寡黙なイメージがある日本犬だが、愛嬌いっぱいに看板犬をこなす犬もいる。そんな日本犬と出会うために、和歌山の動物園と京都の老舗和菓子屋を訪れた。
動物園の紀州犬
さつき(メス・6歳)あやめ(メス・6歳)
紀州犬の魅力を知ってもらうために迎えられた2匹は、その穏やかで愛嬌がある性格で、あっという間に人気者になった。誕生日には多くのメッセージが寄せられる。

1左がさつきと飼育員の山根さん。右があやめと飼育員の湯浅さん。2匹の世話は飼育員が交代で行っている。人に迷惑をかけないようなしつけは徹底している。
和歌山城公園動物園
和歌山県和歌山市一番丁3番地
入園料/無料
開園時間/ 9:00 ~ 17:00
休園日/ 6 ~ 9月、12 ~ 2月の火曜日(祝日の場合は直後の平日)
和歌山城公園動物園は、城の敷地内にある全国でも珍しい動物園だ。大正時代の開園以来、無料で運営している。園内では哺乳類や鳥類、爬虫類などが飼育されていて、ペンギンを近距離から見られたり、動物にエサやりができる親しみやすい動物園だ。
看板犬は紀州犬のさつきとあやめ。紀伊半島一帯で猟犬として活躍した紀州犬は、一人の飼い主にだけ懐くイメージがあるが、二匹は人が大好き。飼育員を見つけると、シッポを振りながら挨拶をしてくれるのだという。
「めちゃくちゃ人懐っこくてかわいいですよ。最初はカバンに入るくらい小さかったらしいですが、あっという間に大きくなりました」と笑うのは飼育員の山根さん。
二匹が生活する場所は、動物園の事務所の前にある木製のテラス。一日の大半を、そこでくつろいで過ごす。
しかし飼育員がリードを外した瞬間、途端に活発に変わる。ぴょんぴょん跳ねるように、じゃれ合うのだ。さつきは運動神経抜ぐん。頭脳派のあやめは、疲れたら椅子の上に逃げて休憩する。お互いが怪我をしないように気遣いながらも、無邪気に遊ぶ姿は子供のようだ。
時々和歌山市が主催するイベントの目玉として参加したり、広報紙に載ることもある。地域に役立つ仕事もこなしている二匹の生活をのぞいてみた。

2匹のワンプロは飼育員が止めるか、あやめが飽きるまで続くそう。

撫でられた時のうれしそうな表情がたまらない。

飼育員が描いた2匹のイラストが、動物園の園内マップに掲示されている。
仕事をしたり、遊んだり充実した毎日に感謝
8時に飼育員と散歩した後はゴハンを食べて遊び、9時にテラスで日向ぼっこ。1日約3回の日向ぼっこ中は、2匹でワンプロしたり各々で遊んだりと自由に過ごす。飼育員とのコミュニケーションやゴハンの時間もしっかり確保。2匹が好きなボール遊びをしたり、好物のサツマイモをもらったり。食べて遊んで仕事して、忙しい1日だ。

アメリカンミニチュアホースも人気。他にもカピバラや、フクロモモンガ、オカメインコ、孔雀など、
かわいい動物がたくさん! いろいろな動物とふれあい体験ができる。

フンボルトペンギンは近距離から見られる。トコトコ歩く姿やクールに泳ぐ姿は必見。

2匹はとても多才だ。オスワリやオテだけではなく、タッチまでこなす。
二匹の楽しみは散歩だ。城の周囲を歩きながら、飼育員さんが「お散歩楽しいワン」とアフレコをして遊ぶこともある。二匹も時々、飼育員を見上げて応える。明るい性格で、仕事で疲れている時には元気づけてくれるそう。
取材中、観光客の男性が「きれいな犬ですね。本物は初めて見たなあ。和歌山に来てよかった」と話しかけてきた。さつきとあやめに会うために近隣だけではなく、県外からも人が訪れる。誕生日にお祝いのメッセージを園内で募集すると、飼育員の予想をはるかに上回る数のメッセージが集まった。
そんな二匹のメインの仕事は、ふれあい体験だ。場所は動物園内の水禽園入口前。平日は一日一回、土日祝は一日二回。撮影当日は近所の幼稚園が、遠足で訪れていた。
10月下旬だったこともあり、ハロウィンの衣装を着た紀州犬が現れると「わんちゃんだ!」と子供たちの輪がすぐにできた。飼育員の誘導で順番に触っていく。最初は大きな犬に戸惑っていたが、徐々に慣れていった。
「二匹を撫でた人たちが、満面の笑顔に変わるのがうれしくて。こういった体験を通じて、紀州犬や動物を好きになってほしいです」
二匹はまさに「お客様にいい思い出をつくってほしい!」というような表情。その大きな体とは裏腹に、かわいらしい性格のギャップ。そしてバリバリ仕事ができるときたら、そりゃあ人気者になるはずだ。
地域を明るく照らす、甘えん坊の白い犬

ふれあい体験の時間になると、仕事モードになる2匹。お客さんを楽しませるために集中。季節によって変わる衣装も楽しみ。

飼育員の網本さんとも仲良し。ふれあい体験の時は、この台の上に乗る。

オモチャで遊ぶのも好き。この時は子犬のようにはしゃぐ。
Text:Daizo Okauchi Photos:Miharu Saitoh
Shi-Ba Vol.134『愛され看板犬がいる所 はたらく日本犬』より抜粋