食事関係(10歳~)
異常に食べる
食欲があるのはいいこと。食べることは犬の楽しみのひとつだし、飼い主も食べている姿を見れば安心する。だが、突然食欲が増して、1日に何度もゴハンを催促してくる場合は注意が必要。
認知症になると、人間と同じで食べたことを忘れてしまうこともある。また、クッシング症候群や、糖尿病でも、食欲が増す場合がある。
対 策
食べムラがある
ハイシニアになるとちょっとした体調の変化でも、食べたり、食べなかったり食べムラが起きる。年を重ねると味の好みが変わり、若い頃は好きだったものでも食べなくなることもある。
体のホルモンバランスが崩れることも、味覚の変化が起きる原因のひとつ。また嗅覚が鈍くなり、フードのにおいや味を感じづらくなる。嗅覚が敏感な犬にとってにおいは大切だ。
対 策
食べなくなる
内臓の病気が隠れている可能性もあるので、動物病院での検査は必須。前述したとおりホルモンバランスの変化で味覚が変わることも原因のひとつ。
後ろ足や首の筋肉が衰え食べる態勢がとりづらくなる、首まわりの筋肉がかたくなり舌が動かしづらくなる、といった身体的な変化により、食べられなくなる場合も。
対 策
排泄関係(10歳~)
便秘をしやすくなる
お尻まわりの筋肉が衰えるといった体の変化、腸の吸収や運搬の能力の低下など、便秘には様々な原因が考えられる。他にもストレスで自律神経が乱れたり、運動が不足していると、腸の動きが弱まってしまうこともある。
対 策
失禁が増える・寝ている間にお漏らしをする
筋肉が衰えて、自分で排泄のコントロールができなくなってしまう犬も。 対策お漏らししたことで傷つく犬もいるが、気にしない犬もいる。愛犬の性格に合わせて、対応してあげよう。
去勢しているメスの場合は、ホルモン反応性失禁症で尿漏れしやすくなった可能性も。腎臓病の初期症状で、尿の量が増えることもある。失禁が増えた場合、念のために動物病院で診察してもらおう。
対 策
15歳くらいで、視覚や嗅覚などの感覚器や、筋肉が本格的に衰え始めるが、歩くための筋肉量は維持したい。
そのためには散歩もおすすめだが、水が苦手ではない犬の場合、自宅のお風呂に水を溜めて、泳がせるのもよい。
「犬用のライフジャケットを着せて、その場で犬かきをする程度で効果があります。股関節の筋肉なども鍛えられます」
ハイシニアになって関節が痛む場合も、水の中だと負荷なく運動ができて刺激にもなる。季節によって水温は変えてあげよう。犬に負担がかからない、ぬるめの温度がベスト。
10歳~ 感覚の変化
視力が低下してきた 聴力が低下してきた におい嗅ぎが頻繁になる
年を重ねれば、視力と聴力が落ちる。感覚器に変化があるのは、当然のこと。人間は眼鏡や補聴器で対応できるが、犬の場合は自然の流れにまかせるしかない。
とはいえ病気が原因の場合もある。犬の眼が白く濁っているなら白内障かもしれないし、内臓の病気が原因で視力が落ちることもある。聴力が低下した場合に考えられるのは、外耳炎や脳の疾患など。
それに伴い、におい嗅ぎが頻繁になることも。聴力と視力が落ちると、情報収集をより嗅覚に頼るようになる。若い頃に比べ、においを嗅ぐことが増えるのは、それが理由のことが多い。
対 策
【column】マッサージを積極的に
血流をよくするにはマッサージが効果的。足の指などの末端を、軽くもんだり、引っ張ったりしてあげるだけでも十分な効果が期待できる。寝たきりになった時に末端だけでもマッサージをしていると、床ずれなどを防げるため積極的に取り入れたい。ただ、独断で関節をストレッチするのは絶対にやめて。間違った方向に動かして、靭帯を痛めたり骨折してしまう危険がある。
心理的な理由から表れる行動(10歳~)
怒りっぽくなる
おとなしかった犬が怒りっぽくなることがある。聴力や視力が低下し、若い頃はできていたことが思うようにできなくなると、不安も募る。ストレスを感じて、怒りっぽくなるのだ。
日本犬はプライドが高い犬種なので、なおさら。また環境の変化などがあると、シニア犬の場合、順応しづらい。これもストレスとなる。他にも体が痛かったり、不調を感じている可能性もある。
対 策
頻繁に鳴くようになる
頻繁に鳴くのは、いくつかの理由が考えられる。体が痛い、気分が悪いなども理由のひとつ。中には精神的な問題も考えられる。不安を感じ、飼い主に近くにいてほしいと要求している場合も。
また、認知症も鳴く原因として考えられる。日本犬は特に、夜鳴きのコントロールが難しく、鎮静剤などを使っても鳴きやまない場合もある。
対 策
飼い主を後追いするようになる
目が見えづらくなったり耳が聞こえづらくなったことで不安を感じると、飼い主を頼りたい欲が強まり後追いが増える。感覚で得られる情報量が減ると、恐怖心を抱いていることも考えられる。頻繁にクンクン鳴いたり、子犬のような行動をとることも。
対 策
認知症が考えられる行動
日本犬は認知症になりやすい。初期症状であれば、サプリメントが効くので、早めに気づいてあげるとよい。初期症状でよく見られるのは、ソファとテーブルの間など、狭い場所に入る行動。
認知症が進行すれば、自力で出られなくなることも。しかし、歩くこと自体は筋肉を維持するのに役に立つ。止めるのではなく、思う存分うろうろできる環境を作ってあげよう。狭い場所や、犬が入りたがる場所の入り口を、柵や障害物で防いであげるとよい。
夜に活動的になる
歩かなくなる
狭い所へ入ってしまう
室内で長時間ぐるぐる歩く
最後に横山先生に、変化と付き合う上で大切な心構えを聞いた。
「明るい雰囲気づくりとポジティブな言葉がけを意識して、シニア犬のかわいらしさを楽しんでください」
例えばハイシニア期には、ぼーっとする時間が増えることもあるが物は考えよう。以前よりのんびりした性格になっているともいえる。
「体も以前より触らせてくれるようになったりします。嫌がらない範囲で、その状態を楽しみましょう」
他にもシニア犬だからこその魅力はたくさんある。老化は、犬と飼い主の新しい関係の始まりでもあると、横山先生は言う。確かにシニア犬との暮らしは大変なこともあるし、つらそうな姿を見ると心が痛むかもしれない。
だが、「私の飼い方が悪かったのかな?」とは思わないでほしい。よい環境で育てたから、長生きできている。そして犬の幸せは、できるだけ長く飼い主と一緒にいることだ。愛犬との新しい関係を楽しみ切ってほしい。
監修:横山恵理先生
多くのシニア犬を診察し、飼い主の不安に寄り添いながら具体的な介護方法をアドバイス。中医学を取り入れた治療も実践している。
キュティア老犬クリニック
神奈川県横浜市青葉区美しが丘4-7-28メゾンドアミ1F
☎045-903-1334
https://cutia.jp
Text:Daizo Okauchi Illustration:Yuko Yamada
Shi-Ba Vol.130「年齢による変化に必要な助けは犬それぞれ 7歳以上だって”シニア“でまとめるな!」より抜粋