クレートは閉じ込められる嫌な場所?「ここは落ち着くな〜、ほっとする」と犬にとって安心・安全な場所にすることで、さまざまなメリットがあるというもの。愛犬に無理なく教えるためにはどうすればいいのか紹介しよう!
クレートを使うメリットいろいろ!
音に敏感な日本犬も少なくない。花火や雷などは慣れさせようとしても人間が刺激レベルをコントロールすることは難しい。花火や雷は時間が経てば止むので、安全だと感じるクレートに入るだけでも犬のストレスは軽減する。クレートは日常における利用だけでなく、持ち運びしやすいので外でも活用できる。動物病院や旅行中に安心できる場所を持って移動することが可能だ。
また万が一の災害時にも、布製のキャリーバッグなどよりも強度があるなどクレートはさまざまな場面で活用できる。
家の中に愛犬が安心できる休息場所を確立させよう
「人間と同様に、犬も睡眠を含む安定した休息をとることは心と体の健全性につながります。犬を迎えたらこれから犬が暮らしていく生活環境の中で、安心できる休息場所をできるだけ早く確立させてあげることが大切です」と堀井先生。
安心できる休息場所というのはクレートに限らず、ペット用のベッドでもかまわない。だが、上でも述べているようにクレートは他のグッズよりメリットが多い。クレートを愛犬の安全地帯にしてあげよう。
そのために、まずはクレートが不快な場所にならないように心がけておきたい。例えば、クレートの中に無理矢理押し込んで入れるとか、犬が望ましくないことをした際に閉じ込めてしまうとか、そのような行為は絶対にしないこと。
「一度でもそんな経験をすると、日本犬の場合は前にこんなことがあったから今度も閉じ込められるかもしれない、と予測して入るのを嫌がるようになりがちです。クレートトレーニングを行う際にはくれぐれも焦らないようにしましょう」
用意するクレートの大きさは、犬が中に入った時にちゃんと方向転換ができ、無理なく立位姿勢がとれるものがよい。狭すぎると拘束感がある状態が苦手な犬には居心地が悪く、頭を下げないと入れないものでは入ることに躊躇してしまう。
逆に犬の体に対して広すぎてしまうと、中で排泄するきっかけになってしまう可能性も特に子犬でありがちだ。だが、今回紹介する方法であればその心配はない。成犬になった時のサイズに合わせて選んであげよう。
ちなみに家の中で、クレートはどこに置くのがよいだろうか。
「犬の様子がわかるように、リビングなど人の目が届く場所である必要があります。そして人の動線上は避けて、比較的静かで直射日光が当たらない場所がいいでしょう」
犬用の部屋を与えている家も少なくないが、きちんと犬の様子を見ていて、犬が来てほしいと要求して吠えている時には行かないなど、適切な接し方ができていれば問題ない。
また、最近子犬を迎えた、これから迎えようと考えているという場合や、怖がりで警戒して吠える、拾い食いが多いという場はサークルを利用し、理想として180cm四方程のスペースを設け、生活領域の区切りをつけてあげたほうがよい。その中に休息場所となるクレートを置いてあげよう。
現在、特に何も問題がないのであればクレートだけを生活環境となる部屋に置くスタイルで構わない。
クレートに入る過程では人が介入しないことが大切
トレーニングの基本的な流れは上の通り。大事なのは、クレートに犬が入る過程において、決して人が介入しないこと。飼い主は犬に見られないように準備しておくだけ。
あからさまに犬の目の前でオヤツを入れたり、「中に入っているよ」と声を掛けて誘導したりすれば、人がいる状況で中に入るといいことが起こると学習する可能性がある。クレートが犬にとって安心・安全な場所になるように教えたい場合は、あくまで人がいない状況でも犬が自発的に入ることが重要なのだ。
また、クレートに入ったことがうれしくて凝視しがちだが、飼い主から注目されていることを犬が感じてしまうと、注目されていないと入らなくなってしまう場合もある。くれぐれも凝視するのは避けること。
コマンドをつけたい時は、犬が抵抗なく出入りするようになったら、入る瞬間に「ハウス」などの言葉をつけていけば覚えるようになる。
大抵の場合、この方法で自発的にクレートに入ってくれるようになるが、すでにクレートが苦手になっているなど、3日間全く入る気配がないようならオヤツをより嗜好性の高いものに変えてみよう。それでもダメなら専門家に相談が必要だ。
事前準備
クレートを安心・安全な場所と愛犬に認識してもらうためには、犬に見られないようにして事前の準備をしっかり行うことが肝心。
毛布など、中に入った際に犬が快適と感じる素材のものを敷き詰めたら、5mm角くらいの大きさにしたオヤツをちりばめておく。クレートの扉は外したまま、置きたい場所へ置いておく。
敷物は寒い時期なら温かみがあるもの、暑い時期なら冷感素材など季節に合わせて。宝探しに慣れてきたら、オヤツは敷物の中に入れて鼻で探させて。もしオヤツを入れているのを犬に見られても、犬の相手はせずに知らんぷりしてその場を立ち去ること。
宝探し
クレートに入れたオヤツを犬が自分で見つけて入っていくのを待とう。犬が入っていく様子は凝視しないこと。
「何かおいしそうなにおいがするなぁ」と中にちりばめておいたオヤツを見つけて食べさせることを繰り返す。最初のうちは奥まで入らなくてもOK。“あと少し”と思っても絶対に犬を押さないこと。
1日2回程、犬が自分から中に入って宝探しを続けていくと、クレート内に留まる時間が少しずつ長くなる。宝探しの喜びからクレートは大好きな場所になり、やがて寛ぎの場所になる。オヤツを入れていなくてもクレートに入るようになってくる。
扉を閉める
オヤツを入れていなくても中に入る頻度が高くなり、中で休憩している様子が見られたら、クレートの扉を閉める練習をしてみよう。
片手でオヤツを持ち、もう片方の手で扉を持つ。閉める方向へと扉をゆっくり動かしながら扉越しにオヤツを食べさせる。最初のうちは扉の留め具はとめず、扉の動きだけにしておく。
扉が開く方向へ動かす際にはオヤツは与えないこと。扉が閉まる方向に動くとオヤツがもらえる、開く方向に動くとオヤツはもらえない、と繰り返して、扉の動きに慣れさせていく。
扉を開け閉めする動きに犬が慣れてきたら、いよいよ扉を閉めてみる。扉を閉めた状態で外からオヤツを食べさせる。扉が閉まっているほうがいいことがあると覚えさせよう。
ここまでくれば扉を閉めても落ち着いて入っていられるように。扉を開けて出すタイミングはいつでもOK。ただし、オヤツを要求して吠える場合は開けず、犬が落ち着くのを待ってから。
最初にクレートに入る際に慎重だった犬の場合は、扉をつけるのも慎重に。いつ見ても中で休んでいる状態になってから扉を閉める練習を始めよう。外出時に扉を閉められるようにするためのものなので日常生活でクレートを使う際には扉は外したままでOK!
監修:堀井隆行先生
ヤマザキ動物看護大学動物看護学部動物人間関係学科講師。
Text:Hiromi Mizoguchi Photos:Minako Okuyama
Shi-Ba vol.125「心地よい環境づくりのためのレッスン・クレートは安全地帯!」より