ボディランゲージをはじめとする犬からのサインを読み取れるようになると、犬とのコミュニケーションにおおいに役立つ。犬からのサインを見逃さないためにも、あらかじめ理解しておきたい。
犬が得意なこと理解してね!
得意①その場の空気を感じとっていつもと違うことを把握
例えば、飼い主が緊張している、家族が喧嘩しているなど、何だかいつもと様子が違うなと読み取ることは得意だ。だが、空気を読みとった犬が人の求めているような行動をするかどうかは別である。
得意②相手をよく観察して動きからも読みとっている
相手が人でも犬でも、その動きを読むのも得意。これまでの経験から学習していることが多いが、例えば飼い主が洋服を着替えたから、どこかに出かけるのだな、とソワソワしたりするのもそのひとつだ。
不得意:文字だけでなく人の言葉を使うやりとりはできない
文字でのコミュニケーションは全くとらないだけに、文字の概念を持たない。
いつも話しかけられる言葉と、その結果起きることと関連づけて学習していれば音として覚えるものはあるが、基本的に会話は難しい。
犬とのコミュニケーションがスムーズにできたら、と願う人は多いはず。そのためには、犬たちのコミュニケーションの方法を理解しておきたい。
コミュニケーションにおいて犬が得意なこと、不得意なことは上で紹介した通り。
「私たち人間でも、一緒にいる人が急いでいそうな雰囲気を感じたら、相手に合わせて急ぐようにしますよね。犬もその場の空気や相手の動きなどから、いつもと違うなということは読みとっています。でも、急いでいる時ほど言うことを聞かない、ということもあったりして、必ずしもこちらが求めている行動をしてくれるとは限らないのです」としつけインストラクターの長谷川あや甫先生は言う。
これらを踏まえたうえで、次のページでは犬たちのコミュニケーションの方法をまとめてみた。
今回詳しく紹介していくのは、近くの相手に対して犬が送るボディランゲージ。これらには自分や相手を落ち着かせ、トラブルを防ぐ役割がある、犬が生まれつき備えているカーミングシグナルや人との暮らしの中での体験や学習から得た行動なども含まれている。
犬からのサインに気づくためにも、しっかり把握しておきたい。
犬のコトバって?
犬たちのコミュニケーションの方法にはいろいろある。ボディランゲージは近くの相手に対して
使うものだが、遠くの相手などその場にいない相手に対して行うものもあるのだ。
遠くの相手に対して
人の場合は電話やメールなどで遠くの相手とコミュニケーションがとれるものだが、犬の場合は音(声)やにおいがあてはまる。
●遠吠え
犬同士、遠くの相手とのコミュニケーションのひとつとなるのが、声を出して知らせる遠吠え。
●においつけ
犬はにおいから多くの情報を得ている。自分のにおいを置いておくことで他の犬へ情報提供となる。
●排泄
ボディランゲージにもあるが、においを置くことでその場にいない相手に対する意思表示の意味も。
近くの相手に対して
近くの相手に対しては犬も人と同じく表情、しぐさ、行動を使ってのボディランゲージでコミュニケーションを取っているのである。
※興奮や緊張などが入り混じった、不確かな感情を抱いている状態を示しています。
基本の接し方
はじめて会う犬と接する際に気をつけておきたいことを知っておこう。また愛犬に対しても注意したいことがある。
いずれの場合も犬に対して不安を与えないようにすることが大切だ。
対 はじめての犬
●まずは飼い主に確認する
まずは飼い主に「撫でても大丈夫ですか?」と確認する。ただし飼い主が許可しても犬がOKとは限らない。
●犬から近づいてくるのを待つ
犬を直視しないように、その場で待つ。この時はしゃがまずに、体はやや傾ける程度に。犬のほうから近づいてきて、こちらの体や手のにおいを嗅いで、犬が緊張していなければ次のステップへ。
●ごほうびを食べさせる
犬を直視しないで「こんにちは」と優しく犬に声を掛けながら、体をやや傾けて手の甲のにおいを嗅がせたり、飼い主からもらったごほうびを食べさせる。
●触る際は手の甲で首の横を
犬が後退りすることなく、ニュートラルな状態かを確認。触る際は写真のように。いつまでもしつこくは触らないこと。
注意
対面した際の犬のボディランゲージなどをよく見ておくことは必要。次のような場合は注意しておこう。
●興奮状態では触らないこと
興奮して飛びついてくる犬には、すぐ触るとそれがごほうびとなり、飛びつきが強化されてしまう。また、緊張が高まる可能性も。犬が落ち着いてから、挨拶を。
●近づいてこないならやめておく
犬が静止したり、体が引いていたり、近づいてこないなら、こちらに興味がないか、緊張していることが考えられる。無理にこちらから近づこうとしないこと。
対 愛犬
●触る際はまず声を掛けてから
いくら飼い主であっても、突然触られるのは愛犬でも驚いてしまうもの。ひと声掛けてから触るようにしよう。また、触ろうとした際に犬が後退りしたらやめておく。
●離れようとしたら拘束しない
愛犬が離れようとしたら、しつこく絡むのはやめておこう。そこから離れるということ自体が「もういいです~」と犬が送っているサイン。無理強いしないこと。
●絶対NG
上から覆いかぶさる
大きな身振り手振り
上記の動きは、「この人嫌なことをするかも」と犬に対して不安を与えることになるので、決してやらないこと。自分からずかずかと近づいて行くのは警戒させてしまうことにもなる。
はじめて会う犬に対して、どのように接しているだろうか。愛犬が他の人に対して平気だったとしても、出会った犬が同じとは限らない。もちろん中には誰からでも体を撫でてもらうことが好きという犬もいるが、興奮して2足歩行で近づいてくる場合は、落ち着くのを待って接すること。
相手の犬が明らかに後退りしていたり、体が固まって動かないようなら、無理に接するのはやめておこうと思える。しかし、愛想を振りまいた状態)だと、喜んでもらえていると思って、つい手を出してしまいがちだ。人間であったらどうか考えてみよう。“愛想を振り舞く状態”というのは、相手に対してどこか落ち着かない気持ちがあったりしないだろうか。犬の場合も、興奮や緊張などが入り混じった、何か不確かな感情だと考えられるのである。この後から紹介するボディランゲージなども含めて犬の様子をよく見ておきたい。
はじめての犬と接する際に、まず直視はしないこと。そして屈まない。屈むと顔が近くなることで、犬が緊張してしまう可能性がある。また、屈むと最後には立ち上がらなければならないので、その動きを怖がる場合もある。
上記を参考にして基本の接し方ができたら、あまり長くそばにいないことも大切だ。犬の中には自分から近づいたけれど、緊張が高まってきて、その場から離れるタイミングを逃し、留まらざるを得なくなった場合もある。こちらが動くのではなく、飼い主にごほうびなどで犬を誘導してもらうといいだろう。
飼い主が愛犬に接する際も、突然の大きな身振り手振りや、普段しないことをすれば犬は不安を感じて警戒するものだ。上で紹介しているように声を掛けてから触るのはもちろん、犬がどんなサインを送っているのかを読みとってあげよう。
犬が発するサイン
犬が発するサインでは、ひとつの行動に対していろいろな意味を持つ場合がある。周りの環境、前後の状況など考慮して、どんな意味があるのか考えてあげよう。
①目線・顔逸らし
相手と向き合ってい る際などに視線を逸らしたり、顔ごとそっぽを向けるしぐさ。
・敵対心は持っていないと示している。
・「もうこれ以上は無理です」と拒否している。
・ 気になるものやにおいを感じたので、単にそちらを見たり、鼻を向けている可能性も。
②口をもごもごさせる
下記⑫のように舌がペロっと出ていなくても、口をもごもごして舌先がわずかに出ていたりすることもある。
・ 何か食べた後でもないのにしていたら、緊張や居心地の悪さを感じている。あくびをした後でこのしぐさをすることもある。
・単に食べたオヤツが挟まっている場合も。
③目を細める
目を細めるしぐさにも、サインとして送っている場合もあれば、生理的な場合も考えられる。
・敵対心を持っていないと示している。
・緊張している。
・ 風が強い日なら、目の中にゴミが入らないようするために目を細めている。
・太陽が眩しい。
④体をブルブルさせる
緊張していた状態から、自分の気持ちを解放させるのによく見られるしぐさ。
・気持ちを切り替えるために行う。
・ あまりに緊張していると体が固まって動けなくなることが多いので、ブルブルができるのは緊張のピークは過ぎている。
⑤草を食む
突然、それまでと全く関係ない行動をすることも明らかなサインのひとつ。
・ 緊張や居心地の悪さで、どうしていいかわか
らないから、気分転換に草でも食べるか、とい
う状態。食べたくて食べるわけではない。
・単に食べたい草を見つけたという場合も。
⑥フセる
カーミングシグナルのサインとしてフセる頻度は少ないが、じっと様子を見ている可能性もある。
・ 向こうから来るものに対して、緊張して様子見している。いざとなれば飛びかかれる体勢でもある。
・単に疲れていて動きたくない場合も。
⑦立ち止まる
立ち止まっている時の犬の状態によって、単に立ち止まっているのか、そうでないかの違いがある。
・ 緊張や警戒がある場合は、体にも緊張が見られる。気になるものを見つけた時も、ある種の緊張状態なので同様に見える場合も。
・ 単に立ち止まっている場合は、体にしなやかさがあり、筋肉の緊張が見られない。
⑧瞬き
③ の「目を細める」同様に、サインとして意識的に瞬きをしているものと生理的なものとがある。
・敵対心は持っていないと示している。
・太陽が眩しい。
・ 自分に対しても「落ち着こう」と言い聞かせている
・目にゴミが入ったり、違和感がある
⑨プレイバウのように前足を伸ばす
子犬なら遊びを誘っていることもあるが、成犬は相手の様子を見ている場合もある。
・緊張から解放された時に行う。
・遊びに誘っている。
・相手に敵意はないことを示している。
・単に寝起きで伸びをしている。
⑩前足をあげる
オスワリを教えた際に前足があがったままで、ほめていたらそれを覚えてしまっている場合もある。
・緊張や居心地の悪さを感じている。
・足が痛くて違和感がある。
・足を置いた場所が濡れていたなど、たまたま嫌な場所だった。
⑪パンティング
ハアハアと浅く速く呼吸するのがパンティング。緊張や興奮している時以外にもよく見られる。
・緊張している、興奮している。
・運動した後で呼吸が乱れている。
・気温が高いので、体の熱を逃がしている。
・吐き気がある。
⑫鼻を舐める
ペロッと素早く舐めるのは、カーミングシグナルの場合もあるが、状況によって意味にはいろいろある。
・ 緊張している自分にも相手にも「落ち着こう」と言い聞かせている。
・ 単に鼻水や口まわりについたオヤツを舐めている。
⑬あくび
大きく口を開けてするものもあれば、下を向いて小さな口でする場合もあったり、いろいろある。
・ 自分に対しても、相手に対しても「落ち着こう」と言い聞かせている。
・吐き気がある時も見られる。
⑭耳をペタッとする
愛想を振りまいている状態だけでなく恐怖や不安を感じている場合もある。耳以外の動きも確認を。
・ 愛想を振りまきながら、相手に敵意はないことを示している。
・ 耳の動きだけでなくシッポが下がっていたら、恐怖を感じている可能性も。
⑮におい嗅ぎ
急に地面のにおいを嗅ぎ始めたとしたら、その前で何が起きていたかで意味が変わってくる。
・相手に敵意がないことを示している。
・単に地面に気になるにおいがある。
・緊張や居心地の悪さを感じて、気持ちを落ちつかせようとしている。
⑯立ち去る
その場所が居心地よければ、そのまま留まっているもの。あるいは単にその場から移動という場合も。
・ 向かう先に興味があるものがなさそうなのに、立ち去るのであれば、それまでいた場所に緊張を感じたので離れたい。
・興味を持つものを見つけ、そちらへ移動。
⑰シッポを振る
シッポの位置や振り方によって意味が変わる。うれしい気持ちだけを表しているのではない。
・ 興奮や警戒している場合は高い位置で小刻みに振っているか、あるいは振っていないことが多い。
・ 不安や恐怖を感じている場合は、下げた状態で振らないことのほうが多い。
⑱体をかく
かゆいわけでもないのに、突然体をかき始めたらカーミングシグナルの可能性が考えられる。
・ 興奮したり、緊張を感じ、気持ちを落ち着かせようとしている。
・単に体がかゆい。
・相手に敵意がないことを示している。
⑲弧を描きながら近づく
相手がいる場合、正面から接近するのは威嚇や敵対を表すため、それを避けていることが考えられる。
・相手に敵意はないことを示している。
・ においを嗅ぎつつ、ゆっくりと弧を描きながら近づく、というパターンも見られる。
・気になるものに対して、やや緊張している。
⑳まわりを伺いながらゆっくり歩く
ゆっくり歩きながら気になるものを確認している場合や緊張したのでその場から去っていく場合も。
・ 緊張を感じながらも気になるので、様子を見ながらゆっくり近づいたり、その場から逃げるためにゆっくりと立ち去っている。
・単に何かを注視しながら歩いている。
㉑オスワリする
座るといいことがあると学習していれば自然と座ることもある。緊張した場合も急に座る。
・ 緊張を感じたので、気持ちを落ち着かせようとしている。
・ オヤツがもらえそうなど、座ると何かいいことが起こりそうと思っている。
犬が発する主なサインを紹介したが、こんなしぐさもサインだったのね、と改めて気づいたものもあるかもしれない。愛犬にこのサインが見られたから「緊張しているのね」とサインだけですぐ判断するのではなく、その時の環境や状況、犬の性質や性格など総合的に考えて判断したい。
「例えば、におい嗅ぎを本当にしたくてしている場合と、人や犬が苦手な子が他の犬と出会って急ににおい嗅ぎをしていたら、緊張した気持ちを落ち着かせるためにやっているんだなとわかりますよね。犬は私たち人間のようには言葉が話せないだけあって、こういう気持ちなんだろうと憶測するしかありません。でも犬が発しているサインを読み取れるようになれば、緊張している状況を解決したり、回避してあげることにもつながるのです」
愛犬が日常的に受け入れているものに対して、サインが出ていないか見直してみるといいだろう。その場では気づきにくい場合もあるので、録画をしてみるのがオススメだ。
もし、サインが出ていたら、やり方を工夫するなどしてあげよう。
コミュニケーションは、愛犬との絆をより深める。そのためにも愛犬から発せられるサインを上手に読みとってあげるようにしたい。
監修:長谷川あや甫先生
家庭犬しつけインストラクター。PARA主宰。優良家庭犬普及協会常任理事。GCTジャッジ。AFC公認
インストラクター。福島県を拠点に全国でしつけ指導、講演、執筆活動など、幅広い分野で活躍中。ノ
ーズワークの紹介と指導、トレーナーをはじめとしたプロ向けの研修や指導も行っている。
いぬのしつけ方教室・ようちえん PARA(パラ)
☎0242-85-8896
http://paradoggy.com
Text:Hiromi Mizoguchi
Photos:Minako Okuyama