第10回 迷い家(まよいが)
陸奥国(今の岩手県)の山奥に、道に迷った人が行きあたってしまう無人の家がある。庭には花が咲き乱れ、家畜小屋には馬や牛がいる。家に入れば火鉢に置かれた鉄瓶から湯気が出ており、確かに人が住んでいる気配があるのに姿がない。この家に出くわしたら、何でもいいから家の中のものを1つ持ち帰ると運気が上がるという。
ちなみに、ある無欲の女が何も取らずに帰ったら、後日こんな幸運があったという。その女が川で洗い物をしていたら、迷い家のある上流から朱塗りのお碗が流れてきた。あまりに美しいので持ち帰り、家で雑穀を計るのに使ったところ、いくらすくっても雑穀は減ることがない。やがて女は金持ちになったそうな。
山奥で行きあたったのが本当の迷い家なら、あとで必ず「贈り物」がある。つまり無欲な人には必ず良いことがある。迷い家は人を試しているのだ、と私は思う。
【参考】
「決定版 日本妖怪大全」水木しげる 講談社文庫
「絵で見る 江戸の妖怪図巻」善養寺ススム/江戸人文研究会 (廣済堂出版)
絵と文/影山直美