしまうことに。同居家族がいれば代表者になってもらうことも可能。

◎動物アレルギーを持っていないかどうか
家族の中に1人でも反対する人がおらず、全員が保護犬を飼うことに同意しているのはもちろんだが、家族に動物に対するアレルギーを持つ人がいないかどうかも大切なこと。あらかじめわかっていたら、聞かれた際にはきちんと答えたい。

◎一緒に暮らしていく居住環境について
持ち家で戸建てなのか。集合住宅や賃貸住宅の場合はペット可の物件か。もし、今後引っ越し予定がある場合、引っ越し先がペット不可の物件で飼育できなくなるようなら譲渡は難しい。万が一の場合の安全対策や脱走防止対策ができるかを確認することも。

◎適正に飼い続けられる経済力があるのか
犬を飼うには現実問題としてお金がかかるもの。食事、お手入れなど日常のケアだけでなく、ワクチン接種などの病気予防や治療などの健康ケア。これから十数年、共に暮らしていくにあたって、十分なケアを与えられるだけの経済力があるのかは重要。

◎緊急時に面倒を見てくれる存在がいるか
もし、飼い主が入院した、事故に遭ったなどで犬の世話ができなくなった場合に、犬を引き取ってくれる存在がいるのか。同居家族がきちんと世話をしてくれるのであれば別だが、緊急時に受け入れてくれる後見人のような存在は大事。

日本犬の特徴をしっかり理解しておくこと!
紹介した“驚きトラブル”のようなことがないよう、日本犬の里親を希望するのであれば、特徴を把握しておくことは大切。換毛期だけでなく日常的に抜け毛が多い。トレーニング次第ではあるが、迎えてしばらくは家でトイレができていても、やがて外でしかしなくなる犬もいる。そうなると暴風雨の中でも排泄のために外に出る必要がある。また、アレルギーによる皮膚トラブルや高齢になると認知症の問題もあるが、適切な処置や対応によって予防やコントロールは可能だ。

 

トライアル中やお迎え初期のOKサインとNG行動

トライアル中や迎えた当初は特に犬の様子を注意して見ておきたいもの。シーン別にリラックスできている犬からのサインと飼い犬が気をつけておきたい行動を紹介。

散歩の時

犬が飼い主に対して目線を送るのは、飼い主に意識を向けているということ。目が合ったタイミングでオスワリさせるなどしてほめてあげる。目が合うといいことが起こると教えていくことで信頼関係を育んでいける。

◎アイコンタクトをする

×苦手なものから抱っこで移動

【対策】その場で通りすぎるのを待つ
苦手なものに出会った際に抱っこをすると、困った時は抱っこしてもらえると思ってしまう。通りすぎるのをおとなしく待たせ、できたらほめる。

◎歩調を合わせて歩ける
人と一緒に歩くことを知らないと、最初のうちはなかなか歩こうとしない犬もいる。そんな場合は家の中でリードを着けるなどして、少しずつ一緒に歩く練習を。この人のそばにいれば楽しいし、安心できると思ってもらえれば、人と歩調を合わせて歩けるようになってくる。

×落ち着かない
外に出るとテンションが上がってしまい、車両などと突然すれ違うと飛んで逃げようとして危険なことも。聞き慣れない音や小さな子供の声に反応して落ち着かない場合もある。

【対策】時間や場所を選ぶ
興奮したらリードを短く持つなどして落ち着くまで待つ。興奮の原因が明らかなら、それに出会わない時間帯や場所を選ぶのも大事。

 

他の犬と過ごす時

◎パーソナルスペースを取る
日本犬は近づかれることに敏感な犬が多い。ほどよいパーソナルスペースを取り、先住犬もどちらもが食欲不振など体調不良にならず、受け入れ合っている様子ならひとまず安心。

×すぐ出会わせる
先住犬とこれから生活していくうえで、別々の部屋でそれぞれを過ごさせるのは難しい。だが、連れてきてすぐに先住犬と会わせるのはNG。翌日から少しずつ合わせる時間を延ばしていくこと。

【対策】先住犬の癖を確認しておく
どちらかに食べ物やモノに執着する性質があるとケンカの原因に。どんな相手にもグイグイ積極的に寄ってくるなど、先住犬の性格や癖を確認しておくことが大事。

 

留守番の時

×食べない、飲まない、動かない

留守番中、出かけた際の体勢のまま動いていない、置いてあったオヤツも飲み水にも手をつけていない場合、新しい生活環境で留守番に慣れていないことが原因と考えられる。

【対策】徐々に留守番に慣らす
最初は留守番の時間を短くして、少しずつ時間を延ばしていく。出かける前に大好きなものを食べさせておき、大騒ぎせず静かに家を出るように気をつけて。

×家の中をフリーにする
留守番時に限らず、普段から家の中でフリーにしておくと、誤飲誤食やいたずらをしたり、トイレトレーニングができていない場合は排泄の問題が出てくる場合がある。

【対策】落ち着ける場所を用意
クレートに入ることに抵抗がない犬であれば、留守番時や人が目を離す際にはクレートの中で過ごさせる。あるいはひと部屋だけ自由にさせる空間にして、モノは置かないなど環境を整えておく。

 

来客時

◎普段通りに楽しむ

普段からよく来客があるのならば、トライアル中でも、いつも通りに来客を迎え入れたい。ただし、いきなり出会わせず、最初はケージ越しや犬を別の部屋に待機させてから、徐々に犬のペースで動くのを見守るようにしていく。

×距離を縮めようとする

来客側から距離を縮める行動はしないこと。咄嗟の動きに犬が反応する場合もあるので、動く際はゆっくりと。犬が別の部屋から出たがらないのであればそのままで、無理はさせない。

 

帰宅時

◎喜んで出迎える
家族が帰宅した時に、喜んで玄関先まで来てくれるのであれば、帰ってきた側もうれしいもの。また、直前まで寝ていたのがわかるようなしょぼしょぼ顔で出迎えてくれるというのも、留守中に不安なく過ごせていたことがわかる。

◎寝ていて反応しない

帰宅しても出迎えもなく、部屋に入ると気持ちよさそうにグーグー寝ている姿というのも、すっかり新しい家になじんで安心しきっていると言ってもいい。もちろんこれは食欲があり、散歩も元気に行き、健康面に問題がないというのが大前提。

×玄関先での興奮させる触れ合い

家族の帰宅時に喜んで出迎えてくれるのはよいサインのひとつだが、興奮のあまり、テンションが上がりすぎて興奮排尿(いわゆるうれション)をしてしまう場合には対策を。

【対策】排泄を促してから触れ合う
出かける時と同様、帰宅時も大げさにしないこと。うれションするとわかっていたら、排泄を促してからか、トイレシーツの上で触れ合えば失敗をさせずに済むだろう。

 

里親を募集している犬の中から気になる犬を見つけたとしても、すぐに里親申し込み手続きができるわけではない。

まずは譲渡を受けられる条件を満たしているかが重要。条件が定められているのは自治体や民間に関係なく、ほとんどの施設が同じである。そのうえで次に面談を行う。

「家族構成や生活環境、経済力など、いろいろ聞かれるのは面倒だと思う人もいるかもしれません。でも、これは日本に限らず、欧米の保護施設などでも同じです。それだけ譲渡先を慎重に選ぶのは、里親のところから、また施設に戻ってこないためにも大切なのです」

飼い主となる人のライフスタイルを聞き、例えば山登りなどアウトドアが好きだったとする。そして里親を希望していた犬がもしおとなしい性格なら、アクティブな性格の他の犬を勧める。それは犬だけでなく飼い主のためでもあるのだ。お互いが楽しく快適に暮らしていくことが大切なのだから。

そして譲渡の条件も満たし、その家庭に合う犬が見つかったら、次にトライアルを行うことになる。その期間は団体によっても違いがあるがだいたい二週間程である。

その家に慣れてきて、最初はかしこまっていた犬も少しずつ素が出てくるのがおよそ二週間後。トライアル中は毎日連絡を取って、どんな様子か報告をすることで、困ったことがあれば相談に乗ってくれたり、フォローしてくれる。特に問題が発生しなければ、正式な譲渡となる。

先住犬がいるなら、面談時に連れて来てもらう場合が多い。先住犬の性格もその犬と合うか合わないかのポイントとなる。面談時に問題がないと思っていても、トライアル中に先住犬の食欲が落ちるなど不調が見られれば、トライアルは中止だ。保護犬が、先住犬のQOLが下がる原因となってしまっては全員が幸せにはなれないのである。

末永くよろしく!

保護犬を迎えるにあたって大切にしたい十戒

1 保護犬になるまでの経緯にはいろいろあることを理解しておく。

2 迎えたい犬の犬種による特徴を事前にしっかり調べよう。

3 犬のことを大切にして真摯に向き合っている保護団体を見分ける。

4 経済面や年齢など譲渡を受けられる条件を満たしているかを確認。

5 人と暮らしていくために欠かせないトレーニングを行うことは大事。

6 迎えた犬が生活の中で安全・安心できる環境を作ってあげること。

7 緊張は犬に伝わる。自信を持って犬と向き合ってあげること。

8 トライアルで先住犬に健康障害が出たら、迎え入れは諦めること。

9 どこから迎えても命は平等。どの犬も幸せになる権利は同じ。

10 迎えた犬は最後までしっかり面倒を見るのが飼い主の義務。

 

愛犬との運命的な出会いというのはある。それがどんな出会い方であっても、何らかの縁があってつながったと言えるだろう。

保護犬をめぐる背景にはいろいろあるというのを理解してもらえただろうか。そのうえで保護犬を迎えることを考えてほしい。

トライアル中や迎えた当初は「大丈夫かしら」と緊張してしまうかもしれない。そんな緊張は犬にも伝わってしまうもの。

迷わず、自信を持って犬に向き合ってあげよう。第二の犬生を有意義なものに変えていってあげたいと願う、積極的な気持ちがあれば、お互いが素敵な時間を過ごせるはずだ。また、保護団体や動物病院など犬のケアを行っているところから、必要な情報やサポートが得られることを覚えていてほしい。

そして、保護犬だからということに限らず、どこから犬を迎えたとしても、みんな命は平等だということを忘れてはならない。自分が迎えた犬を最後までしっかりと面倒を見て、幸せにしてあげる義務を負っていると覚悟を持っておくことである。

監修:茂木千恵先生
動物行動学者。獣医師、博士(獣医学)。東京大学大学院農学生命科学科獣医学博士課程卒業後、ヤマザキ動物看護大学にて勤務。2023年に株式会社モンパニエ動物行動学研究室を開設。コンパニオンアニマルの行動研究、治療カウンセリングなどを行っている。
https://www.companion-animalbehavior.jp/

取材協力
柴犬レスキュー (Dog Shelter Osaka)
https://www.instagram.com/dogshelter_osaka/#
Dog Shelter
http://dogshelter.jp
わんにゃんサークル結生(ゆい)
https://wannyanyui.my.canva.site

Text:Hiromi Mizoguchi Photos:Miharu Saitoh Illustration:Yuko Yamada

Shi-Ba Vol.133『知って見つける私たちにできること 保護犬きほんの「き」』より抜粋

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