犬はにおいからさまざまな情報を得て、処理する能力に長けている。人が視覚で見ても分からない、犬のにおいの世界を少しでも感じてみよう。
犬のいろいろな嗅ぎ方
まず、においの嗅ぎ方について解説。とはいえ、対象物によって変わることもあれば、個体差もある。本当のところは犬に聞かないと分からないかもしれない。
鼻を高くする
鼻を高く上げる嗅ぎ方は「高鼻(たかばな)」という。「エアーセント」とも呼ばれる。猟師が独自の呼び方をしていることも。空中にただようにおいをチェックするときの嗅ぎ方だ。
鼻を低くする
鼻を低くして地面のにおいを嗅ぐことは「地鼻(ぢばな)」という。別名は「トラッキング」。警察犬は地鼻を使って足跡などの残された手がかりのにおいを嗅いで追跡する。
早く動かす
鼻を高速で動かしている時は、人に例えれば目を皿のように見開いて対象を観察している状態。気になるもののにおいを鼻腔に大量に取り込み、情報を素早く分析しているのだ。
ゆっくり動かす
鼻をゆっくり動かしている時は、人が周囲の景色をのんびり眺めているようなもの。好奇心をくすぐられているが、危険が迫っているわけではないのでリラックスしている状態。
嗅いでなめる
気になるもののにおいを嗅いだ後にペロリと舐めることがある。時には他の犬の尿を舐めることも。フェロモンに反応して、口蓋部にある鋤鼻器に取り入れている可能性もある。
鼻を押し付ける
気になるものに鼻を押し付け、積極的に嗅ぐこともある。周囲にただようにおいを遮断して、特定のにおいを嗅ぐためかもしれない。人や犬に対してこのように嗅ぐ犬もいる。
犬の嗅覚 Q&A
Q.近くに落ちた食べ物を見つけられない理由は?
においの分子は落ちると地面に沿ってサッと広がる。水面に石が落ちて波紋が起きるように、においの分子も周囲に広がるわけだ。
犬は嗅覚が優れているため、落ちたもののにおいを周辺全体から感じてしまうのではないだろうか。時間が経てば落ちたものから遠いところのにおいは薄れていくので、発見しやすくなるはず。
Q.目の前にあるオヤツに気づかないことがある
犬は鼻が長いので、オヤツが目の前にあっても見えにくい。視覚もそれほど発達していない。試しに飼い主さんも握りこぶしを鼻につけて、目の前のオヤツが見えるか試してみよう。
視覚が優れた人でも見えにくいと思いう。また、上で回答したようににおいの分子は波紋のように広がるので、気づきにくいのかもしれない。
Q.嗅覚を生かした作業犬はどのような種類がある?
犬の嗅覚は精密機械が及ばないほど優れており、さまざまな分野で研究、訓練されている。
獣猟犬、災害救助犬、麻薬探知犬、アライグマ探索犬、希少動物探索犬、キウイ探索犬、爆発物探知犬、がん探知犬、シロアリ探知犬……枚挙にいとまがない。
役割によって訓練方法は異なり、例えば麻薬探知犬のように空港などの決まったエリアで集中して仕事をする作業犬は、普段はクレートで待機させ、探知の時にテンションを一気に上げて嗅がせることが多いようだ。
犬の集中力は数分しか続かない、と考えるトレーナーもいる。しかし、獣猟犬や、災害救助犬、探索犬は、一日中においを嗅いで対象を探すことが仕事なので、短期決戦は向いていない。特定のにおいを嗅いだ時にスイッチが入るように訓練する。
Q.老化や認知症によって嗅覚は衰えてしまう?
犬の場合、嗅覚は高齢になっても比較的衰えにくい感覚器と言われている。近年、人は嗅覚障害とアルツハイマー型認知症が関係しているという研究結果が発表された。
犬も同様なのか分からないが、日本犬は3歳を過ぎた頃から定年退職した人のようにゴロゴロしてばかりになりがち。
生活に張りを持たせるためにも、嗅覚を生かした宝探しゲームがおすすめ。高齢になっても嗅覚を使わせることにはモチベーションが上がりやすいので、長く楽しめるはず。できれば主食やオヤツもごほうびとして与えたほうが、生活に張りが出る。
Q.においを嗅ぐことにどのような意味がある?
嗅覚は視覚や聴覚と並んで主要な感覚のひとつ。情報収集やコミュニケーションのために嗅ぐことが多いが、実ははっきりした理由がわからずに嗅ぐことも。
自分や相手を落ち着かせるための「カーミングシグナル」、ストレスを感じているサイン、ふと空中をただようにおいが気になった、幽霊がいる(!)など、さまざまな説がある。
はっきりと区別するのは難しいかもしれない。
Q.犬もアロマテラピーでリラックスできる?
犬の姿勢によってリラックスの度合いはある程度わかるが、正確には脳波を測る必要があり、犬への効用は専門機関に尋ねた方がよいだろう。ただし、柑橘系や香水などのきつすぎる香りはやめた方が無難。
猫用にはリラックス効果のある「フェリウェイ」というフェロモン剤が市販されている。猫を落ち着かせる効果があるようだ。犬は困った問題が起きるとしつけ教室へ行くので、猫ほどフェロモン剤の利用が一般的ではないかもしれない。
嗅覚は犬にとって重要な感覚器
犬は生後間もない頃から母犬の乳のにおいをたどる。嗅覚はかなり早期に発達しているはず。成長と共に嗅覚の性能はさらに上がっていくだろう。
また、興味の対象が広がり、食べ物を確認する、環境を調べる、ライバルを探る、といったことに嗅覚を使うようになる。
高齢になると感覚器は衰えていくが、嗅覚は視覚や聴覚よりも老化の影響を受けにくい。
嗅覚が彼らが生きるために極めて重要なことがうかがえる。
犬にとってにおいの世界は大きいもの。視覚が発達した人とは異なる景色を、優れた嗅覚で感じていることだろう。
人は前頭前野も発達しているので、想像力を働かせることが得意。その能力を活かして、時には犬のにおいの世界を想像してみよう。
関連記事:
【シットリ語る犬の鼻】その嗅覚からアピール力まで徹底解剖!
【においで分かる犬の世界】人間の1億倍ある優れた嗅覚の使い方とは?
人気のキーワード:
#しつけ #ごはん #シニア犬 #健康管理
#性格 #散歩 #気持ち #病気 #おでかけ
#ケア #子犬 #性別
Shi‐Ba vol.83『優れた嗅覚の使い方とは?においで分かる犬の世界』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。