ひと口に“シニア”と言っても、個体差がある。体に現れる変化や不調は、同じ10歳でも異なるのだ。愛犬の状態を知り、適切な対応を知ることで充実したシニア犬ライフが送れるはずだ。ここで挙げている年齢はあくまで目安。愛犬の状態をよく観察し、対応していこう。
見た目の変化(7~10歳)
「年齢なんて数字」とは、ある女優の名言だが、全くその通りだ。
環境や食事、仕事などライフスタイルが多様な時代に、その傾向は強くなっている。
では犬はどうだろう。一般的にシニアは7歳から10歳とされているが、実際には若々しい犬が多い。10歳を超える犬も、見た目や健康状況は犬それぞれだ。「●歳の犬はこうである」と言い切れないことは、皆さんも薄々お気づきのことだろう。
「飼育環境や食事内容が以前より向上したからでしょう。若々しい犬が増えました。ですが動物は必ず老い、7歳くらいを目安に、少しずつ変化が出てきます。免れないことなので、前向きに捉えることが重要ですし、早めに変化に気づくと、できる対策が増えます」とキュティア老犬クリニックの横山先生は言う。
大きな変化が起きるのは、10歳以降のハイシニア期が一般的。特に14歳くらいから、視覚や聴覚など、感覚器の衰えが目立つようになる。しかし、シニア期から変化は少しずつ起きているのだ。
具体的にどんな変化が起き、どんな対策をすればいいのだろう。現れやすい変化の順に紹介していこうと思う。
後ろ足の幅が狭まる
筋肉の衰えが最初に見られるのはお尻。後ろ足の幅が狭くなる。犬が立っている時、通常は後ろ足が骨盤の幅に沿って広がり前足の幅と同じで、前足と後ろ足の肉球を直線でつなぐと、長方形を保っている。
しかし後ろ足の筋肉が衰えると、どちらかの足もしくは両足が内側に向く。幅が狭くなり、長方形が崩れる。飼い主が気づきやすい変化なので、足が衰え始めたサインになるはずだ。
対 策
お腹の皮膚にシワがよる
7歳くらいから肌が乾燥しやすくなる。お腹のシワがよっていれば、全体的に肌が乾燥しているサイン。10歳頃から、膿皮症や皮膚炎、花粉症による皮膚のアレルギーが出やすくなるが、お腹にシワを確認したら念入りに皮膚をケアすることで、予防することができる。見落としがちな変化なので、スキンシップをするついでに、たまにお腹を見てあげよう。
対 策
目が濁ってくる
加齢とともにドライアイになりやすくなる。犬の目の表面には油分がのっている。これにより水分が蒸発しづらい。だが加齢とともに油分を分泌するマイボーム腺の働きが低下し、ドライアイになりがちになる。
角膜に傷がつきやすくなり、目が濁っているように見えることも。白内障の症状と似た目になるが、視力が落ちているわけではない。もし白内障などの病気が不安な場合は、動物病院で相談してほしい。
対 策
目やにが出やすくなる
目やには、角膜や結膜からの分泌物と、涙や老廃物が混じって乾燥したもの。若い頃でも、目が覚めた直後に、ついていることがある。健康な状態でも出るが、シニアになると増えることが。
急に目やにが増えた場合、何かしらのトラブルを抱えていることもある。目の健康を維持してあげることは、とても大切。早めに対応してあげよう。
対 策
毛の退色
若い頃と比べると、毛色が淡くなる。病気や体調不良が原因ではないので安心して。加齢とともに毛色が変化するのは自然の摂理でもある。
犬自身も毛色の退色をストレスに感じていないだろうし、変化をポジティブにとらえて楽しんであげよう。シニアで白い毛になる犬もいる。これも病気が原因だとは考えにくい。
対 策
排泄関係(7~10歳)
下痢をしやすくなる
加齢とともに腸内環境が悪くなることが。また、体温調整が難しくなりがち。下半身が冷えやすくなり、下痢や軟便が増える。また消化酵素が若い頃に比べ、正しく分泌されなくなるのも理由のひとつ。
下痢が続くと、病気の可能性がある。脱水症状になる危険もあるので注意が必要だ。その場合は、こまめに水分を与えよう。
対 策
7~10歳 行動の変化
昼も夜も寝ている時間が増える
体力が衰え、寝る時間が増える。犬はもともと1日の睡眠時間が、12時間から15時間と長い。さらに年齢を重ねると疲れを感じやすくなり、体力の回復が遅くなる。
膝の関節など、体に痛みがある場合も、寝る時間が増える可能性が。散歩中に、普段通りに歩けているかを確認してみると、痛みがあるかわかるかもしれない。
対 策
走る回数が減る 動きに機敏さがなくなる
年齢を重ねると、最初に落ちるのはお尻の筋肉量。徐々に若い頃のように素早く走れなくなる。また、運動への意欲が低下することがある。
人間も年をとれば、若い頃に比べ運動をするのが億劫になるのと同じ。走る回数が減っても心配する必要はないが、犬は以前より疲れるのが早くなったと感じているかも。
対 策
歩行中つまずきやすくなる
段差や、ちょっとした障害物に足がひっかかり、つまずいてしまうことが増えることも。その理由は、膝の筋肉量が減少し、若い頃と比べて、足が上がらなくなるから。
年をとり、膝の関節のコラーゲンが抜けて、硬くなるのも理由のひとつ。つまずくことが増えるとストレスになり、散歩が億劫になることもあるので、散歩中の足元に気をつけてあげよう。
対 策
新しいことを覚えにくくなる
人間は年齢を重ねると、頑固になったり、新しいことを覚えづらくなるが、犬も同じ。新しいコマンドなどは、若い頃に比べ、教えるのが難しくなる。
またお手入れなど、慣れないことをされると、警戒することが増えることも。個体差もあるが日本犬は他の犬種と比べると、この傾向が強いことを知っておこう。
対 策
【column】運動を続けることでハイシニアにも役立つ
遺伝子と老いのスピードは密接に関わっているが、育てる環境の影響も大きい。シニア期やそれ以前に、運動をさせて、お尻まわりや関節の筋肉をつけておくと、ハイシニアになった時にも若々しさを保てる可能性は高まる。足腰を丈夫にし、関節を痛めないように育てることが重要だ。その意味でも、散歩は積極的に連れて行こう。
監修:横山恵理先生
多くのシニア犬を診察し、飼い主の不安に寄り添いながら具体的な介護方法をアドバイス。中医学を取り入れた治療も実践している。
キュティア老犬クリニック
神奈川県横浜市青葉区美しが丘4-7-28メゾンドアミ1F
☎045-903-1334
https://cutia.jp
Text:Daizo Okauchi Illustration:Yuko Yamada
Shi-Ba Vol.130「年齢による変化に必要な助けは犬それぞれ 7歳以上だって”シニア“でまとめるな!」より抜粋