まる子:2021年5月現在13歳のおばあちゃん。体重は8.6kg。7歳の猫兄妹と同居。2020年夏頃から体調、行動、見た目など様々な変化が現れるようになった。
怒りっぽくなる「易怒性」は不安の現れでもある
生後4ヶ月から毎月動物病院のトリミングに通っていたまる子。しかし、昨夏にトリミングから帰宅後体調を崩した。獣医師と相談しシャンプーをやめて10ヶ月。13歳なので心臓に注意するよう言われたのと、最近は動物病院に行くと呼吸が荒くなるので、心臓に負担をかけたくないことからの決断だった。
その結果、自宅でのお手入れ時間は従来の3倍以上かかり、気がつけばブラシを嫌がる犬に(涙)。ブラッシングはどちらかというと好きな方だと思っていただけに「ブラシをかけようとすると怒る時には噛もうとしてくる」行動は想定外だった。他にも、庭に出たい時は破る位の勢いで網戸に体当たりするし、抱っこの時は全力でピチピチと暴れる。この1年でとても我が強くなった印象だ。
「犬の認知症で活動性の変化と共によく見られるのが、攻撃性の亢進です。人の認知症では『易怒性(いどせい)』と言われ、今までできていたことができなくなってきた不安などが元で怒りやすくなったりします」と茂木先生。また、怒りを抑制していた脳の機能がうまく働かなくなることで「嫌だ!」という感情がストレートに出てきやすくなるのだそう。
考えてみれば、今まで一見おとなしくブラッシングされてはいたけれど、犬側の思いはさまざまだったのかもしれない。
例えば「首や胸は気持ちよくて好き」「じっとしていないと飼い主に怒られる」「昔はブラシの時にオヤツをもらえたのに、だんだんもらえなくなった。でも毎日のことだから、諦めた」などだ。
「おとなしく触られていたらごほうびをあげてほめるなど、『触られても平気だし気持ちがいいな』という感覚を犬が持てるようにしたいもの。昔は教えていたけれど、という飼い主さんが多いですが、犬が忘れてしまうこともあります。一から教え直すつもりで頑張ってみましょう。食欲がある犬は再トレーニングのチャンスです。日本犬は自分から触ってほしくて寄ってくる時もありますが、触られることへの過敏性が強い犬種でもあります。飼い主が犬の行動をコントロールできるアプローチをしておくことが大切です」
まる子的ブラッシングが嫌! その理由を想像してみると……
もともとブラッシングは苦手ではなく、むしろ首まわりなどはうっとりして目をつぶっていたほど。しかし、ここ1年で急に嫌がるようになったので、我が家なりに原因を見つけ出そうと試行錯誤の日々が続く。
ブラッシングの時間が長いのが嫌!?
昨夏、シャンプーから帰宅後に体調が悪化。今はトリミングに行っておらず、飼い主が必死にブラシをかけるので、必然的に時間が長くなる。
首輪を持たれるのが嫌!?
あまりにも暴れるので、試しにハーネスを持ってブラシをかけてみたら、少しおとなしくなったが、2~3分もすると嫌がって動き出す。
ブラシの種類が嫌!?
今まで使っていたのは左のピンブラシ2種。とりあえず、シリコン製で刺激が少なそうなものをいくつか買って試してみた。結果はまずまず。
玄関という場所でやるのが嫌!?
抜け毛が綿飴のように落ちる今。玄関を開けた時に毛が飛び近所迷惑になるのを恐れ、つい掃除機をかけてしまった。当然激しく嫌がりパニックに。
年をとってわがままになった!?
何かと我慢がきかなくなったまる子。庭に出たい、飼い主を独り占めしたい、隣の部屋に行きたいなど生活の他の場面でも強い自己主張が見られる。
早くゴハンが食べたいから嫌!?
散歩から帰宅後、ブラシ、足拭き、台所でゴハン、の流れ。最近食欲がすごくて、お手入れが終わるとゴハンめがけて台所へ猛ダッシュ。
結果、落ち着いたのはこの形
食いしん坊には食べ物で応戦だ
◆ピンブラシをやめ、刺激が少なく毛の飛散も少ないラバータイプに変更
◆散歩から帰宅後はすぐにゴハンにして、ブラシは後回し
◆ブラシの時は細長く硬いオヤツを使う
◆首輪はなるべく持たないようにする
◆比較的穏やかな時に何気なくやってみる
◆1回のブラッシングで毛が思うように取れなくても、諦める
◆行う場所は玄関ではなく、リビングで
◆掃除機は庭で遊んでいる時など、犬が部屋にいない時にかける
においが強く硬くて長い乾燥姫タラのジャーキーを使ってブラッシング。我が家の場合、これで3分くらい時間が稼げる。1袋千円弱。貧乏家族には良いお値段だ。大きめのものが4本入っている時と、小さめのものが6本入っている時がある。もちろん、6本入りを狙って購入。
接触感覚は最後まで残る。シニアになると、急に触られた時に驚いて噛みつくケースも増えるので、トントンと体を触られたら、何か良いことが起きる、と教えておこう。
というのも、介護は最終的には「触る」お世話がメインになるからだ。体を拭く、抱っこでの移動、寝返りを打たせる、投薬などの機会は確実に増える。ケアを受ける際に、視覚や聴覚が衰えた犬が不安を抱かず、飼い主もスムーズにお世話できることは、両者にとってストレスを軽減することにつながる。
「そういったことからも、日頃のマッサージはオススメです。散歩の前後に行えば筋肉がほぐれますし、触られることにも自然に慣れていきます」
日々のお手入れや関わりの中で愛犬に「おとなしくしているけれど、触られることを我慢してる?」という気配を感じたら、ごほうびを上手に使い苦手意識を薄めていくようにしよう。
今回気になったこと(3~5月)
朝食を1分もかけず飲み干すおばあちゃん。散歩から帰宅後、ブラシをかけさせてくれないので、抜け毛ボーボー。「ゴハン、これだけ?」という表情も相まって、ヤサグレ感がハンパない。
【食欲】
ゴハンの時に興奮し、フードを器に入れる側から顔を突っ込むなど、食欲がすごい。
茂木先生によれば、
「食欲の亢進は認知機能不全の徴候ではありますが、小腸の機能低下による生理的飢餓感が原因のことも考えらます。1ヶ月に体重の3~5%重量より多い減少があれば(まる子の場合1ヶ月で300g、半年で2kg)フードを高タンパク高カロリーの物に変えられるのも良いでしょう」
まとめ
飼い主都合だけでお世話をすると、老犬さんにはストレスがかかることも!
監修:茂木千恵先生
東京大学大学院農学生命科学科獣医学博士課程卒。獣医師。専門は獣医行動学。ヤマザキ動物看護大学准教授。教育・研究活動のかたわら、東京都町田市内でペットの問題行動治療やパピークラスの開催も行う。「飼い主が幸せになれば犬も幸せになり、犬が幸せになれば飼い主も幸せになる」という考えをベースとし、飼い主の話をじっくり聞くことも大切にした指導は、多くの人や犬から好評を得ている。
Text&Photos:Mari Kusumoto
Shi-Ba Vol.119『おとボケまる子日記』より抜粋