教えて!犬の防災Q&A

読者が持つ防災の悩みに、ペット防災のスペシャリスト「NPO法人アナイス」代表の平井潤子さんが応えてくれた!

監修:NPO法人ANICE 平井潤子さん
Text:Yoshiyuki Ushijima
Photo:Minako Okuyama

備え

Q.避難時、持っていくと役立つものはありますか?

A.避難時に必要となる基本的ものについては『犬と一緒に生き残る防災BOOK』にも詳しく掲載していますが、その他柴犬などの日本犬におすすめしたいのは抜け毛対策グッズです。
換毛期は抜け毛が多く、避難所では他の人に迷惑をかけることもあります。ブラシやコームを準備するのもいいですが、Tシャツを着させて抜け毛を落とさないようにするほうがいいかもしれません。
さらに、人の居住スペースで過ごした後に落ちた抜け毛を取るためのガムテープもあるといいでしょう。

また飼い主にとって違和感がなくても、他の人に違和感があるのはにおいです。ドライフードの袋の口が開いているだけで、くさいと苦情が出ることもあります。
フードの種類にもよりますが、しっかり口を閉められるクリップやにおいを出さないよう入れておける大きめのビニール袋を用意しておくといいでしょう。

さらに、避難所には必ず犬も入れるという保証はありません。犬が居住スペースに入れないことを想定して、ブルーシートとガムテープ(養生テープ)を準備しておくのもおすすめです。
ペット禁止と言われた場合に「居住スペース以外に迷惑がかからない場所があれば、汚れないように養生するので、犬と一緒にいさせてほしい」と交渉するための説得材料としても、あったほうがいいでしょう。

このように特定の使用方法しかできない専用のグッズよりも、ガムテープ、ビニール袋など汎用性のあるグッズを準備しておくと便利です。ガムテープはマジックで伝言を書いてメッセージなどを残せたりしますし、段ボールハウスを作る時にも役立ちます。ビニール袋は、濡れたものや汚れ物などにおいのするものを入れるだけでなく、穴を開けて犬のTシャツ代わりにすることもできます。

 

Q.自治体などが指定する場所以外でのおすすめの避難場所や過ごし方があれば知りたいです。

A.そもそも避難する場所は、指定の避難所ばかりではありません。神経質な愛犬をわざわざ人の多い避難所へ連れていくことは、かえって犬のストレスになることもあります。
ですから避難場所の候補を〝在宅避難〞、実家や親戚など〝慣れている人の家〞、犬友達で〝仲良しの子がいる家〞、〝かかりつけの病院やペットホテル〞など、たくさん用意しておくと安心です。

災害時に急に連れていくと犬も緊張するので、仲良しの犬友達が近所にいれば、あらかじめショートステイの練習をしておくといいでしょう。数時間預けたり、逆に預かったりするだけで構いません。犬にとって慣れた場所であることは、最適な避難場所ということになります。

豪雨災害の場合、勤務先の上階、高台にあるコンビニの駐車場、立体駐車場の上階なども候補になります。被害予想が早めに出された場合は、高台にあるペットと泊まれる宿を予約するのもいいでしょう。車での避難は、エコノミークラス症候群や熱中症に注意しながら利用するのも有効です。ただし水害の場合、移動は冠水前に行うこと。水が出てしまってから車で移動するのは非常に危険です。

また、避難所以外の場所で生活していると、情報を入手しづらくなります。避難所には「○月○日に物資の配給を行います」などの情報が張り出されますが、そこにいないと情報を得ることができません。
避難所を使用しない場合でも、1日1回は情報収集に行くことが大切です。地元の獣医師会が行う巡回診療などの情報も避難所に張られるので、積極的に足を運びましょう。

 

Q.近くにある避難場所はどうやって調べればいいですか?同じ場所で過ごせるかなどの詳細も事前に知りたいです。

A.避難所については、自治体のホームページに掲載されています。そこに管轄部門の連絡先が載っているので、詳細が気になる場合は、問い合わせてみるといいでしょう。

ホームページの地域防災計画にペット同行避難がうたわれていれば、考慮されているということになります。ただし、うたわれていても避難所自体のキャパシティがあまり大きくなかったり、想定した以上にケガ人が多い、避難者が思いの外多いとなったら、受け入れてもらえない場合があります。

このようなケースもあるので、同行避難が自治体の方針であっても、それを行うかどうかは各避難所の運営方針により異なります。ですから、自治体に問い合わせても「同行避難できます」と明言できない可能性もあります。

そのようなことを想定して、前述したように実家や親戚など慣れている人の家、犬友達で仲良しの子がいる家など、オリジナルの避難場所を確保しておくと安心です。

自宅に倒壊の心配がなければ、在宅避難も選択肢のひとつです。人がたくさんいる避難所よりは、慣れている自宅のほうが犬にとっては安心して過ごせる場所です。犬だけを自宅に残し、飼い主は避難所から世話に通うという方法もあります。

 

Q.体が大きいので大きい子でもしっかり入るリュックなど、おすすめがあれば知りたいです。

A.がれきの上を歩かせたくない、きちんとコントロールしたい、両手を空けたいなど、リュックなどに入れて移動したい理由は様々かと思いますが、犬を運ぶためのグッズを選ぶなら、以下のことに注意して選んでください。

まず夏場を想定して、内部温度が上昇して熱中症にならないようにメッシュ生地を採用した通気性がいいものを選ぶといいでしょう。

ハードタイプのリュックなどは、経年劣化で留め具が弱くなっていて、突然開いてしまうことがあります。長年使用しているものであれば、分解の危険がないかどうか、チェックしておきましょう。

キャスター付きのものは、がれきや段差を越えられないことがあるので、ペットカートのようなタイヤ径が大きいものを選ぶか、背負えるものを選ぶことをおすすめします。

また、キャンプやBBQなどの荷物運びに使用するアウトドアキャリーや折りたたみ式のリヤカーなども、大きな犬を運ぶのに便利なグッズです。そのような代用品も候補に入れておくといいでしょう。

 

Q.普段お留守番が多いため、脱走しないか、物が倒れて下敷きにならないか心配です。

A.まず脱走についてですが、ドアが開かなければ屋外に脱走することはできないので、心配はいらないと思います。ただし、掃き出し窓が割れると、そこから脱走してしまうかもしれないので、ガラスに飛散防止フィルムを張って、ガラスが割れないようにしましょう。

高層階に住んでいる人の中には、サッシにカギをかけない人がいます。大きな地震では、揺れると窓が開くことがあるので、カギは必ずかけるようにしてください。

施錠や飛散防止対策、転倒防止対策をすべての部屋にできればいいのですが、家全体に行うのは難しい場合もあります。そんな場合でも、ひと部屋だけならできると思いますので、きちんと処置を行い、留守の間犬はその部屋だけで過ごすようにさせるのも、ひとつの方法です。

また、脱走してしまった時のことを考えて、ペット可の集合住宅の場合は、犬の写真をマンションに提出しておきましょう。マンション内で、どこの誰がどんな犬を飼っているのかがわかるようにしておくこともおすすめ。ペットを飼っていない人に敬遠されそうなら、管理者だけでもリストを持っておくと、万が一の時に対応できます。

スマホアプリ「ドコノコ」もおすすめです。犬や猫の写真を投稿して楽しむアプリですが、迷子捜しができる機能も備えています。写真も一緒にアップできるので便利です。

物が倒れてくることが心配な場合は、犬が生き延びる可能性が高くなる場所を準備することが大切です。転倒する家具がないトイレへ逃げ込めるようにドアを固定して締まらないようにしておく。寝室にベッドがあって、家が倒壊してもベッドが支えになるようなら、他の家具が倒れてこないように固定する。階段の下など、倒れてくるものがない場所にハウスを置いて逃げ込めるようにする。このような犬用シェルターをあちこちに準備しておけば、不安な要素をひとつでも減らすことができます。

 

発災

Q.被災時に愛犬をしっかり捕獲して、一緒に避難できるか不安です。

A.日本犬は、他の犬種に比べると捕まえるのが大変です。不安であれば首輪を外さない、リード類は玄関だけでなくリビングにも1本置いておくなど、なるべく早く犬をコントロールできるような準備をしておきましょう。

捕まえられなかったことを考えて、迷子対策をしておくことも重要です。マイクロチップは制度化されたので必須ですが、インターネットにつながる環境でないと、飼い主にたどり着けません。首輪に迷子札を付けるなどの準備もしておくと安心です。

日本犬は呼び寄せが難しい犬種でもあります。食べ物にもあまり執着しなかったりするので、オヤツなどで誘えない場合もあります。特に普段とは違う状況では、パニックになると、ますます言うことを聞かなくなるものです。そこで逃げた時を想定した対策もきちんとしておきましょう。

柴犬は迷子になって数日経つと、くたびれて見た目が変わることが多く、飼い主ですら見分けが付かなかった事例もあります。犬があまりに喜んで懐いてくるので、自分の犬だと思って連れて帰ったら、違う犬だったなんてことも起こっています。そんなことを防ぐためにも、首輪に名前を書いておき、文字で確認できるようにしておきましょう。

また、夏毛と冬毛で首の太さが変わるので、首輪はいつも同じ穴で固定するのではなく、きちんとその都度首の太さに合わせること。こうすることで、首輪が不意に抜けてしまうことも防げます。

 

Q.一人暮らしのため、安全に連れ出せるか心配です。

A.一人暮らしのため、他に頼る人もいないので、心細くて不安だという人もいるようです。自分がパニックになって行動がスムーズにいかない、判断ができないとなった場合に役立つのが「アクションカード」。あらかじめ、何かがあったらどうすればいいのか、行動・手順を記載したカードです。例えば「愛犬を連れ出すことを忘れない」「備蓄品は○○と□□」「持ち出すのは△△と××」というように、細かく書いておくといいでしょう。

パニックになると自宅の電話番号を言えなくなる人もいるので、緊急連絡先を書いておくこと。またカードがあることすら忘れてしまう場合もあるので、壁に張っておくなどの工夫をしておくと安心です。

一人暮らしなので、避難のための装備品をあまり多く持ち出せないということが心配なら、保管場所を工夫しましょう。車があるなら、品質管理がデリケートでないものは、車内やガレージなど、あとからでも取り出しやすい場所に保管するようにします。

あくまでも一番に優先することは、自分と犬がスムーズに避難できるようにすること。ですから装備品は、無理にたくさん持ち出すのではなく、保管場所を工夫することで対応するようにしましょう。

 

Q.留守番時に災害があった時、すぐに迎えに行けるのか不安です。

A.職場が遠いなどで、すぐには帰宅できず、愛犬が無事でいるかどうかがわからず不安。そんな場合は、信頼できる犬仲間などに、自宅のカギを預けておくこともひとつの方法です。ただし、他のトラブルにつながる可能性もあるので、あまり積極的におすすめはできない方法です。

自宅に見守りカメラを設置するというのも、犬の安全を確認できる方法です。しかし、下敷きになっているところを見てしまったり、何もできないでいるということにもなりかねないので、決してベストな対策とは言えません。

集合住宅の場合は、管理人さんに連絡して、犬の様子を見てもらうこともできます。

このようなことが起きた場合、どう対処するか、あらかじめ考えておきましょう。日頃から近所の人とコミュニケーションを取るようにして、共助のコミュニティを作っておくことも大切です。家に入らないでも、外から見て「家は崩れてないよ」「火事になっていないよ」と連絡を取り合える仲間がいるのは心強いことです。

 

Q.愛犬との旅行先で被災した時、どうすればいいのでしょうか?(愛犬は療法食です)

旅行先で、日頃食べている療法食と同じ銘柄のものが買えればいいですが、手に入らないこともあります。2泊3日で旅行するなら、ピッタリ日数分だけでなく、1週間分を用意しておくなどすれば安心です。

療法食のメーカー名や名称を忘れてしまった時のために、スマホで撮っておくのもおすすめです。 また、かかりつけ医に相談して、他のメーカーで同じ機能がある療法食があるかどうかも聞いておきましょう。「このメーカーであればベストじゃないけど、しばらくなら大丈夫」という療法食をいくつか聞いておけば、手に入るものでしのげるかもしれません。

ダイエット食なのであれば、量を減らすなどの工夫で対処できることもあります。まずはかかりつけ医に相談をしてみましょう。

 

避難生活

Q.「同行避難」と「同伴避難」の違いを知りたいです。

A.「同行避難」と「同伴避難」の違いは、私が代表を務める「NPO法人アナイス」のFacebookに詳しく解説していますが、簡単に言うと次の通りです。「同行避難」とは、危険な自宅から安全な場所へ避難する避難行動のこと。「同伴避難」とは、避難した場所に飼い主とペットが一緒にいる状況のこと。言葉は似ていますが〝行動〞を示す言葉と〝状況〞を示す言葉なので、そもそも対照となる言葉ではありません。

ですが「同行避難」は、同じ場所に避難するけれど犬は屋外で飼育する。「同伴避難」は、屋内で一緒に寝泊まりできることだと間違えて認識されることが多くあります。動物の情報を発信するサイトやニュース、特集記事ばかりではなく、自治体のホームページでも、間違って解釈されていることがあります。

言葉を間違って理解することで、情報を違うように解釈してしまうこともありますので、違いをきちんと理解しておきましょう。

■「NPO法人アナイス」公式
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POINT

持っていく装備品は汎用性のあるものを
犬専用グッズだけではなく、ガムテープやビニール袋など汎用性のあるものを準備しよう。

安全が確保できれば在宅避難も選択肢に
愛犬が慣れている家が安全であれば、そこが一番の避難場所。在宅避難も考える。

 

Q.避難先がペットを受け入れてくれるか不安です。また、多頭飼いでも受け入れてもらえますか?

A.避難所を開設している自治体にとっては、1人が何匹の犬を飼っているかよりも、避難所に何匹の犬が来るのかが問題になりますので、多頭飼いかどうかはあまり関係がないと思います。

ですがご自身で多頭飼いという認識があり、避難所で複数の犬が集まったらどうなるか、愛犬の性格がわかっていて心配なのであれば、在宅避難も含めて、避難所以外への避難を考えてもいいと思います。

避難する場所を確保するために、一時的に動物病院、ホテル、実家、親戚などに預かってもらう「分散避難」を検討しておくのも有効です。多頭飼いかどうかに関係なく、自治体に犬が多ければ、避難所には入れない可能性もあります。その時にどうするか、多頭飼いならなおさら考えておく必要があります。

 

Q.環境の変化による、愛犬の体調不良が心配です。管理はどうするのがベストでしょうか?

A.
飼い主も避難していて大変ですが、犬の様子をしっかり見ることが大事です。阪神淡路大震災では、シェルターに収容された犬の6割が10日以内に下痢、嘔吐、食欲不振など、ストレスが原因と思われる症状を見せています。

また愛犬がかわいそうで、オヤツをいつも以上にあげてしまうのも、犬が体調を崩す原因になります。

さらに愛犬の様子がおかしい時に、素人判断をしないこと。一見、平気そうでも、冬毛の柴犬はモコモコで、打撲があってもわかりません。いつもよりおとなしいとか、痛そうだと思ったら、内臓に被害が出ているかもしれないので、早めに獣医師に診てもらいましょう。

 

Q.愛犬の糞尿の処理はどうすればいいのでしょうか?

A.避難所では、一般ゴミ、赤ちゃんのおむつ、感染症が流行った時の患者さんの吐しゃ物は、分けて処理されるのが基本です。しかし災害時は、ゴミ収集車がすぐに回ってこないので、一時的に溜めることになります。その時に犬の排泄物をどのように処理するのか、確認しておきましょう。

処理する時は、なるべく人の迷惑にならない場所に集める、においがしないよう袋を二重、三重にするなど、避難所と相談して決めるように。

またオスのマーキングは、人が通行する通路、食事の配給をする場所、手洗い水道などではさせないように気を付けることが大切です。

においを抑えるビニール袋も市販されているので、避難時の装備品に入れておくといいかもしれません。

 

Q.田舎なのでいざ被災した場合、避難場所まで遠いため愛犬をどう避難場所まで連れて行くかが心配です。

A.新潟や熊本での災害時は、愛犬をわざわざ移動させるのではなく、田舎の広い敷地にある安全な自宅に置いておく人も多かったようです。飼い主は避難所からお世話に行ったり、在宅避難をしている近所の人に面倒を見てもらったりする共助があったと聞いています。犬にとって避難所へ連れていくことがストレスになるなら、それで問題ないと思います。これは田舎だからこそのメリットです。

田舎は地域の住民同士で、どこに誰が住んでいるのかを把握しているので、行方不明者が出なかったという事例もあります。

また電気がなくても、日の出とともに起き、日が沈んだら寝るという生活に慣れていれば問題ありません。そして水道は井戸水、ガスはプロパンガス、冷凍庫は大きなものを置いて肉を凍らせているので、簡単には溶けない。さらに野菜は畑に行けば手に入るとなれば、田舎であることのメリットは、大きいのではないでしょうか。

犬連れならではのメリットに目を向けた対策で飼い主力や防災力をアップ!

犬は飼い主とともに社会参加し、日常的に他人や他の犬に慣れることができる。呼び寄せ、クレートトレーニングなどのしつけも、犬との生活が始まったその日から取り組める災害対策だ。飼い主には、家族や犬を守るための心構えが必要だが「避難所に行けばなんでもある」「誰かが助けてくれる」と他力本願な人も少なくない。この機会に、犬を守るために何ができるのかを考えてみよう。散歩仲間で助け合う「共助」も犬連れならではの災害対策だ。

Shi-Ba Vol.123『本誌読者のソボクな疑問集 教えて!防災Q&A』より抜粋

-飼い方