地域に根付き、溶け込むために秋田犬を家族の一員に│ロイヤルホテル大館

栄斗(左)の名前の由来は、ハチ。英語読みにした。比菜(右)は、秋田三鶏と呼ばれる、比内地鶏から一文字をもらった。ロイヤルホテルのコンセプトは、地域に根差し、共生を目指すこと。比菜の名前にもそんな想いが込められている。

ロイヤルホテル大館
秋田県大館市中道1丁目2-26
☎ 0186-49-4511
https://royal-hotel.jp/

 

秋田犬を迎えたきっかけは生きるハチを見た先代の話

秋田県大館市は、秋田犬発祥の地だ。街を歩けば、散歩中の秋田犬と出会うこともある。文化として根付き風景に溶け込んでいるのがわかる。

忠犬ハチ公も、大館の生まれ。この地で脈々と受け継がれた秋田犬が、東京にわたり、現在では渋谷区のシンボルとして、世界中の人々に愛されている。そう思えば、大館の文化が日本に果たした役割は大きい。

そんな土地にあるロイヤルホテル大館には2匹の秋田犬がいる。栄斗(オス・5歳)と比菜(メス・5歳)だ。取材に応じてくれたホテルスタッフの渡辺さんに迎えた理由を聞くと、驚くべき答えが返ってきた。

「当社代表の父は東京に住んでいたのですが、仕事の行き帰りによく会う犬がいたんです。実はそれがハチだったらしいんです。忠誠心や立派なたたずまいの話を、よく聞いていたようで。ハチの出身地の大館でホテルを開業するなら秋田犬をチームの一員に迎えたいと、強く思っていたと言っていました」

栄斗はどこでもくつろげる性格。5歳とは思えない落ち着きぶりと、貫禄がすごかった。

2匹はお互いの長所を活かして、看板犬の役割を果たしている。比菜は少し怖がりな性格なので、スタッフの憩いの場であるバックヤードで、癒し係を。栄斗は落ち着いた性格で、人懐こい。散歩中に犬に会っても興味を持たず、飼い主にシッポを振るのだという。

「10時から17時くらいまで、栄斗は駐車場の奥にあるケージの中でいて、希望者には少し離れた場所から写真を撮影してもらっています。犬好きの人は、すごく喜んでくれています」

コロナ以前は、ホテルの2階の広間にケージを置き、希望者は撫でることもできた。

「もちろん犬が苦手な人もいますので、そのあたりは配慮してですが」

渡辺さんが2匹の散歩に出かけるというので、同行することに。比菜もホテルのフロントから外に出てきた。散歩への期待を膨らます表情をしている。チャームポイントは少し長めの毛。ケージから出てきた栄斗は、所作がどっしりとしていて大物感があるが、表情豊かに、常に笑っている。渡辺さんに懐いている様子が、2匹の様子から伝わってくる。

この日は近所の公園まで散歩をしたが、少し表情が硬かった比菜も徐々に口角が上がっていった。

この地域では、雪の季節は人の肩くらいまで積雪するらしい。しかし、その環境でこそ、秋田犬は生き生きする。雪の上で遊ぶのが楽しみなようで、雪の中に顔を突っ込んだり、体当たりしたり、はしゃぐのだそう。その姿を見るのが、渡辺さんたちの楽しみのひとつであり、古くから大館にある原風景なのだ。

コロナ禍になってからは、ここが栄斗の仕事場。17時まではここで、宿泊客をお出迎えしたり、写真撮影に応じる。渡辺さんが近づいてくると、大喜びしたのが印象的だった。

 

2匹はみんなのアイドル 写真群から見える愛情

「散歩ですか?」と、近所の人に声を掛けら れる一幕も。

渡辺さんは2匹を迎える前から、ホテルで働いている。栄斗と比菜を飼い始めてから、ホテル内で変化はあったのだろうか。

「犬を通じて会話が増え、スタッフの仲も深まりましたね。休憩時間に2匹を見て『楽しそうだね〜、寝てるな〜』など話して、癒されています。2匹はホテルで暮らしているんですよ。家族が増えた感じです」と渡辺さんは笑う。

世話の多くは渡辺さんがこなすが、スタッフ全員で育てている感覚なのだろう。

17時が過ぎると、栄斗も看板犬としての業務を終え、ホテルのバックヤードで過ごす。遊んでもらったり、2匹でじゃれ合ったりと、おだやかな時間が過ぎてゆく。現在の落ち着き具合からは想像ができないが、子犬の頃はやんちゃで、椅子をぼろぼろにしたこともあった。

しかし、2匹の相性が良いのか、けんかをしたことはほとんどない。

「バックヤードで和やかにみんなで話をしていると、近寄ってきて、一緒に話の輪に入ります。その姿がかわいくて」

特に大好きなのはちゅ~る。飛び跳ねて喜ぶが、特別な時にだけあげる。

そんな2匹は、宿泊客からも人気だ。遠方より会いに来る人、リピーターになった人、愛情が詰まった手紙をくれる人、オヤツを郵送してくれる人など、たくさんのファンがいる。

また、コロナ以前は、毎年2匹の誕生会も開いていた。駐車場で希望する宿泊者には参加してもらい、一緒にお祝いをしてもらうのだ。

ホテルのロビーに飾られている2匹の写真群の中の1枚には、三角帽をかぶり、みんなに祝われている様子が写っている。他の写真も、子犬の頃の無邪気な表情、無防備にくつろぐ姿など、慣れ親しむ人にしか見せない2匹の素が切り取られている。

その1枚1枚からも、栄斗と比菜がこのホテルにとってどんな存在なのかが伝わってくる。

「コロナが収まったら、誕生日のお祝いも、お客様やスタッフのみんなでできたらいいなあと思っています」と微笑む渡辺さん。

この3年間は暗中模索の中、暗いトンネルを進む感覚で働いた。しかし、雪解けはもうすぐだ。

「また誕生会をしたい」ささやかな希望とともに、雪解けを待つ

ホテルのフロントでくつろぐ2匹。お客さんがいる時は、基本的にはここにはいないが、特別に。 ホテルスタッフとは、基本的にみんなと仲良し。 ネパール人スタッフは初めて秋田犬を見たらしく、2匹の大きさに驚いていたという。

2匹の根強いファンは多い。「会いたかったよ」と何度も来てくれる人もいる。

 

Shi-Ba vol.126「秋田県と秋田犬」より

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