愛犬と問題なくスキンシップをとれているだろうか。健康チェックを行う際に必須となるスキンシップをスムーズに行うためのポイントを知っておこう。
Text:Hiromi Mizoguchi Photos:Masayuki
Satoh撮影協力:スタディ・ドッグ・スクール
触って得られる健康メリット
早期発見
体の隅々まで触れることで、皮膚に炎症が起きていないか、痛がっているところがないか、などのチェックでき、病気やケガの早期発見につながる。
予防
体を触られることを嫌がらなければ、足拭きやブラッシング、歯磨きなど、健康管理に大切なお手入れもスムーズに行える。病気予防に役立つというもの。
スキンシップを兼ねて、愛犬の体を触ることを習慣化しておくのは大事だ。
「自分から甘えてきた時は撫でさせてくれるのですが、ブラッシングとかは嫌がって逃げちゃいます」という話をよく聞く。
「それは当たり前のことなのです。犬も自分が望む時であれば、触ってもらうことは嬉しいですし、触ってほしくない時は嫌なもの。日頃の愛犬への接し方の中で、飼い主さんが気づかないうちに、体を触られることを苦手にさせている可能性もあるのです」と鹿野先生は言う。
愛犬の健康チェックをするには、体に触られることが大前提となる。苦手にさせないためには、どんなことに気をつけておけばいいのだろう? 日頃の接し方を見直してみよう。
大好きな飼い主に体を撫でてもらうと幸せホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」の分泌が促され、犬は心地よさを感じると言われている。だがこれはあくまでもリラックスしていて、犬が触ってもらいたいと思っている時に限られる。触ってもらいたくない時に触られれば、逆にストレスを感じてしまう。お手入れをはじめとする健康管理は犬が触ってほしいと思っていない時に行う場合が多いため、日頃から慣らす必要がある。
「犬は上から覆い被さられたり、頭の上に急に手を出されたり、不意に掴まれたりすることが苦手。そんな人間の動作は、犬に脅威を与えてしまうことになるのです。犬は1 m以内に焦点を合わせにくいと言われています。目の前に出たものをしっかり認識できないため、手が近づくのを嫌がるのです」
そんな犬の習性を理解し、触る際には決して無理せず、ごほうびを使って行うことが大切と鹿野先生。
「犬がじっとしていたくない時に無理に行おうとするから、より嫌な印象を与えてしまうのです。散歩や食事も済ませた後、犬がリラックス状態の時にスキンシップの時間を設けるようにするといいでしょう」
日本犬は拘束されることを苦手とする犬も多い。ベタベタし過ぎないようにして、適度な距離感を持つことも必要だ。愛犬の様子を見ながら、楽しくスキンシップに慣らしていくようにしよう。
散歩後の足拭きは「指の間に何か挟まっていないか」「足を触って痛がることはないか」をチェックできる。ごほうびをあげながら、拭くことに慣れさせていこう。
ごほうびの食いつきが悪い場合は、愛犬にとってより嗜好性の高いものを見つけるところから始めるとよい。
やりがちPOINT
ゴシゴシ強く拭かない
足を強く握ったり、ゴシゴシ拭かれることが足拭きを嫌がることにつながる。アスファルトを歩いた程度なら、サッと拭くだけで十分。
この時、足は胴体に対して前か後ろに持ち上げて、手早く済まそう。
散歩に出る際、リードの装着を嫌がって毎回追いかけっこになっている、というケースは少なくない。ごほうびに夢中になっている間に、手早くリードを取り付けるとよい。
拒否反応を示す場合は、ごほうびの見直しを。
やりがちPOINT
無理に捕まえない
逃げ回る犬をつかまえて取り付けることを続けると、より苦手になる場合がある。日々行う動作なだけに、犬に「リードを付ける=ごほうびがもらえる」という意識づけをすることで、スムーズなスキンシップへとつながる。
ハーネスの着け方
ハーネスを利用している場合も多いが、ハーネスを嫌がるのであれば、形状を見直してみよう。
体を持ち上げて足を通すタイプではなく、写真のように足を浮かせなくても装着できるものであれば、頭を通す際だけごほうびをあげながら着けることが可能だ。
撫でられるのが気持ちいいと思ってもらうことがまずは大切。十分に遊んで、ゴハンも食べた後が狙い目。
犬は運動欲求も食欲も満たされると睡眠欲求が出てくるので、眠くてリラックスした状況の時に、体を撫でる習慣を設けるようにしよう。
やりがちPOINT
上から覆いかぶさって撫でない
左の写真のように犬は上から覆い被さられたり、頭の上に突然手を出されることが苦手。上の写真のように犬の横に座って、さりげなく撫でてあげることを心がけておきたい。
動物病院で診察台に乗せるなど、愛犬を抱っこする機会は意外とあるが、拘束されることを嫌がる犬は多い。体の横からお腹の下に腕を通して、自分の胸にしっかり抱き寄せることを意識しよう。長く続くオヤツなどを舐めさせながら行うのも、もちろんOK。
やりがちPOINT
正面から持ち上げない
撫でる時と同様に、抱き上げる際も犬の正面から覆い被さるようにしないこと。右の写真のように犬の横から持ち上げるようにすることがポイント。
長く続くオヤツを舐めさせながら、優しく毛並みに沿って行おう。拒否反応が出にくい、背中や脇腹から始めるのがオススメ。
ブラシそのものを嫌がる場合は、普段からブラシを見せながらオヤツを与えたり、慣れるためのステップを踏もう。
やりがちPOINT
強くやりすぎない
毛がよく抜けるからと力を入れてしまい、痛くてブラッシングが嫌になってしまうケースも多い。痛くないよう優しくブラッシングするように心がけて。
おすすめのブラシ
スリッカーは本来、毛のもつれを取るもので、ブラシの先端が曲がっているため、正しく使わないと痛がってしまうことが多い。柴犬ならばピンブラシやラバーブラシがオススメ。ブラシ選びも慣れさせるための重要なポイントとなる。
歯ブラシにおいしい液体状のごほうびを付ければ、舐めることで口の中に自然に歯ブラシが入る。口の中に入るのを抵抗しなくなったら少しずつ動かして磨いてみよう。上唇をめくる際は優しく内側に巻き込むとスムーズだ。
やりがちPOINT
ごほうびは終了後ではなく同時に
歯磨き後にごほうびをあげるのではなく、1人が液体状のごほうびを入れたコングを舐めさせ、もう1人が歯ブラシを当てるのも一手。
歯垢を取るのが目的だが、まずは歯磨きをしていると「いいことがある」と認識させるのが先決だ。
難易度高エリアの触り方
顔周りに手が近づくのを苦手とする犬は多い。触る際には、必ず長時間持つごほうびを舐めかじりさせながら優しく触るのがポイント。
シッポや足先も、犬にとって触られるのが苦手な部分。顔周りと同様に、長く持つごほうびを与えながら、触られることに慣れさせよう。
触られることが好きになるかは日頃の接し方次第
ず犬はどんな習性があって、どのような触れ合い方を苦手とするのか。
それを知っておかなければ、どんなに慣れさせようとしてもなかなか上手くはいかないもの。何気なくやっていたことが、愛犬に苦手意識を持たせていることも。
日頃のスキンシップ方法を見直し、愛犬が触られることを好きになれば、よりスムーズな触れ合いが実現する。それが健康チェックの第一歩へとつながるのだ。
スキンシップにうってつけ
嗜好性の高いごほうび
ごほうびへの反応が薄い場合は、あまり嗜好性の高いものを使えていないことも。
ごほうび選びを見直すことから始めたい。嗜好性の高いものとして主に以下の3つが挙げられる。
● 加工されていないお肉(干し肉、茹でササミ など)
●発酵食品(犬用チーズ など)
●水分含量が高いもの(液体状オヤツ など)
監修:鹿野正顕先生
学術博士。
麻布大学介在動物学研究室 (旧 動物人間関係学研究室)にて、人と犬の関係学の分野で日本初の博士号を取得。
スタディ・ドッグ・スクール代表。
スタディ・ドッグ・スクール 神奈川県相模原市中央区氷川町3-3 コーポオクモリ1F
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