おとボケまる子日記:その9 15歳のハイシニアの行動を見て感じる素朴な疑問集

まる子:2022年8月現在、15歳。3月の前庭疾患発症時はお別れの覚悟をしたが今は落ち着き、よく食べ、眠り、甘える日々を過ごす。猫への嫉妬心がパワーの源か!?

老い方は十匹十色、ということで今回は15歳のまる子の日々の様子を見て飼い主が疑問に感じたことを茂木先生に聞いてみた。

視力が低下しているのに動きが素早いのはなぜ?

目は白濁していないが、やや青みがかっているまる子。目の前で手をひらひらさせても焦点が合わないようなぼんやりした様子を見せ、家の中を走り壁にぶつかることもある。しかし、猫を追う時は確実に狙っている様子。見えているのか、飼い主には判断がつきにくいことがある。

「眼科専門ではないですし、実際に診察していないので正確にはわかりませんが、まる子ちゃんの場合、目が白濁していないのに見えていないようだとのことから、白内障ではなく脳の認知機能低下が関与していると考えられます。

見えていないと猫の動きにもついていけないはずですが、“同居の猫を追う時の正確さ”を考えると、狩猟本能をかきたてられて獲物を追う原始的(=たくましく生きる)な脳の領域は元気なのだと思います。

ただ、認知機能の低下により、自分の行動をうまくコントロールするような小脳の機能は落ちている可能性があります。こうしたらこうだからこうしよう、という連想、または脳内の情報処理は難しくなっている可能性があります」

10歳以上の犬の約4%が白内障に罹患しているという調査結果もあるので、※6歳になったら目の検査はこまめに行うようにしたい。

 

どのくらい聞こえているのかよくわからないけれど...

今では名前を呼んでもほとんど反応しないまる子。聴力は相当弱くなったと思うのだが、外出の支度をしたりゴハンの準備をすると起きてくる……。

「振動で気配を感じている可能性があります。聴力が弱くなると触覚や嗅覚が研ぎ澄まされ、人の動きを察知する能力が高まります。飼い主の帰宅時に出迎えにこないといった行動は老犬の飼い主がまず気づく聴覚の変化です。老化による聴覚機能の低下は人と同様に犬でも比較的多く見られ、音波の振動を伝える耳小骨の動きが老化で弱くなることなどが原因と考えられています。この他、聴覚障害の原因には甲状腺機能低下症、外耳炎、中耳炎などの炎症性疾患、薬の副作用、頭部外傷、音を伝える脳神経の異常や脳の腫瘍、特発性の聴覚障害などが挙げられます」

まる子のように飼い主の帰宅時も起きずに眠っているのはほとんど心配ないそうだが、頭をよく振るようになった、急に聞こえなくなった様子などが見られたら動物病院を受診しよう。

子犬のような行動も見られる老犬生活

前庭疾患を発症した際、獣医師から「今後は夜泣きが始まったり、体の衰えが進行する可能性が高い」と言われ覚悟した。しかし予想外に体力も気力もあり、正直驚いている。逆に飼い主が「15歳だからもう見えていないし、聞こえていないんだろう」と思い込んでいた部分もある。肉を焼いたり茹でたりすると、いつの間にか台所に来て座り込んでいるということは、聴覚、嗅覚などはまだ健在らしい。

 

日に5~6回庭遊び&排泄

猛暑だが短時間でも日光浴。排泄も兼ねて。よく走るしはしゃぐ♪

 

トイレの中まで必死に後追い

寝ていたはずなのにいつの間にか真後ろにいてドアに挟むことも。

 

とにかく猫を追いかける!

起きている時に猫の姿を見ると、とにかく追いかける執念の15歳。

 

においを嗅ぐ時真剣そのもの

地面につくほど鼻を近づけて嗅ぐ。老いても庭警備は怠らない。

 

寝たふりが得意になったよ

熟睡しているようで実は起きていたり。猫や人の動きを敏感に察知。

 

ここはどこ?あたしは誰?

ぼんやり立ち尽くし、その場で船を漕ぐことも。なんか幸せそう♡

 

後追いが激しく飼い主の足を踏んだまま立ち尽くすことも

「飼い主に近づきたくて後追いし、近づきすぎて足を踏んだものの『何しようとしてたっけ?』と忘れてぼんやりしてしまうのでしょう。後追いをするのは飼い主さんへの愛着が増していることもありますが、認知機能低下の症状の一つです。

体の痛み、喉が乾いた、お腹がすいたという表現ができず『なんだか不快』という思いが不安を高め飼い主の後を追ったり、ずっとそばにいたがる行動につながります。また、これまでにないことが起きると『なんだ? これ?』とずっとそばにいて確認を続けたり、飼い主の動きが真新しく感じて気になり近づくことも。

『いつもやっていることなのに』と飼い主は思いますが、犬にとっては、いつもやっていることが思い出せない。日によって思い出せたり、思い出せないことが出てくるのです」

老犬は人の足を踏んでいることすら忘れている可能性が高い。足を踏まれ続けたら、人の足を急に引くと犬の足が開いて関節に負担がかかる可能性もある。「ちょっと足をどけてね」と声をかけながら足を優しく触ってゆっくり足をどかせ、上手にできたら「お利口だね」と撫でてほめてあげよう。

 

今は寝たきり生活に入る前段階 一歩でも多く歩こう

寝ていたと思えば、いつの間にか足元にいたりと、予想外の動きをするハイシニア。認知機能低下の程度があまり進んでいなければ、室内の家具の配置なども記憶しているが、いずれぶつかる頻度が多くなるので、早めに環境整備を心がけよう。

下記のコラムで挙げた他、注意したいことは、壁を引っ掻きそこがドアであるかのように外に出たがったり、壁やドアに鼻をずっと擦り付けて鼻がむけてしまうこと。

また、飼い主の頭を悩ませるのが夜間徘徊や夜泣き問題。特に飼い主が昼間留守にしていると、その間犬はよく眠るので、夜、動き回ることになる。

「生理学的に1日に動きたい運動量があります。飼い主が日中留守にすることが多く、昼夜逆転による行動が改善できない場合は、犬のデイケアサービスを利用するのもオススメです」

そして、ゴハンを食べる時に足が開いてしまう場合は、滑り止めのついた犬用靴下を履かせるのも良い。靴下タイプが履かせやすいが、ナックリング(足先が握ったような状態になり足を引きずる症状)が始まっている場合は足首をしっかりホールドするトレッキング用の靴がいいそう。老犬の体に優しいグッズに関してはいずれこのコーナーでまとめて紹介する予定だ。

 

家の中の意外な危険スポット

家族の留守中に入り込むと危険

飼い主の留守中にクローゼットの中に入って出てこられないケースもあるそう。戸や隙間には細心の注意を。

 

後追いし誤って水に入り溺れたら大変

水を張ったままの風呂は危険。飼い主を探す犬が風呂場に入り、誤って水に入ってしまう可能性も。

今までだったら「やめておこう」と思うことをやってしまうハイシニア
床を滑りにくくする、ケガをしないよう家具の角をカバーする、狭い所に入らない工夫をするなど、既に安全対策は行っているものの、注意するべき箇所はまだある。

今までなら「やめておこう」と思うことをやったり、すごい力を発揮し予想外の行動を起こすこともあるハイシニア。こまめに室内をチェックし危険回避を。

実験でわかる老犬の行動
年齢と認知状態が異なる85匹の犬に、自発運動と探索行動を調査するために2つのテストを実施した結果、認知障害のある年配の犬は若い犬(9歳未満)よりも自発運動が多く、部屋の隅に向かっていくような目的のない活動に多くの時間を費やした。

一方、若い犬はにおいを嗅いで何かを探すなどの探索行動が多く見られたという。そして、もう1つの実験では飼い主との関係性を調べた。若い犬は人と触れ合うことを好んだが、老犬は高齢なほど、人と関わりを求めることが減少するという結果が出た。

また、犬の前に鏡を置く実験では、老犬はそれが自分の姿であることを認識できずに鏡に映った自分をずっと見続けた。一方、若い犬は鏡の前で探索するが、すぐに見なくなり他の場所へ移動した。このことから老犬は新しい状況を受け入れにくいということがわかった。

 

ハイシニアは「食べる」行為自体、ひと仕事

舌を動かす力が弱くなっているかも!?器の傾きや器内のフードの位置で食べやすさを追求

まる子は3月の前庭疾患発症後6.4キロまで落ちた体重も、8キロまで回復。散歩は行かないが、庭で日に5~6回排泄&遊び、お漏らしはなし、というのが近況。昼夜逆転や夜泣きもなく、認知機能低下が少し回復した感じで激しく元気だ。

さて、ハイシニアの最重要課題でもある食事。食べやすい高さに調節した食器台からは食べようとしないので、器自体を飼い主が持ってまる子が食べやすいように傾けたり、食器から食べない時は手のひらからあげるようにしている。

食欲はあるが、ゴハンをすぐに食べるかというとそうでもなく、スプーンや手で少量をすくって口や鼻に近づけることを数回続けると、堰を切ったように食べ始める。

介助して食べさせる間に観察していると、ハイシニアは食べることにも体力を使うんだ、と実感。踏ん張った後ろ足は少しずつ開き、途中から座ったりフセることもあるし、舌で食べ物を舐めとる力が衰えた印象を強く受ける。

舌でフードを追うがうまく舐め取れず、フードが食器の縁からこぼれることも。なので、食べやすいように手やシリコン製のスプーンで食べ物を真ん中に寄せたり、舌で押しやるフードをスプーンで受け、逃さずに食べられるよう工夫中。近い将来、固形物を食べることができなくなる日も来るだろうが、今は「自分で器から食べたい!」という気持ちを尊重し、食べる様子を至近距離で楽しく観察中だ。


5分はかかる食事。途中で腰砕けになるのもハイシニアならでは!


食事後半に必ず「おっさんゲップ」。空気を飲むことが増えたから!?


茹で豚ヒレ肉&汁、煮干しやさつまいも入りフードを「ツユだく」で。

まとめ
老いても機能する触覚や嗅覚を最大限に使う生活を送ることを心がけて

監修:茂木千恵先生
東京大学大学院農学生命科学科獣医学博士課程卒。獣医師。専門は獣医行動学。ヤマザキ動物看護大学准教授。教育・研究活動のかたわら、東京都町田市内でペットの問題行動治療やパピークラスの開催も行う。「飼い主が幸せになれば犬も幸せになり、犬が幸せになれば飼い主も幸せになる」という考えをベースとし、飼い主の話をじっくり聞くことも大切にした指導は、多くの人や犬から好評を得ている。

Text & Photos:Mari Kusumoto

※出典 https://mcblog.aeonpet.com/sagamihara/2019/11/post-8.html

Shi-Ba Vol.125『おとボケまる子日記』より抜粋

-柴犬