おとボケまる子日記:その10 ロコモティブ症候群について知っておきたいこと

まる子:2022年8月現在、15歳。オヤツの肉や芋は新鮮なものを要求。最近はふざけながら体当たりや甘噛みもするお転婆ちゃん。趣味は同居の猫いじめ。

近頃よく聞く「ロコモティブ(運動器)症候群」(以下、“ロコモ”と略)という言葉を犬の世界でも耳にするようになった。どういうものなのか、また認知症との関連性などについて気になることを伺った。

ロコモか認知機能の低下かの見極めはなかなか難しい

最近よく目にする「ロコモティブシンドローム(略称「ロコモ」。和名では「運動器症候群」)」。ロコモが進行すると将来介護が必要になるリスクが高くなると言われている。「運動器」とは体を動かすために関わる組織や機関のことで、骨、筋肉、関節、靭帯、腱、神経などから構成されている。ロコモは運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態のことを表す。

高齢犬の場合、ロコモになるとどのような状態になるのだろうか?

「犬においても人と同様です。例えば散歩の際に今までよりも動きが遅くなる、または散歩に行きたがらないなどの行動上の問題が目立つようになります。そうなると既にロコモとしては進んでいる状態と言えます」

動物は気づかないうちから軽度の関節炎になっていることがあり、それが徐々に進行して痛みが出て、動きが鈍くなったり、動けなくなった時に初めて関節炎などの病気に飼い主が気づくといったことが多いそう。

「関節炎はいわば関節の老化現象なので、年を重ねるごとに増えていきます。一旦発症したらそれが治るわけではなく進行していきます。関節の潤滑油が減ってきたり、軟骨同士が接触することで炎症が起き、関節の滑らかな動きが失われます」

ロコモになりやすい犬のデータというのはないのだが、〝関節の痛み〞ということで変形性関節症を発症しやすい犬を調べると、大型犬に多いという結果が出てくる。

「どの犬種でも高齢になれば発症しやすいですし、太っている子はそうでない子に比べ発症するリスクは高くなります。また、若い個体でも見られるパテラ、股関節形成不全、免疫介在性関節炎などの原発疾患を持っているとロコモになりやすい可能性があります」

愛犬の行動に「今までと違って何か変だな?」と思うことがあったら、痛みを抱えている可能性がある。下の表はヤマザキ動物看護大学の動物臨床行動学研究室が作成した「動物の痛み検出スケール」。

これらの項目を頭に入れつつ、愛犬の行動を日々観察すると、痛みの早期発見につながることもあるので、ぜひ活用してほしい。

無理のない範囲でやってみよう!

平行抱っこで背中の痛み軽減

背中や腰に痛みがあることが多い高齢犬。抱く時は骨盤をしっかり支えるようにし、地面と平行な横抱きにすると痛みを軽減してあげることができる。縦抱きを嫌がる犬には即実践。

 

立って座るを繰り返すのもオススメ

「立って座る」のコマンドを繰り返すだけでも下半身の筋力をUP。100円ショップの滑り止めシートは超オススメ。またスラローム遊びは、普段歩く時には使えない脇の筋力や体のバランス力の維持に効果的。

 

この他、犬の行動で読み取る痛みのサインとしては、次のようなものがある。
■運動がうまくできない、痛そうなそぶりを見せる。
■排泄時になかなか場所が決まらない、しんどそう。
■散歩に行きたがらない。
■今までジャンプして立ち上がっていたのにできない。
■丸まって寝なくなった(背中が痛いから曲げることができない)。
■勢いよく起きることがなくなった。
■抱っこをせがむようになった(痛みのせいで不安が高まっている)。
■ナックリングがある(歩く時に前足が馬のようにポクポクしている=筋肉が落ちているので前足に力が入らない)
などだ。

「排泄途中でやめて歩き出すことがあると便秘? と思うかもしれませんが、足が痛くて踏ん張れないことも考えられます。またトイレトレーからはみ出すようになった場合、トレーをまたぐ時に痛みが生じ『ここをまたぐと痛いから入りたくない』と認識している可能性もあります」

足や腰に痛みが生じると、ほんの少しの段差でも辛いもの。高齢犬の暮らすスペースはフラットで滑らない工夫をし、もちろん階段などには落下防止のゲートを設置したり、ソファなどにはスロープをつけるか思い切って撤去することも必要だ。
玄関周りなどの段差で痛い体験をすると「ここを通ると痛いから散歩に行きたくない」と思ってしまい、運動量がどんどん少なくなる可能性もある。できる限りの環境整備をしよう。

ところで、犬の体をいつものように触ったら噛まれそうになり、動物病院で診てもらうと関節炎を発症していた、という経験が我が家ではある。ただ、日本犬の場合はもともと、抱っこを嫌がったり、足や腰まわりなどを触られるのが苦手な犬が多いし、

「認知機能の低下によって、嫌なことをされると我慢ができなくなっていることも考えられますので、こういった場合にロコモなのか認知機能の低下なのか、見極めるのはなかなか難しいものがあると思います」

確かに。これらは高齢犬がほぼ同じタイミングで直面しそうなことだけに、飼い主としては少し不安ではある。ロコモか認知機能の低下なのかの見極めは、獣医師に相談しながら慎重に進めていくといいだろう。

基本、触られるのは昔から好きではないまる子だが、自ら寄りかかってくることがよくあるので、肩まわりをマッサージすると、目を細めてそのまま寝てしまうことが増えた。

「動きの悪い部分をマッサージすることで血行を促進し痛みの進行を遅らせることもできます。ただ、無理に行うと犬が痛がる可能性もあるので、リハビリなどの療法を取り入れている動物病院の獣医師さんに『自宅でできるマッサージのやり方を教えてください』と相談すると良いでしょう。食べたい、においを嗅ぎたい、探したい、遊びたい、触れ合いたい、など犬の本能を満たす活動をさせてあげることは、愛犬の今後を豊かにします。今から始められることをぜひ実践してみましょう」

ロコモ心得
痛みと運動の難しい兼ね合い獣医師と相談して最善策を探そう
「シニア犬には適度な運動をさせてあげることがとても大切です。運動することで筋肉がつき、その筋肉が関節を守り、関節の炎症などを防ぐことができます」
例えば、愛犬が足を痛そうにしていて早く治してあげたいと思い、歩かせないように何日もケージの中に入れて安静にさせておくと、高齢犬の場合はその間に認知機能が低下する可能性がある。体に不調がある場合も獣医師と相談しながら、愛犬に「動きたい」という意志が見られたら、無理のない状態で体を動かせてあげることが大切だ。

 

近況:ゴハンを食べるのに30分~1時間かかってま~す♪

相変わらず食欲はある。なぜなら飼い主の調理&食事中は起きて歩き回るし、茹でたての肉やうどん、芋はためらわずに食べるから。しかし10月頃から謎の行動が出始める。
最初の一口目。うどん以外は必ず吐き出す。茹でたての肉でもだ。で、根気よく指で肉をつまみ口に運ぶと、食べたり食べなかったり。食べない時は壁際に立ち去り、また戻ってきて食べる。一口食べてはブラブラ歩いて、また一口。これが続く。
仕事に行かなくてはならない時は、とにかく食べてほしいので気が焦る。でもここで飼い主がイライラするとアウト。気分を損ねて食べないのだ。ひたすら平身低頭、根気よく手のひらに乗せて食べさせつつ「すごい! かっこいいですね! この家で一番お利口!」とほめ言葉を連発すると、やがて器に顔を突っ込みドライフードもバリバリ食べる。
最後の一粒を食べ終えるまでに1時間かかることもあるが、毎食後に必ずかける言葉は「今日も食べてくれてありがとね、えらかったね、がんばったね」。本当に15歳になると食べて生きていてくれる、それだけで嬉しい♡

猫をかわいがる男飼育員への報復措置。コップに足をつっこみ嫌がらせをする頻度が激増している。

 

麺好き♡ 食塩無添加のうどんは一番好きなオヤツ。長いのを食べたがり、「たくさんよこせ!」と要求。

まとめ
寝る時間が長くなった? と感じたら「認知機能の低下」「運動機能の低下」を疑うことも忘れずに

監修:茂木千恵先生
東京大学大学院農学生命科学科獣医学博士課程卒。獣医師。専門は獣医行動学。ヤマザキ動物看護大学准教授。教育・研究活動のかたわら、東京都町田市内でペットの問題行動治療やパピークラスの開催も行う。「飼い主が幸せになれば犬も幸せになり、犬が幸せになれば飼い主も幸せになる」という考えをベースとし、飼い主の話をじっくり聞くことも大切にした指導は、多くの人や犬から好評を得ている。

Text&Photos:Mari Kusumoto

Shi-Ba Vol.126『おとボケまる子日記』より抜粋

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