どんなことにだって理由がある! そう、愛犬の動物病院嫌いだって生まれつきなんかじゃない。過去の経験が、病院に対するイヤなイメージにつながっていることが多いのだ。
病院ギライになる原因
慣れない環境で“イヤなこと”を体験
初めて行った場所で不快な思いをしたら、「場所」と「感情」が結びついてしまうのは、犬も同じ。そのため、病院で「爪切りで出血して痛かった」「保定されてイヤだった」などと感じる経験をすると、「病院=イヤな場所」という図式が出来上がってしまう。
また柴犬の場合、瞬間的な痛みだけでなく、保定などの拘束感も不快につながりやすい。「痛い思いをさせなければ大丈夫」というわけではないので、注意が必要だ。
獣医師やスタッフとのコミュニケーション不足
動物病院によっては、診察や治療の効率が重視され、獣医師や動物看護師と犬とのコミュニケーションが不十分な場合がある。犬にも個性があるため、獣医師にいきなり診察されるのを受け入れられる犬ばかりではない。
特に日本犬のように警戒心が強い犬にとって、よい関係をつくるための働きかけがないまま、強制的に診察や治療が行われるのは大きなストレス。繰り返されることで、どんどん病院が嫌いになっていってしまう。
不安を感じている状態で長居させられる
動物病院が嫌いな犬にとって、苦手なのは診察そのものだけではないことも多い。獣医師や動物看護師との相性がよくないのかもしれないし、病院の雰囲気に不安を感じている場合も。
診察や治療以前に、知らない犬や人に囲まれて待合室にいることがつらいのかもしれない。犬が落ち着かない時は、屋外や自家用車の中で待たせてもらうなど、「苦手な場所から離れる」工夫をしてみても。
病院ギライを加速させるNG行動
1「病院に行くよ」と予告する
動物病院が嫌いな犬に、「今日は病院だよ」などと言い聞かせるのは逆効果。これまでの経験から「イヤな所に行くんだ」と察し、不安や不快感を募らせてしまう。動物病院へ行くことを、わざわざ犬に予告する必要はない。
2 飼い主がピリピリして犬を叱る
動物病院での犬の問題行動は、不安や恐怖が原因。周りの目を気にして叱ると、犬は「病院は飼い主が怒る場所」と感じ、ますます病院ギライになってしまう。飼い主の心理状態は犬にも伝わるので、まずは飼い主自身がリラックス。犬が周りに迷惑をかけてしまった時は、犬を叱るのではなく、飼い主が周りの人に謝罪しよう。
3 病院に行くために特別なことをする
動物病院に行くためにクレートに入れる、といった「特別なこと」を行うと、犬の気持ちをどんよりさせる。普段からクレートに入れて楽しい所へ連れていくなど、「クレート=病院」といったネガティブな紐付けをさせない工夫が必要。
病院ギライを克服するためにできること
病院が嫌いな理由がわかれば、改善策も見えてくる。ただし、「嫌い」を「イヤじゃない」、さらに「好き」に変えるためには時間も必要。愛犬のために、焦らずじっくり取り組んでほしい。
スペシャルなオヤツを持参する
動物病院に行く際は、犬が大好きなオヤツを持参。病院の許可が得られれば、着いた時や診察後などに病院内で食べさせる。通院のたびに繰り返すことで、「イヤな所」から、「スペシャルなオヤツがもらえる所」へとイメージが変わっていく可能性がある。
この時のオヤツは犬にとって魅力的なものを選び、通院時以外には与えないようにする。ただし、緊張や不快感が強いと、大好きなものでも病院内では食べようとしないこともある。その場合は、病院に入る直前と、出てきた直後に与えるようにするとよい。
診察・処置しない時に病院へ
犬が動物病院に行くのを嫌がるのは、これまでの経験から「イヤなことしか起こらない所」だと思っているから。そのイメージを変えるには、「行ったけれど、イヤなことは何も起こらなかった」という経験を重ねる必要がある。おすすめは散歩コースに動物病院を組み入れること。
最初は前を素通りするだけでよく、抱っこをしたりキャリーに入れてもOK。慣れてきたら病院の前で立ち止まり、オヤツをあげるなどの楽しい経験をさせるのも有効だ。「病院前まで行く」ことにストレスを感じなくなるだけでも、大きな前進となる。
愛犬の「安全基地」になれる関係づくり
動物病院は、検査や治療を受けるために行く所。残念ながら、犬にとって不快な部分を完全に取り除くことはできない。不安が高まって犬が病院内で攻撃的になってしまう状況は避けたいが、そういった行動を見せる場合は専門家に相談してみることも検討しよう。
飼い主は、犬の不安・不快感が高まる診察時などに、「この人が近くにいれば大丈夫!」と愛犬が思えるような「安全基地」になることが理想。成犬になってからの行動修正には専門的な技術も必要なので、専門家に頼りつつ、お互いの関係性を見直すことも大切だ。
日本犬は危機察知能力がとても高い犬種。一度でも不快な思いをすると「これって次に怖いことが起こるヤツじゃん!」などと予測して、拒否するようになってしまう。
忘れてはいけないのが、犬には治療の価値がわからない、ということ。「我慢すればよくなる」と考えて痛みや恐怖に耐える、などということはできないのだ。また、「そのうち慣れる」というのも勘違い。イヤなことの場合、慣れて受け入れるようになるどころか、繰り返すほど不快感が強まるだけだ。
診察台を怖がるなら上にいる時間をできるだけ短くする、獣医師に保定されるのを嫌がるなら飼い主がサポートをする……。診察や治療をスムーズに進めるには犬を安心させ、ストレスを減らす工夫をするほうが有効なので、主治医に相談を。
同時に、病院ギライを根本から改善するため、病院が「イヤな場所」という思い込みを変えていく取り組みも必要だ。愛犬が「動物病院って実は楽しい所かも?」と思えるようになる日まで、努力あるのみ!
Text:Kumiko Noguchi Photos:Miharu Saitoh、Teruhisa Tajiri
Shi-Ba Vol.131「上手につきあう動物病院」より抜粋