秋田県と秋田犬「ONE FOR AKITA」実は絶滅の可能性あり?秋田犬の課題を改善する挑戦

秋田市の中心部にある複合施設エリアなかいちの一画。ガラス張りの小さな店舗前に、人だかりができていた。お目当ては秋田犬。りんご(メス・10歳)が人懐こい笑みを浮かべ、写真撮影に応じている。

ここは、秋田犬ステーション。犬籍登録数の減少など、秋田犬が抱える課題の解決のために、設立されたONE FOR AKITAが運営している。

「秋田犬ステーションはただ単に秋田犬に会える施設ということだけでなく、観光客参加型の『秋田犬の命を守る拠点』としての機能があります。飼育放棄された秋田犬を保護し、人に警戒心を持つ心のケアと、里親を探すということを目的に、秋田犬ステーションで多くの方と接する機会をつくっています。秋田犬に会える観光施設でありながら、秋田犬の命をつなぐ拠点でもあるのです」というのは、チーフドッグトレーナーの鈴木さん。

秋田犬の課題で深刻なのは、飼育放棄と殺処分数が多いことだろう。ONE FOR AKITAでは現在5頭の保護犬を預かり、日々の世話とトレーニングなどを行っている。

 

秋田犬とは

日本犬唯一の大型犬として、国の天然記念物に認定されている。その特徴には日本人の美意識が宿っている。

  • に大きな特徴がある。日本犬全般に共通することだが、三角形の立ち耳が、秋田犬らしさの象徴のひとつである。
  • 性格は、何事にも動じず落ち着いていて、強い精神力を持ち、素直で忠実な態度を持つとされている。
  • 体高は地面から肩までが、61~67cm。体重は30~50kgとされている。数字からも大型なのがわかる。
  • 秋田犬といえば、巻き尾も大きな特徴のひとつ。くるりと巻かれ、ふわふわした質感が、愛くるしくもあり、威風を放っている。
  • 毛色は、主に赤毛、虎毛、白毛の3色。割合が多いのは赤毛で、頭から背中にかけて明るい茶色が美しい。
  • がっちりとした体だけではなく、すらりと長い脚も魅力的なのが秋田犬。その脚のおかげで、歩き、走る姿に威厳が宿る。
  • 秋田犬は、寒さに強い犬。秋田県の厳しい冬を越すために、下毛と上毛の2層構造になっている。暑さには弱い。

 

活動の未来に希望を与えた無感情で人間不信だった犬

秋田犬は、本来はマタギの犬で、江戸時代には番犬や闘犬のために飼われた。その血を濃く引き継ぐ、現代の秋田犬も不特定多数の人たちに触れられたりすることが苦手。愛玩犬と比べ、しつけが難しいのは確かだ。

「でも秋田犬はとても頭が良い犬種です。人間のことをよく観察していますし、教えたこともすぐ覚えます。愛情を注ぎ、信頼関係を築くと、これほど飼い主をまっすぐ見てくれる犬種はいません」と語る鈴木さん。

多くの犬種をトレーニングしてきたが、以前は秋田犬は扱いづらい印象があったという。飼育放棄された犬は特に難しいと感じていたが、もも(メス・7歳)との出会いがすべてを変えた。

「ももは、最初に迎えた秋田犬の保護犬。山に捨てられていたんです」

当初は栄養失調でぼろぼろ。能面のように、何の感情もない表情だった。心に深い傷を負い、人間不信にも陥っていたのだ。しかし、3ヶ月一緒に暮らし、トレーニングをすると、みるみる愛嬌のある優しい性格になっていったのだ。

この経験は、鈴木さんを勇気づけた。頑張り次第では、飼育放棄された秋田犬の命を救うことができると確信したのだ。

 

秋田犬の課題

保存・保護、普及を目的に立ち上げたONE FOR AKITAプロジェクトは、その課題を4つにわけ、活動している。

犬籍登録数減少

秋田犬保存会が行う犬籍登録によると、2021年の登録数は国内外合わせ、3469頭。ピーク時の1972年に比べ、8%に満たない。

血統の劣化

血統書のない秋田犬同士の交配による血統の劣化。昨今の海外での秋田犬ブームにより、海外で繁殖されることが増えている。

後継者不足

ブリーダーの高齢化による、後継者不足も深刻になりつつある。若い世代の育成が必要だ。これは血統の劣化にもつながる問題。

殺処分増加

ONE FOR AKITA設立以来、秋田県では殺処分0だが、全国的には毎年秋田犬が殺処分されている。譲渡先を探すのが難しい。

 

りんごは、今ではこの笑顔を見せる。つらい過去を忘れさせ、 楽しい記憶を刻むという地道なトレーニングの成果。

 

命を預かることの責任を飼い主はまっとうしてほしい

鈴木さんに甘えるような目線を送り、遊ぶももを見ていると、そんな過去があったとは信じられない。

この日、取材に協力してくれた杏(メス・7歳)と、りんごもそうだ。穏やかで表情豊かだが、りんごは咬傷事故を起こしてしまい、8歳で保健所に収容された過去を持つ。

犬たちは環境次第で変われることを、自らの姿で雄弁に語っている。しつけに悩む飼い主を勇気づける光景だ。

「何歳であっても、秋田犬は変わることができます」

楽しそうなもも。秋田犬が遊ぶ姿なども見られる。どの犬もここに来るとお仕事モードに。誰かが撮影すると、目線を向けるサービスをする。

ONE FOR AKITA設立前の2 0 1 6年は、秋田県内で殺処分された犬種の3割が秋田犬だった。しかし、現在は0頭となっている。

飼育放棄された犬の受け入れだけではなく、飼い主からの深刻な相談への対応やトレーニング、動物愛護センターに収容された秋田犬の再教育支援など、包括的な活動をしてきたからだろう。

「犬を飼うなら最期まで責任を持って、愛してほしいんです。事故を起こしたら殺処分で終了というのは、おかしいです。そのほとんどは、飼い主のしつけ不足が原因なのですから」

その信念が、鈴木さんを突き動かしている。

「これまで4頭の秋田犬の里親が見つかり、巣立っていきました。ONE FOR AKITAは犬に里親を選んでもらうようにしています。希望者にはまず書類審査があり、何度か秋田犬ステーションに来てもらいます。最終的に犬が心を開いて、自分から希望者さんの車に乗るかどうかで、判断しています」

厳しい審査を設けている理由は「二度とつらい経験をしてほしくない」の1点に尽きる。譲渡した犬が里親と会いに来てくれた時の幸せそうな表情を見ると、ほっとする。

継続の課題は資金繰り。1頭の秋田犬の保護からの飼養や、トレーニング費用は1ヶ月約10万円かかる。

しかしそれでも活動を続けているのは「1頭でも多くの命を救いたい」という想いがあるから。日本の宝である秋田犬の血を途絶えさせないために、そして秋田犬が幸せに過ごせる環境づくりのために奮闘は続く。

「もししつけに困ったら、気軽に電話で相談してください。秋田犬のしつけは何歳からでも、軌道修正できますから」

資金繰りなど、課題はたくさんあるが、それでも続けられるのは、犬への愛情が下支えしているからだろう。活動の支援方法はいろいろあるので、HPで確認を!

●一般社団法人ONE FOR AKITA
秋田県秋田市八橋南一丁目1−3
☎︎018-807-2535(月〜金/9:00〜18:00)
●秋田犬ステーション
秋田県秋田市中通一丁目4−3 エリアなかいち1F
毎週土日に秋田犬との交流を実施(祝日は不定期)。
詳しい時間はHPをご確認ください。
営業時間 火・木・土・日・祝日11:00〜18:00
http://www.saveakita.or.jp/ofa/

Shi-Ba vol.126「秋田県と秋田犬」より

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