おとボケまる子日記:その7 認知機能低下の犬の予想外の動きに気をつけよう!

まる子:2022年1月現在、14歳。昔は10kg超えたが、今は動物病院で測る度に少しずつ体重減。でも激しく元気。フード量を増やし、内容も再考中。目指せ20歳!

目の前の出来事が初めてのことか経験済みか見極められない状態

昨年の夏は散歩の途中で歩けなくなったり、食欲、覇気がなく、夜中に家の中を歩き回ることが増えたまる子。何度かお漏らしすることもあったので「このまま認知症が進み、体力も落ちるのだろう」と覚悟していた。

しかし、秋頃から変化が。排泄の失敗がなくなり、夜は熟睡。食欲旺盛で赤ちゃん返りしたかのように飼い主に飛びついたり、物をくわえて振り回す行動が出てきた。飼い主としては嬉しく思う一方、一度スイッチが入ると肩で息をして走り続けるなど「異様な興奮具合」が気になった。

庭から室内に入る際に勢い余ってガラス戸に激突する、高い場所にいる同居猫を追い払おうと、今まで登らなかったダイニングの椅子に飛び乗って転ぶ、散歩や食事の前にイライラして噛んでくるなど。予想外のアクティブな行動が目立つようになったことに違和感を覚えた。

「まる子ちゃんの場合は高齢性認知機能不全の陽性症状が強く出ていると思われます。陽性症状が出ている場合、脳内では判断能力が低下していると考えられ、過去の経験を想起できず、できそうだと思ったらやってしまうことにつながっていると思います。以前体に生じていた痛みが軽減しているために動けているとも考えられます」

 

イライラしている時は

以前はなかったのに、散歩やゴハンの前にイライラしたり、我慢ができなくなるような身体疾患を併発している可能性もある。下記のことを行ったり動物病院を受診してみよう。

認知機能低下の陽性症状の一つに「過食」がある。空腹感を減らすため、オヤツやフードをこまめに与え落ち着いていたらほめ、犬を安心させてあげよう。

 

痛みや痒みがある場合もイライラしがち。全身を触って異変がないかチェックしよう。また、不安を示しがちになったり、排泄できなくなる時も増えることを覚えておこう。

 

暑い、寒い、寝場所が固い、眠れないなどの居住空間の不快によりイライラすることもある。夜鳴きは実は喉が渇いていた、ということもあるので要注意。

 

ちなみに認知機能不全の犬に見られる行動障害は多様だが、次のように分類されることが多い。「見当識障害(※1)」「社会的交流の変化」「睡眠サイクルの変化」「学習した行動(排泄・トレーニング)の変化」「活動の変化」「不安の増加」の主に6つだ。

人間の場合は中核症状(脳の働きの低下によって起こる記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、などの認知機能障害)と周辺症状(中核症状がその人の性格や生活環境などに影響して現れる妄想、抑鬱、興奮、徘徊、不眠、幻覚などの精神機能や行動の症状)に大別され、さらに周辺症状を陽性症状(暴力、幻覚、昼夜逆転、過食、徘徊など)と陰性症状(無気力、無関心、食欲低下など)に分けている。

犬の研究では臨床データがまだ得られていないが、人と同様に陽性症状と陰性症状の二つの症状があると考えられている。

陽性症状はレビー小体型認知症の症状と類似。陰性症状はアルツハイマー型認知症の症状と類似している。

では、実際に陽性症状の犬はどんな感覚で暮らしているのだろう。

「レビー小体型認知症ではよく現れるレム睡眠行動障害や嗅覚や色覚などの感覚機能の低下により、夢の中で生きているような感じなのではないでしょうか。また、今まで経験したことが思い出せず、今起きていることは自分が経験したことがあることなのかどうかを見極められない状態も起こりうるでしょう」

茂木先生のお話の通り、以前は散歩から帰宅すると水を飲んでゴハンを食べるという行動パターンだったまる子。しかし、今は帰宅後に家の中に入っても、まるで散歩が続いているように歩いたり、走ったり、その延長で庭に出たがり、すでに散歩で何度も排泄をしているのに、庭でも排泄の格好をする。暖房の効いた部屋で小刻みに震えながら、ぼんやりして30分以上立ち尽くす様子を見ると、「夢の中」という言葉がしっくりくるのだ。

ただ、一度興奮すると制御が効かず物に激突するなどして危険なので、オスワリやマテでクールダウンをさせたいのだが、それもなかなか難しい。

「体の痛みと運動制御機能の低下、あるいはパーキンソン症状(※2)によって、一定の姿勢を保ちにくくなります。かじることができるオモチャやオヤツを用意して、具体的な対象物をかじらせてフセをさせてあげると興奮が落ち着くでしょう」

さらに、最近のまる子で実感することなのだが、散歩時に驚くほどリードを引っ張る力が強いことがある。「どこにこんな力が?」と思うほど。しかし体は痩せ始めてきているので、散歩中にいきなり走り出してハーネスが抜けそうになったことが。愛犬が認知症の陽性症状の場合は、ケガや事故はもちろん、脱走や迷子にならないよう注意してほしい。

※1「見当識障害」=慣れている場所がわからなくなる、部屋の出入り口を間違える、飼い主など親しい人を認識できない、物にぶつかる、狭い所に挟まる、ぼんやり立ち尽くす、こぼした食べ物を見つけられない、といった行動が見られること。

※2「パーキンソン症状」=レビー小体型認知症において、パーキンソン病特有の症状(寒くないのに震えたり、体が斜めに傾く、体を一定に保つことができないなど)が出ること。ただし、パーキンソン病よりは出現頻度は少ない。

 

後追いが激しい時は

認知機能が低下すると不安が増加する。また視覚、嗅覚、聴覚が衰え、今まで適度にとっていた人との距離感がわからなくなった犬が近づきすぎて、うっかり踏んでしまうこともある。

足音もなく近くにいることが増え、日に何回か踏みそうになったり、飼い主が犬に足を踏まれることもよくある。ドアに犬を挟みそうになることもよくある。

 

触覚は最後まで残る。不安を抱える犬が安心するように、触られて喜ぶ場所を毎日撫でてあげよう。それからお世話を始めてあげると良いだろう。

 

嗅覚も飼い主や慣れ親しんだ場所を確認できる大切な手段。洗剤や柔軟剤は変えずに部屋や飼い主、マット類などのにおいを変えないことも大切。

 

14歳まる子の暮らし、最近の主な変化(12~1月)

元気がなかった夏に比べ、冬は困惑するほどの行動力を発揮

夜中から明け方にかけての徘徊とお漏らしがなくなり朝まで熟睡。昼間よく動いているから!?

 

雪が降った日、大はしゃぎで庭を駆け回った。散歩の時はシッポも上がっている。飼い主がびっくりするほど元気。

 

庭から室内に入る時、閉まっているガラス戸に激しくぶつかることが増えたので、庭に出した時は網戸にして対応。

 

ここ2ヶ月でソファ、こたつ、ダイニングの椅子の上など高い場所にいる猫を攻撃するようになった。勢い余って自分も高所に登ってしまうこともある。

まとめ
動きが活発になる陽性症状が出ている場合は、脱走や迷子に注意!

監修:茂木千恵先生
東京大学大学院農学生命科学科獣医学博士課程卒。獣医師。専門は獣医行動学。ヤマザキ動物看護大学准教授。教育・研究活動のかたわら、東京都町田市内でペットの問題行動治療やパピークラスの開催も行う。「飼い主が幸せになれば犬も幸せになり、犬が幸せになれば飼い主も幸せになる」という考えをベースとし、飼い主の話をじっくり聞くことも大切にした指導は、多くの人や犬から好評を得ている。

Text&Photos:Mari Kusumoto

Shi-Ba Vol.123『おとボケまる子日記』より抜粋

-柴犬