おとぼけまる子日記:その11 犬は認知機能が低下すると頑固になったり、わがままになるの?

まる子:2023年2月現在、15歳。よろめきながらも庭で排泄&ランニング。頼もしい我が家の警備隊長。寒さ対策でセーターを着用中&絶賛換毛中♪

認知症になってから愛犬が怒りっぽくなったり、頑固になった気がする。我が家も含め、お世話をする飼い主の多くが感じること。今回は頑固やわがままになる理由や対処法を専門家に伺った。

頑固やわがままぶりも犬それぞれ、早めの対応が肝心

愛犬が認知機能低下症(以下、認知症と略)を発症した後、急に怒りっぽくなったり頑固になった気がして、飼い主が不安を覚えることがある。我が家はまさにその真っ只中。

わかりやすく人の認知症の【中核症状】【周辺症状】で説明しよう。
【中核症状】には、記憶の障害、実行機能の障害、高次機能障害などがある。
【周辺症状】には飼い主が愛犬を見て気付きやすい項目があり、獣医学的に犬の認知機能低下の指標としていることも多い。具体的には徘徊、夜に寝ない、失禁、幻覚を見たかのように振る舞う、易怒性(怒り易い)、動機づけ(意欲)の低下などがそれに当てはまる。

犬の認知症の指標は下記の【DISHAA】を参考にすると、よりわかりやすいだろう。

DISHAA(ディーシャ)

犬の認知機能低下症に現れる6つの兆候のそれぞれの頭文字を取って、「DISHAA」と呼ばれている。

Disorientation(見当識障害)

自分が今どこにいるのかわからなくなる。徘徊したり、ドアを開けた時に開いた方ではなく、蝶番の方に顔を突っ込むといった行動が見られるなど。

(social)Interaction(社会的交流の変化)

人や他の動物との関わり方が変化する。飼い主の指示に対して反応しなくなったり、飼い主の帰宅時に喜ばなくなったり、逆につきまとうことが増えるなど。

Sleep wake cycle(睡眠、覚醒サイクルの変化)

昼間は寝て、夜起きている「昼夜逆転」の状態になることが多い。徘徊、夜鳴きがひどくなり、共に暮らす家族が睡眠不足に陥るなど深刻な影響が出る。

Housesoiling,learning and memory(排泄の失敗、学習と記憶)

今までできていたトイレトレーニングやコマンドトレーニングができなくなる。トイレ以外の場所で排泄をしたり、家庭内でのルールを守らずに行動してしまう。

Activity(活動性の変化)

においを嗅いだり、気になる音が鳴った時に見に行くなど「目的を持った行動」が減り、ひたすら徘徊する、吠え続けるなど「目的のない行動」が増える。

Anxienty(不安)

さまざまな機能の衰えにより、不安傾向が高まってしまう。今まで気にしなかった音などに敏感に反応したり、飼い主が離れていると不安になって探したり、鳴くなど。

 

「自分がこうしたいと思うことがうまくいかなかったり飼い主の号令によって遮られると、そのことに対して犬は葛藤を覚えます。今までは飼い主との関係の中で犬が『我慢しよう、まぁ、いいか』と思えていたのが、認知機能の低下により自己主張が強くなり、さらに【易怒性】が加わって自己主張性の攻撃行動が起こりやすくなるのです」

具体的には、もともと顔周りを拭かれるのを我慢していた犬が、認知機能の低下により拭かれるのを嫌がって噛みついてくるなど。場合によっては要求吠えなども起こりうる。

ここまでは自己主張の高まりが主な要因だが【刺激の般化】(=ある刺激に対して起きる反応が、似ている刺激に対しても生じること。子犬や若い犬にも見られる)によって起こることもある。例えば、飼い主さんから言われる「マテ」で待てなかった犬が、これまでできていた「オスワリ」もできなくなったり、怒って攻撃してくるなど。

「犬にしてみれば『自己主張したら飼い主が嫌なことをやめた』と学習するので、自分の行動に自信を持ちます。そうするとさらに我慢する時間が短くなり、わがままになったり攻撃的になる可能性があります」

これは認知機能の低下が進んで自己主張が強くなるということではなく、犬の学習が進んでいる証でもあり、飼い主の犬に対するリアクションが大きく影響している。

「学習できることは希望でもあります。感情が大きく動くほど記憶はより鮮明になり、何度も繰り返し提示されるほど速やかに記憶が定着します。わがままを言ったり、怒って噛みついてくる子はまだ学習できる力が残っています。

飼い主は今までと同じ毅然とした対応をしながら、犬が『これ大好き!』と思うことを働きかけて行動を修正してあげることは可能です。できなくなることを嘆くのではなく、今日できていることを明日もできるように維持する気持ちで、愛犬の体の機能の保持を目指しつつ伴走してください」

この他、頑固やわがままな行動でよく見られるのが、まる子のようにお手入れ時に噛みついてくる、ゴハンの選り好みをする、動物病院などへ行った際に暴れたりすごい声で叫ぶなど。

また、夜寝ている愛犬のそばを通った時や、散歩中に便を回収しようと肛門付近に近づいた時に攻撃してくる、などの例もある。

「必要なケアを犬に妨害されずに快適に進めることは、長い介護生活を続ける上でとても重要なことです。犬が嫌がるからケアを中断するのではなく、例えば食後に口周りを拭く場合は、『お口』というコマンドをかけながら、飼い主の手に顎を乗せた時に『いい子』とほめてごほうびをあげるなど、1つの楽しいトレーニングとして毎日行ったり、どうしても拭かれるのが嫌な子なら、認知機能低下や易怒性が進行する前に、スヌードやスタイをつけることに慣れておくと良いと思います」

15歳を超えると、「こんなに顔周りが汚れるんだ」と正直驚く毎日だ。愛犬に不快な思いをさせないためにも、早めの準備を心がけたい。

また、便の状態もよく元気なのにゴハンを食べない場合、あれこれ与えると下痢を起こす可能性もある。獣医師に相談し食欲が出る薬などを処方してもらい様子を見よう。

さて、冬はどこで寝ても寒くないようにしている我が家。しかし部屋の隅の冷える所でまる子が寝ながら震えていることがあり、移動させようとすると噛まれる。寒くないのか。

「シニア犬は体温が下がると、体の動きを自分でうまくコントロールできなくなります。多分、床暖房がない所で寝た時点では、被毛のおかげで寒さを感じなかったのでしょう。しかし、時間が経ち自分が寒さに気づくより先に体が冷えすぎて、動きたいのに動けず寒さを感じて震えた可能性があります。
脳のサーモスタット機能が低下してくるシニア犬は、中核症状のせいで体温調整が苦手になっています。さらに運動量が減り筋肉も落ちてくるので、体温が下がりやすくなります。冬は特に気をつけてあげてください」

このように頑固で動かないのではなく、動けない理由があることも。ハイシニアのお世話は、予備知識を元にした推理力も必要だ。

100円ショップの滑り止めマットは食事時、排泄時などに大活躍!

足腰が弱ったシニア犬は、ゴハンを食べる時に踏ん張りが効かず、足が開いて辛そうな状態になる。まる子もその状態なので、“御食事処”に100円ショップで買った滑り止めマットを敷いている。

「滑るので踏ん張れなくなり、トイレシーツが嫌いによく食べて走る時は、抱っこすると筋肉が感じられ、ずっしりと重みもある。食事の時に垂れた首肉や胸が汚れるのでスタイを購入。誕生日には気が早いか?今回のまとめ怒ったり、頑固になるのは「まだ学習できる証」。大好きななって使えなくなる子もいます。犬にとっては『なんでここ、滑るの? 嫌だな。もうここでしたくない』と感じてしまうのです」

ゴハン、排泄、お手入れ場所などにはこうしたマットやヨガマットがおすすめだ。

 近 況 

食べない!どうしよう!から負のループへ

よく食べて走る時は、抱っこすると筋肉が感じられ、ずっしりと重みもある。

2022年の秋はまる子の「食べない!」に翻弄され、心身共に疲れ果てた飼い主。きっかけはゴハンを3食続けて食べなかったことだった。3食拒否は前代未聞。茹でた肉をトッピングしたにも関わらず、だ。相変わらず猫を追いかけて元気だったが心配になり、前庭疾患で倒れた時に買った療法食缶詰などを与えるも拒否。イモ、パン、うどんなどを与えたが3日で700g位痩せてしまった。
「こんな時はにおいの強いもの!」とペットショップでレバーや砂肝などのウェットを買い漁り、好物のクロワッサンやパンケーキを与えて一喜一憂するうちに下痢。
さらに体重が落ち、あばらが触れるようになってしまったので、泣きながら動物病院へ。獣医師からは「お腹、少し休めましょうか。普段食べない物をいろいろ食べたからね~。食欲が出るシロップを出しますから、飲ませてあげてください」と言われて目が覚めた。「食べない! どうしよう!」と感情に流され基本事項が完全に飛んでいた。「冷静な観察と判断」がハイシニアの飼い主には不可欠なことを痛感した一件。それにしても情けない(涙)。

食事の時に垂れた首肉や胸が汚れるのでスタイを購入。誕生日には気が早いか?

 

まとめ
怒ったり、頑固になるのは「まだ学習できる証」。大好きなことを上手に取り入れてお世話しよう

監修:茂木千恵先生
東京大学大学院農学生命科学科獣医学博士課程卒。獣医師。専門は獣医行動学。ヤマザキ動物看護大学非常勤講師。教育・研究活動のかた わら、東京都町田市内でペットの問題行動治療やパピークラスの開催も行う。「飼い主が幸せになれば犬も幸せになり、犬が幸せになれば飼 い主も幸せになる」という考えをベースとし、飼い主の話をじっくり聞くことも大切にした指導は、多くの人や犬から好評を得ている。

Text&Photos:Mari Kusumoto

Shi-Ba Vol.127『おとボケまる子日記』より抜粋

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