柴犬が日本犬ということはわかっていても、仲間にどんな犬種がいるのか知らない人もいるだろう。
秋田犬・甲斐犬・紀州犬・四国犬・北海道犬をよく知る飼い主や専門家のアンケートをもとに「日本犬あるある」をまとめた。
彼らの魅力に気づいてほしい!
ドッグトレーニングインストラクターから見た日本犬
【性格】犬種や原産地によって違いがある
日本犬と言っても犬種によってある程度の傾向が見受けられます。
秋田犬=最近はおとなしく甘えん坊の犬が増えました。柴犬みたいに座り込むと動かない犬もいます。
甲斐犬=中型日本犬の中ではおとなしい犬が多い。気性の荒い犬は最初から雰囲気でわかりやすいと思います。
紀州犬=他の犬とは打ち解けにくい印象があります。
四国犬=おとなしくてやや怖がりの犬が多い一方、荒々しいタイプもいるようです。
北海道犬=おとなしい犬から飼い主さんも手を焼く犬まで幅があります。もともと道内の原産地ごとに系統の特色があったからでしょう。
【暮らし】大人になれば無駄なことをしなくなる
チャイムの音や通行人に吠えたとしても、吠え続けることは少ない印象です。気に入った場所を占有する犬も多いので、家の中を自由にさせておくと飼い主さんがそこへ入れなくなることが……。
子犬の頃のじゃれ噛みに悩む飼い主さんは多いのですが、犬はポジティブな気持ちを向けているだけなので遊びに転用することをおすすめします。一方、大人になれば特に用事がない時は無駄なことをしなくなり、普段はどこにいるかわからないほど静かに過ごす犬も多いですね。
【コミュニケーション】自立性の高さを生かした対等な付き合いを
子供代わりや生きたマスコットではなく、一個の動物同士として対等に付き合えるのが最大の魅力です。よくも悪くも自立性が高いことが特徴で、飼い主さんの生かし方で長所にも短所にもなります。
日本犬の場合、間違ったしつけ方がそのまま飼い主さんと犬の対立につながることが多いです(飼い主の都合ばかりを押し付ける→言うことを聞かない→強い声で号令→唸る→叱る、というような悪循環)。柴犬を迎える飼い主さんには初心者の方もいますが、中・大型日本犬は特性を知ったうえで飼う方が多いと思います。
【健康】少食の原因は食生活にあり?
日本犬にありがちな食の細さは食生活に原因があることも。成長期を過ぎれば食欲が減退するのは自然なことですが、心配した飼い主さんがあれこれ手をかけるほど選り好みをするようになってしまいます。
また、必要な食べ物が常に保障されている状態では、ごほうびにも興味を示さなくなる犬もよく見かけます。もし犬に教えたいことがあるなら、主食はすべてトレーニングに使いましょう。ただし食事前のオアズケはトレーニングではありません。待たせるほど「ゴハンをもらえないのではないか」と不安感が募り、時には攻撃行動につながります。
【飼い主あるある】なんだかんだ言って忠犬に憧れがち
「日本犬は飼い主に忠実」という言葉が過剰に強調されてきたため、飼っているだけで忠犬になると勘違いしている方も少なくありません。社会化トレーニングなどをしなかった昔に「飼い主には忠実で他人に慣れない」と誤解されて忠犬像が広まったのでしょう。
家族と他者(子犬の頃になじんだ人とそうでない人)を区別し、親しさをランクづけするので、犬が信頼を寄せている人から見れば忠犬に映るかもしれません。犬種の特性や愛犬の個性のよさを引き出せる飼い主さんになってほしいと思います。
山下國廣先生
日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)卒、獣医師。犬のトレーニング、問題行動治療を行う「軽井沢ドッグビヘイビア」主宰。家庭犬のしつけ指導から作業犬の訓練まで、 幅広く活動している。災害救助犬としても活躍した甲斐犬のすぐり(オス)と、15年7ヶ月を共に過ごした。
軽井沢ドッグビヘイビア
☎0267-25-6831
karuizawa@mbm.nifty.com
https://www.karuizawa-dogbehavior.com
「中・大型日本犬あるある」には、当然ながら柴犬との共通点も多い。
秋田犬・甲斐犬・紀州犬・四国犬・北海道犬は少数派であるがゆえに同犬種にはなかなか会えず、柴犬の輪にさりげなく入っていることがある。適度な距離感を保てる柴距離は日本犬共通で、「話が通じそうだ」と思うのかもしれない(あっという間に決裂するのもあるある)。
本特集で紹介した中・大型日本犬に会ったことがないという人もいるだろう。ただし希少価値があるかのようにプレミアム犬種扱いするのは誤りである。迎え入れる家庭が少なく、頭数が減っているのが理由だ。
絶滅危惧種で知られるコアラの頭数は、少なく見積もっても約十万頭だという。一方、紀州犬の十年間の登録頭数(日本犬保存会発表)を計算したところ、合計で3292頭。甲斐犬・四国犬・北海道犬も似たり寄ったりで、頭数が比較的多い秋田犬を含め、日本で生きている中・大型日本犬を全頭合わせてもコアラに及ばないかもしれない。
昭和時代に日本犬は絶滅の危機を乗り越えて六犬種は復活を遂げたが、残念ながら純血種が絶滅した中型日本犬もいる。「越の犬」である。本記事で初めて知った人もいるだろう。ある日、仲間がいなくなってしまうのは寂しいものではないか。
柴犬はもちろん、秋田犬・甲斐犬・紀州犬・四国犬・北海道犬は熱心な飼い主や愛好家が支えている。これからも愛すべき彼らを囲んで
「日本犬あるある」と盛り上がれる日が続くよう願ってやまない。
Text:Shio Kaneko Illustration:Yuko Yamada
Shi-Ba Vol.133『長所も短所もひっくるめて迫る!中・大型犬の日本犬あるある』より抜粋