お肌の大敵のようなイメージがある、メラニン色素。実は、人や犬を含む生物を守る大切な役割がある。健康に関わる大切なメラニン色素について知っておきたい。
メラニン色素の基礎知識
■生物の体にある2つのメラニン色素
黒色or茶褐色を作る
丸い形のユーメラニンは、黒色もしくは茶褐色を作るメラニン色素。柴犬は目、鼻、口唇、黒毛(ブラック・タン)や飛び毛、胡麻毛の濃い毛などに現れる。
赤褐色or黄褐色を作る
フェオメラニンは、赤褐色もしくは黄褐色を作るメラニン色素。柴犬の赤毛、黒毛の眉のような模様、白毛の赤褐色の部分、胡麻毛の薄い部分など。
■メラニン細胞があるのは3ヶ所!
メラニン細胞は、皮膚と目と耳にしかないもので、被毛、虹彩、鼻などに色をつける。そして、メラニン細胞はちょっと変わっていて、皮膚や網膜にいるのに神経の細胞だ。
メラニン色素を作る働きの他、耳と目の神経系に影響を及ぼすと考えられている。例えば、目が青い猫や犬は盲目や難聴のトラブルが出やすいが、これはメラニン細胞がないことが理由だと考えられている。
犬の毛周期による色の変化
■何らかのスイッチでサイクル開始
毛には毛周期という生え変わりのサイクルがある。毛や皮膚を作る細胞のもとになる幹細胞は、立毛筋の近くにあるバルジで作られる。何らかのスイッチが入ると成長期になり、バルジから新しい幹細胞が毛乳頭の周辺に移動して新しい毛が伸びる。成長期中に退行期という毛が縮む時期もある。休止期には毛乳頭を残して毛が徐々に上がって抜ける。柴犬はダブルコートなので、硬い主毛と軟らかい副毛がある。
・成長期毛
新しい毛がどんどん伸びる時期。ホルモンや日照時間などがスイッチになると考えられているが、はっきりわかっていない。
・退行期毛
成長期が終わると退行期を迎えている。今まで伸びていた毛は成長しなくなり、毛根は徐々に退縮していく。
・休止期毛
休止期を迎えた毛は、やがて新しく成長し、伸びてきた成長期毛に押し出されて抜ける。柴犬は春と秋に大量に副毛が抜ける換毛期がある。
■毛色の変化
柴犬の毛は先端から根元にかけてグラデーションになっている。成長期のある時期に、メラニン細胞がユーメラニンのみ、あるいはフェオメラニンのみ作るように、アグーチシグナリングたんぱくという物質が指令を出すためである。ユーメラニンの指令が出た部分は濃く、フェオメラニンの指令が出た部分はやや薄くなる。
■犬の毛色をライフステージごとに比べると?
子犬
赤毛、黒毛、胡麻毛の柴犬は、成犬と比べて毛色が濃い犬が多い。白毛は逆に成犬よりも薄い傾向が。遺伝子によってメラニン色素の量が増減している可能性がある。
※メラニン色素が核の近くに集合
細胞の核にメラニン色素が集まると濃く、散らばると薄くなる。成長しても毛穴の数は変わらないので、体が大きくなった分メラニン色素が散らばって、子犬より成犬の色が薄く見えるのかもしれない。
成犬
4歳頃までに子犬の濃い毛は抜けることが多い。毛穴の数は変わらないので、体表が広がったことによって濃い色が分散して目立たなくなったのかもしれない。
※白い毛の増加は老化現象の一種
老化現象の白い毛は口元や顔まわりが特に目立つ。老化が顔から始まるとは限らず、よく見れば全身に白い毛が増える。
老犬
老化によってメラニン細胞で作られるメラニン色素の量が減り、全体的に色が薄くなる。毛周期が活発ではなくなるので、毛質が衰えて毛量も少なくなる。
犬の毛周期とメラニン色素は関係している
柴犬の毛質は硬い主毛と軟らかい副毛の二重構造。副毛は体温を調整する役割があり、暑い時期に抜けて寒い時期に生える換毛期がある。毛色の変化は、換毛期を含む毛周期と、メラニン色素が関係している。
犬の場合、ひとつの毛穴から主毛が2~3本、副毛が5~7本生えている。毛の断面図を見るとそれぞれ太さが違うので、毛穴によって成長期毛になるタイミングがずれているのだろう。毛周期が異なるので、毛のすべてが一気に脱けたり生えたりせず、順番に生え変わるしくみになっている。人の髪は6~8年のサイクルといわれているが、犬の毛は明らかになっていない。主毛はあまり抜けないので、おそらくサイクルが長いのだろう。副毛はリボルバーの弾が次々と出るように、換毛期ごとにどんどん生え変わる。
また、メラニン細胞で作られるメラニン色素が成長と共に増えて濃くなり、老化によって逆に減って薄くなり、やがてメラニン細胞自体がなくなる。ただし、柴犬の赤毛や胡麻毛は子犬の時期が最も濃いので不思議だが、何らかの遺伝子がメラニン色素の供給量を制御していると考えられる。
犬の白い毛が増える老化現象は、人の白髪と同じしくみだと考えられている。白髪が増えても気にしない犬の天真爛漫さが少々うらやましいかもしれない。
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Shi‐Ba vol.81『しくみから分かる健康と病気 犬を守るメラニン色素』より抜粋
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