いい子の裏で抱えるストレス「犬のしんどい」を見逃すな!

嫌なことがあっても表に出さずに我慢してしまう。そんな愛犬を「手がかからなくて良い子」と決めつけていないだろうか? 我慢の裏でストレスが募っている、なんてこともあるかもしれない。

 

日本犬は我慢しがち?

我慢強いというイメージがなんとなくある日本犬。しかし、茂木先生いわく「日本犬は自分の感情を表に出しやすく、さらにその感情の通りに行動するタイプが多い」そう。ただし、飼い主との関係性がしっかりできていて、社会化が十分にされていれば、慣れない環境に置かれたとしても、過度に興奮したりといった行動が少なくなるという。

日本犬のおもなストレスサイン

ストレスレベル低

ホエールアイ(くじらの目)は、直視できないけれど様子をうかがいたい時に見られるしぐさ。かわいいと思ってしまいがちだけど、ストレスサインであることも多いので要注意。

ホエールアイ

あくびが増える

その他のストレスサイン

・体が固まる
・突然においを嗅ぎ出す
・足で体を引っ掻く
・ 空腹ではないのに舌舐めずりをする など

 

ストレスレベル中

シッポの付け根や足先を舐める転位行動、突然オモチャを壊したり、飼い主の持ち物を噛んだりする破壊行動などが見られるようになる。食欲の変化もストレスサインのひとつ。

シッポを巻き込んだままになる


その他のストレスサイン
・ひとりで寝ている時間が増える
・ 前足やシッポの付け根を舐める
・食欲が落ちる
・異嗜 など

 

ストレスレベル高

ウロウロと落ち着きなく歩き回っている、今までできていたトイレができなくなった、今まで吠えなかったのに吠えるようになったなどは、高いストレス状態となる。

ウロウロと歩き回る

その他のストレスサイン
・うまく寝られない
・トイレを失敗するようになる
・吠える、唸る回数が増える
・その場から逃げる、隠れる など

 

キケン!!!

相手を噛む攻撃行動、ヨダレを垂らしながら呼吸が荒い状態などは、ものすごく高いストレスがかかっているサイン。すぐに生活環境を整えるとともに、専門家に相談しよう。

相手を噛むなどの攻撃行動

その他のキケンなサイン
・ヨダレを垂らして息遣いが荒い
・プルプルと震えている
・下痢、嘔吐が続く など

日本犬のストレス耐性

感情に正直な犬種でもストレス耐性が低いとは限らないそう。飼い主との関係性、育て方の他、同じことに対してストレスを感じるか否かは個体差が大きい。しかし、柴犬は社会化期が他の犬種と比べて短いので、ストレス耐性をつけるのが難しい点はある。

日本犬は総じて、好き嫌いをはっきりと表出しやすい。また猟犬として働いていた由来を持つため、周囲の状況に敏感に反応するタイプが多い。これは事実だ。そういった意味では、ストレスを受けやすい犬種とも言える。だからこそ飼い主は、苦手な物事を受け流せる寛容さを持った犬に育ててあげなければいけない。

「苦手なことがあっても落ち着いていられる。多少のストレスを受け流せることは大事ですよね」

そのために必要なのが〝適切な社会化〞であり〝犬と飼い主がしっかりとした関係性を築くこと〞だ。

「また、日本犬の習性に合わせた飼育環境を整えることも大事です。健康を害するほどストレスを感じている場合、原因となる不快な刺激の他、乱れた環境がストレスの背景となっていることが多いです」

ゆっくり休める場所がない、十分な食事や運動を与えられていない、といった乱れた飼育環境だと、ストレスが犬に蓄積する。そうすると、些細な刺激も大きなストレス要因となり問題行動に発展してしまう。

日本犬がストレスを感じやすいシチュエーションを列挙する。気付かないうちに愛犬にストレスを与える環境となっていないか、今一度確認しよう。

室内

ひとりの時間が極端に少ない
同居動物や子供がいて、落ち着けるスペースがない、欲しいオヤツがもらえない、など自分の大事に思うものを誰かと分け合わなければいけない状況はストレスとなる。

家族のケンカや不機嫌な空気
繊細で敏感な日本犬は、家族の空気感が違うことや、めったにない大声にストレスを感じやすい。不機嫌の原因が自分かも? と思って萎縮してしまうケースもある。

同居動物が死んでしまった
同居動物は長年一緒に暮らしていた仲間。仲間が減るのは群れの防御力が下がることなので、危険を感じることからストレスに。遊び相手がいなくて寂しい思いも。

他の動物を新しく迎える
他動物に慣れていないと怖がったり、混乱する場合がある。飼い主が構ってくれる時間が減り、ヤキモチを妬くことも。慣れるまでは留守番は別の部屋でさせるほうがよい。

アラームや緊急警報の音
突然鳴る大きな音を不快に感じるケースは多い。また、驚きすぎてトラウマになることも。飼い主がオロオロする様子を感じ取って、自分も不安になる子もいる。

後輩犬を新しく迎える
活発な子犬により自分のペースで休息できず、ストレスを感じるケースが多い。先住犬の様子を飼い主がよく観察し、ストレスサインが出たら子犬と離してあげること。

 

屋外

過度の外出で休めない
若い犬ならばともかく、高齢になると疲れやすくなるので、長時間の運動はストレスに。人や他犬が多いイベントやオフ会はストレスを高めることも。

しっかりとした運動ができていない
猟犬の歴史を持つ日本犬は、それなりの運動量を必要とする。散歩だけでなく、週に1度はフリーで走る日を作りたい。散歩に早歩きの時間を取り入れるのも◎。

大きな音や雷が突然聞こえる
外からの大きな音は「音によって自分が危険にさらされるのかわからない」ので不安が募りやすい。雷などは家の中で犬が隠れられる場所を用意しておくとよい。

知らない人や子供との触れ合い
知らない人は、基本的に苦手とする犬が多い。予測不可能な動きをする子供や、ずかずかと近寄ってくる相手は特に苦手。嫌がる愛犬を無理に近づける必要はまったくない。

車や電車など乗り物への搭乗
耳の三半規管や、加速・減速時のアンバランスな体感、交通量の多い場所での物音など、ストレス原因になることも多い。クレートに慣れていないとクレート自体もストレスに。

加齢によって動きが制限される
できていたことができなくなる葛藤、視力低下で周囲がわからなくなる恐怖などがある。足腰が弱った場合、同居犬のペースに合わせた散歩がストレスになることも。

 

では、なぜ「犬としっかりした関係性を築く」ことが、ストレスを受け流すことにつながるのだろうか。

具体的な例を出してみよう。例えば、苦手なものに対して犬が吠えそうな時。それを察知した飼い主がマテの号令をかける。関係ができている犬は、自分の吠えたい欲求よりも飼い主の号令を優先できる。それは飼い主の号令に従った方が良いことがある、と知っているからだ。繰り返していくうちに、嫌なことや苦手なことを受け流せるようになる。

「この『従えば良いことがある』と犬に信じてもらえる関係であることが、何よりも重要なんですね」

反対に、号令で抑圧しすぎてしまうとストレスの原因になることも。

「運動欲求の強い犬種なのにずっとツケで歩かせたり、ゴハンの前に無用の長いマテをさせたり……。日本犬の習性に合わない我慢は、欲求不満を募らせてしまいます」

犬との関係性を悪化させるだけでなく、些細な刺激でもストレスを感じるようになる可能性も高い。

「ストレスは、犬のしぐさや体調に現れます。ストレスサインを見逃さないことが大事です」

この後にストレスチェックリストを掲載しているので、気になる飼い主はチェックしてほしい。

 

愛犬ストレスチェックリスト

60点満点

ストレスレベル低×1点
□何かから顔を背けつつ、横目で眺めている
□突然、においを嗅ぎ出すことがある
□突然、前足で体をひっかくことがある
□突然、体が固まる
□お腹が空いていないのに舌舐めずりする
□眠くないのにあくびの回数が増える
□突然、床やソファを掘り始める
□突然、後ろ足で体をひっかく
□体が濡れていないのにぶるぶると震わせる
□体を低くさげて重心が後ろになる
−−−−−−−−−−−−−−−−−10点

ストレスレベル中×3点
□シッポを巻き込んだままの状態になる
□寝ている時間が増える(活動量の低下)
□前足や尾の付け根を舐める時間が増える
□食欲が落ちる
□食欲が増加し、今まで食べなかったものを食べるようになる(異嗜)
−−−−−−−−−−−−−−−−−15点

ストレスレベル高×7点
□ウロウロと落ち着きなく歩き回る
□うまく寝られない様子がある
□今までできていたトイレを失敗するようになった
□吠えたり、唸ったりする回数が増える
□その場から逃げたり、隠れたりする
−−−−−−−−−−−−−−−−−35点

【すぐに獣医師や専門家に相談を!】
□ヨダレをだらだら垂らしながらハアハアしている
□ぶるぶると震えている
□下痢、嘔吐が続く
□相手に対して噛むなどの攻撃行動に出る

点数について

0~2
ストレスが少なく、快適な生活環境。このままキープしてあげて。

3~20
若干ストレス気味。不安の原因を突き止めてストレスを減らそう

21~30
かなりストレスフル。すぐに生活環境を見直してあげたほうがよい。

31以上
獣医師や専門家に相談して、すぐに生活環境改善を図るべし。

まとめ

ストレスサインが出たら 犬の生活に介入して改善を

「何がストレスになるかは個体差があります。何時間以上の留守番はダメということではなく、犬の様子を見て判断してください。できたことができなくなった、しなかったことをするようになったなら、ストレスが隠れている可能性が高いです。日常の変化を見逃さないでください」

現代社会では、犬がストレスをまったく受けない生活は難しい。大事なのは、犬が感じたストレスの原因を突き止め、持続化・慢性化させないことだ。

「ストレスサインが出たからと言って、すぐに『ストレスを感じさせてしまった……トラウマになるかも』と悲観する必要はありません。ストレスに気付いたら犬の生活に介入し、改善を図ってあげることが大事なのです」

Text:Eriko Itoh Illustration:Yuko Yamada

監修:茂木千恵先生
動物行動学者。獣医師、博士(獣医学)。東京大学大学院農学生命科学科獣医学博士課程卒業後、ヤマザキ動物看護大学にて勤務。2023年に株式会社モンパニエ動物行動学研究室を開設。コンパニオンアニマルの行動研究、治療カウンセリングなどを行っている。
https://www.companion-animalbehavior.jp/

Shi-Ba Vol.129「いい子の裏で抱えるストレス「犬のしんどい」を見逃すな!」より抜粋

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