備えておくべきお金のハナシ 日本犬の医療費

愛犬にかかる費用のひとつとして欠かせないのが医療費だ。いざという時のためにも、日本犬の医療費はどのくらいになるか目安を知って、愛犬のために準備しておきたい。

Text:Hiromi Mizoguchi Illustration:Yuko Yamada

子犬・幼犬期

避妊・去勢

性ホルモンが関連する病気を予防するためは、メスは最初の発情がくる前の生後5~6ヶ月頃、オスは生後7ヶ月~3歳未満までに行うのが理想的。
最近は腹腔鏡手術で行うケースも増えている。

かかる費用目安

避妊手術3万~7万円くらい
去勢手術2万円くらい

寄生虫トラブル


子犬を迎えて下痢や嘔吐が見られる場合、原因としてウイルスと腸内寄生虫によるものが圧倒的に多い。
糞便検査で腸内寄生虫がいると判明したら、駆虫薬と整腸剤を処方し、様子を見て再検査する場合もある。

かかる費用目安

5,000円くらい

誤飲・誤食


家の環境に慣れてくると、遊んでいてオモチャやペットシーツなどをうっかり飲み込んでしまうこともある。
飲み込んだものが詰まった場所によっても違ってくるが、催吐処置や内視鏡、開腹手術で取り除く。

かかる費用目安

1万〜30万円くらい

 

成犬・中年期

尿路結石

血尿が出たりして尿路結石が疑われる場合、尿検査や超音波検査など状態に合わせた検査で診断していく。
石が尿道に詰まっていると手術が必要になる。食事療法が必要な場合は別途、療法食の費用もかかることに。

かかる費用目安

6,500円くらい
手術の場合25万円前後

外耳炎

外耳炎を引き起こす原因にもいろいろあるため、耳鏡検査や耳垢検査で何が原因になっているかを調べる。
例えば原因がマラセチアだった場合、2週間程、点耳薬を続けることが多い。

かかる費用目安

原因と症状にもよるが1万~4万円くらい

アトピー性皮膚炎

犬のアトピー性皮膚炎は加齢とともに悪化するため、発症したら継続治療となる。
診断されるまでの検査で2~3万円くらいかかる。治療には痒み止めの他、薬用シャンプーなど状態に合わせて行っていく。

かかる費用目安

1ヶ月に1万5,000円くらい

前十字靭帯断裂

中齢から高齢の犬に見られることが多い。触診やレントゲン検査などで診断していく。基本的には手術となる。
手術の内容により費用は異なるが、1週間程の入院となる場合が多い。

かかる費用目安

30万〜50万円くらい

 

シニア期

前庭障害

めまいを引き起こす病気で、原因はさまざま。
脳の問題が考えられる場合、MRIで調べることもあるが、10歳以降だと麻酔のリスクもあるため、めまいを抑えるだけの治療を飼い主さんが希望するケースも多い。

かかる費用目安

めまいを抑える治療の場合
4,000〜5,000円くらい

緑内障

発症すると一生治療を続ける必要があり、点眼薬だけで視力の維持は難しい。状態によっては眼科専門の動物病院で手術が必要となる場合も。
初期は点眼薬と定期的な眼科検査を行っていくことになる。

かかる費用目安

1ヶ月に1万円くらい

腎臓疾患

年齢を重ねるにつれ、増えてくる病気のひとつ。尿検査や血液検査などで診断していき、軽度の場合であればサプリメントや腎臓用の療法食を与えていく。
必要に応じて定期的な検査も欠かせない。

かかる費用目安

1ヶ月に1万5,000円~2万円くらい
(血液検査やサプリメント代)

小腸リンパ腫

シニア犬で下痢が長期に続き、食欲はあるけれど痩せていく場合に考えられる病気。診断には病理検査が必要で、費用として15~20万円くらい。治療は抗がん剤投与となるがその方法もいろいろある。

かかる費用目安

抗がん剤治療として1回につき1万5,000円〜2万円くらい(血液検査やサプリメント代)

昔に比べて、犬の寿命が確実に延びてきたのは、獣医療が著しい進歩を遂げてきたからだと言われている。
かつては診断ができなかったり、治療が難しかった病気も対応できるものが増えてきた。検査に使われる機械も人間に使われるものとほとんど変わらない、高性能のものを導入する動物病院も少なくない。

愛犬を怪我や病気などから守るためには喜ばしいことではあるものの、一方で獣医療の高度化にともない、医療費が高額になる場合もある。診療費、検査費、手術費、薬代などは動物病院によって異なってくる。「動物病院によって治療費が違うのは、独占禁止法により自由診療と定められているからなのです。技術向上のための学会やセミナー参加費、図書費、設備費、薬や消耗品の仕入れ、光熱費、家賃やローンの返済、スタッフの人件費、受け入れ可能な診療頭数など、条件は各動物病院で違いがありますから、それらを考慮したうえで治療費などを決めていくことになるのです」と野矢先生。

まずは、柴犬のかかりやすい主な病気やトラブルのおおまかな費用を紹介。費用は動物病院によって異なるだけでなく、その犬の病状に応じた検査や治療を行う必要があるということを頭に入れておいてほしい。

予防医療にかかるお金

予防医療その1 ワクチン

狂犬病ワクチン
自治体による集合注射の場合
3000円前後
(別途:注射済票交付手数料550円)

狂犬病予防法により、義務づけられているのが狂犬病ワクチン。生後91日以上の犬を飼い始めたら30日以内に接種を行い、以降は年1回行う。住んでいる市区町村で行っている集合注射、あるいは動物病院で接種する。集合注射で行う場合は市区町村ごとに注射料金は値段に違いがある。動物病院で行う場合も、各動物病院で異なる。注射料金に加えて、狂犬病予防注射済票の交付手数料がかかる。

混合ワクチン
2~3種2,000~5,000円くらい
4~6種4,000~9,000円くらい
7~10種7000~10,000円くらい

混合ワクチンは任意のものとして、狂犬病ワクチンのように義務づけられてはいない。
ただ、伝染性の病気の中には発症すると命に関わるものも少なくないため、予防に努めるようにしたい。混合ワクチンには全ての犬に接種すべきコアワクチンと、生活環境や行動範囲など感染のリスクに応じて接種するノンコアワクチンとに分けられる。何種のものを接種するかによって値段に違いがあり、動物病院によってはワクチンの料金以外に診察料が別途かかるところもある。

犬の病気の中にはワクチン接種や薬などによって、予防可能なものがある。

狂犬病ワクチンや混合ワクチンは恐ろしい伝染性の病気から愛犬を守るだけでなく、ドッグランやペットホテルによっては接種証明書がないと利用できない場合もある。

また、ノミやダニ、フィラリアの予防も大切だ。蚊を見かけなくなったから、薬はもういいかなと勝手に判断せず、必ずかかりつけの動物病院の指示に従って与えること。「ダニは1年を通して草むらなどで生息していますから、年間を通して予防を心がけておきましょう」

療法食をはじめ、ここで紹介しているそれぞれの費用も動物病院によって異なるため、あくまでも一例として参考にしてほしい。

予防医療その2 ノミ・ダニ・フィラリア
予防薬
オールインワンで月1回投薬成犬(約10kg)の場合
1,500~2,000円

外部寄生虫として、さまざまなトラブルを引き起こすのが、ノミ・ダニ・フィラリア。予防薬にはノミ・ダニとフィラリアで別々になっていたり、両方を兼ねていたり、腸内寄生虫の駆除が含まれていたりと種類がある。

フィラリア予防のみだと年1回の注射というものもあるので動物病院で相談を。ただし、フィラリアに関しては毎年投薬を始める前に必ずフィラリア成虫抗原検査を受けること。

ノミ
犬が感染する主なものにはイヌノミ、ネコノミがある。寄生することで皮膚にトラブルを引き起こしてしまう。

フィラリア (犬糸状虫)
蚊の媒介によって感染 する。犬の肺動脈や右 心房に寄生することで 年齢に関係なく生命に 大きな影響を及ぼす。

ダニ
マダニはさまざまな病気 を媒介する。特に『重症 熱性血小板減少症候群(SFTS)』は犬も人も命に関わる怖い病気だ。

予防薬の種類

スポットタイプ
首の後ろに滴下して、経皮吸収させるタイプ。飲み薬が苦手で、なかなか食べてくれない犬の場合に有効的。首に1箇所さすだけで、簡単に投与できる。

チュアブルタイプ
口から摂るものとして、錠剤タイプ以外にチュアブルタイプもある。犬が好む風味がついており、オヤツのような感覚で食べてもらえることが多い。

予防医療その3 療法食
予防薬
ドライ(3kg)8,000円前後
缶詰(200g)450円前後

その病気の治療として悪化を防ぐための療法食には尿路結石、腎臓、肝臓、皮膚病、糖尿病、病後の回復 期用など、いろいろな病気や目的に合わせて作られている。ドライフードと缶詰と2タイプがある。療法食は必ず獣医師の指示のもと与えることが大切。安易に自分で買ってきて与えてしまうと、病気を悪化させる可能性があるため注意したい。一般食と療法食の中間となる準療法食というのもある。その場合も必ずかかりつけの動物病院に相談して与えること。

療法食、食べない時は

缶詰タイプを上手く活用してみる
同じ療法食で缶詰タイプがあるのなら、ドライフードに缶詰をトッピングしてみよう。犬によって缶詰のほうが好みという場合もある。ただ缶詰タイプのほうがドライフードに比べて値段が高い。

いきなり全部は替えず徐々に慣らす
いきなり療法食のみにするのではなく、今までのフードと半分ずつ混ぜることから始める。様子を見ながら時間をかけて5~10%ずつ前のフードの割合を減らしていき、療法食の味に慣らしていこう。

温めてにおいが出るようにしてみる
温めることでにおいが強くなるので、それに惹かれて食べてくれる場合もある。またどうしても飽きてしまって食べてくれない場合は、獣医師と相談しながら、手作り食にするというのもアリ。

メーカーを変えて試してみる
同じ病気のための療法食でも、メーカーによって嗜好性などが異なることも。獣医師と相談して、メーカーを変えて与えてみるのも方法のひとつ。変えたとたん 食べてくれるケースも少なくない。

※いずれもかかりつけ医に相談のうえ

健康診断にかかるお金

ドッグドック
7歳未満の場合(基本診察の他、尿検査・血液検査)
1万2,000円~1万5,000円くらい

健康なまま愛犬と少しでも長く一緒に過ごしたい、とはどの飼い主も願うこと。そのためには定期的な健康診断は欠かせない。どのような検査を行うかは、動物病院によってさまざま。ひととおりの検査がコースになっている場合もあれば、最近気になっていることや予算などをヒアリングしながら、検査項目を決めていく病院もある。病気が増えてくる7歳以降は、若い頃より検査項目も増えると考えておきたい。

尿検査


検査の中でも気軽にできるのが尿検査。オシッコからいろいろな情報がわかる。
尿検査には、オシッコの濃さがわかる尿比重、pHなどを調べる尿試験紙、結晶や細菌などがないか調べる尿沈査がある。

かかる費用目安

1,000 ~2,000 円くらい

血液検査


7歳未満の若い時期であれば、尿検査と合わせて 最低限やっておきたいのが血液検査。
赤血球、白血球、貧血以外に肝臓や腎臓など調べる項目数によって値段が違ってくる。

かかる費用目安

8,000~1万5,000円くらい

超音波検査


心臓や腹腔内の臓器などの形や大きさ、状態を確認する検査。7歳以降はレントゲンとともに行っておくとより安心。
聴診で心臓雑音があった場合、胸部の超音波検査で詳しく調べることもある。

かかる費用目安

何箇所調べるかにより5,000~1万円くらい

糞便検査
ウンチの中に寄生虫やその卵がないか、細菌の状態などを確認するのが糞便検査。
尿検査と同様に犬が痛い思いをせず気軽にできる検査なので、健康診断時だけでなく2~4ヶ月ごとに行っておくのがオススメ。

かかる費用目安

1,000~2,000円くらい

眼科検査
柴犬は緑内障を発症しやすい犬種でもあるため、7歳以降から眼科検査を加えておきたい。
検査にはいくつかの種類があり、角膜や水晶体の状態の確認、涙の量や眼圧の測定、眼底検査など状態に合わせて行う。

かかる費用目安

5,000~8,000円くらい

レントゲン検査


中年期以降、年齢とともに腫瘍や関節炎が起こりやすくなるため、レントゲン検査も加えたい。
どの部分を何枚撮るかによって費用は違ってくる。動物病院によっては読影料が別途かかる場合もある。

かかる費用目安

1枚につき 2,500~5,000円くらい

病気になれば治療費がかかるし、予防のためにはもちろん費用がかかる。いずれも愛犬のためであり、飼い主の責任として当然のことだ。

下のグラフは読者アンケートで集まった回答を元に作成したもの。年間の医療費として最も多かったのは「6万円未満」だったが、10万円以上というお宅も割合として少なくない。また、2050万円以上をかけているお宅もあり、持病の有無や年齢など、愛犬の身体状況によって出費に幅が出ていることが考えられる。そして高額でも実施している医療としてダントツだったのが「ドッグドック」。犬の場合も人と同じで、病気の早期発見・早期治療を行うことで、重症化してから治療にかかるよりもトータルの費用面を抑えられるのかもしれない。

野矢先生がおすすめする健康診断の頻度は次のとおり。7歳までは年1回、7歳過ぎからは年2回、10歳を過ぎたら年4回が理想とのこと。「予算もあるでしょうから、毎回の健康診断で必ず全身の検査を行わなくても構いません。聴診と触診だけでもいいから、動物病院で定期的に診てもらい、日頃の健康チェックが病気の早期発見につながると思ってもらえたらいいですね」

健康チェックは日頃から!

食欲と飲水量の増減
食欲がこれまでと比べて増えた、減ったかを確認する以外に水を飲む量にも注意しておきたい。飲水量が増えてきたら病気の可能性が考えられる。

ウンチがいつもと違う
ウンチの状態もオシッコと同様に普段からよく見ておきたい。健康時の量や色、カタチを覚えておき、いつもと違っていないかチェック。

息遣いがいつもと違う
日頃から愛犬の様子をよく見ていれば、激しい運動後でもないのにハアハアしているなど、息遣いがいつもと違うことに早めに気づくことができる。

歩き方や行動の変化
どちらかの足を挙げているなど、歩き方が普段と違っていないか。散歩に行きたがらない、寝てばかりいるなど行動の変化が見られないかも確認を。

オシッコがいつもと違う
オシッコの量や色を普段からよく見ておくことで、ちょっとした変化に気づくことができる。また排尿時に痛がったりするなら早めに診てもらおう。

目の様子がおかしい
目の色や輝きがどうかだけでなく、目の形が左右対称になっているか。頭の真上から見て、左右の眼球の出方が違っていないかも確認しておきたい。

くさいにおいがする
体臭や口臭がこれまでに比べて強くなったなど、においの変化にも注意。また、耳がくさくないか、耳の内側の色が赤くないかなどもよく見ておこう

かゆがる
かゆがっている場合は気づきやすい。それ以外に毛ヅヤや皮膚の色に変化がないか、脱毛がないかどうかも気をつけて見ておくようにしたい。

体型の変化
体重の増減チェックに限らず、体を触ることを習慣にしておきたい。肋骨が触れるようになれば痩せてきた、反対に腰骨が触れなければ肥満傾向だとわかる。

監修:野矢雅彦先生
ノヤ動物病院院長。
日本獣医畜産大学獣医学科卒業後、1983年よりノヤ動物病院を開院。
著書に『犬の言葉がわかる本』(経済界)、『犬と暮らそう』(中央公論新社)他多数。

ノヤ動物病院/埼玉県日高市上鹿山143-19
☎042-985-4328
http://www.noya.cc/

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