今回取り上げるのは、筋肉増強剤としておなじみの「アナボリック・ステロイド」ではなく、皮膚疾患やさまざまな病気の治療に用いられる副腎皮質ホルモンとしてのステロイド。効き目や気になる副作用のことを紹介しよう。
1.副腎皮質ステロイドとは?
2.ステロイド薬はどんな時に使う?
3.ステロイド薬による副作用について
4.ステロイド薬は日々進化している
5.皮膚疾患と塗り薬の使い方
6.薬を処方される時、獣医師に聞くべきことは?
7.薬の正しい使い方は?
8.転院したいと思った時は……
※以下、文中では副腎皮質ステロイドのことを「ステロイド」と表記。
副腎皮質ステロイドとは?
強力な抗炎作用や免疫抑制作用がある薬
両側の腎臓の上にある副腎という臓器の外側の部分。ここから産出されるホルモンの総称を副腎皮質ホルモンと言う。副腎皮質ホルモンは糖質コルチロイドと鉱質コルチロイドの二種に大きく分けられる。
このうち、糖質コルチロイドは強い抗炎症作用を持っており、この作用を薬として利用するためにステロイドホルモンを配合して作られた薬品が「副腎皮質ステロイド剤」だ。
ステロイドには強力な抗炎症作用や免疫抑制作用があるため、炎症や免疫に関わるさまざまな疾患の治療薬として用いられる。
ただ、場合によっては副作用もあるため、投与の際には必ずかかりつけの獣医師と相談し、副作用の予防や副作用が出た時の対処法についても話し合っておくことが必要だ。
“ステロイドは副作用が怖い……”という印象を持っている飼い主も多いかもしれない。
しかし、例えば免疫介在性の病気になった時に、ステロイドを使うことになったとし、“なんとなく怖いからのませなかった、薬の量を減らしてのませた”といった飼い主の自己判断によって、本来そのステロイドをのむことで病気の免疫を抑制させなければならなかったのに、薬の投与量の不足によって免疫の抑制がきかず、犬が命を落とすという例もある。
獣医師は病気のリスクとステロイドの効果、考えられる副作用などを総合的に判断し、適正な量と投薬期間を割り出している。病気や症状によっては愛犬のつらさを緩和したり、取り除くことができる治療薬だということを理解し、“なんだか怖い……”という印象を持つ前に、この薬のことを飼い主としてしっかり把握しておきたい。
ステロイド薬はどんな時に使う?
日本犬では皮膚疾患や免疫介在性疾患など
ノミ、植物、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患の治療でステロイドが使われることが多い。
かゆみを軽減する目的で用られ、併行して薬用シャンプーを使い皮膚の状態を改善する治療が行われることも。
塗り薬やのみ薬など、その剤型も犬の症状によって異なる。またアレルギー性疾患以外の皮膚疾患では、脂漏性皮膚炎、マラセチア皮膚炎の時にもステロイドを使うことがある。
そしてステロイドは免疫介在性疾患(溶血性貧血、血小板減少、多発性関節炎、脂肪織炎、肉芽種、関節リウマチ、蛋白漏出性胃腸症、天疱瘡<※免疫が絡む皮膚の病気>など)にも幅広く用いられる。
さらに、免疫介在性以外にリンパ腫、肥満細胞種などの悪性腫瘍もステロイド治療がメインとなる。
ちなみに現在の治療では椎間板ヘルニアはステロイドではなく、非ステロイド剤を用いて治療する方向になっているそう。
その他、リンパ球プラズマ細胞腸炎や好酸球性腸炎などの炎症性疾患、脳炎や脊髄の損傷時、脳腫瘍の際の投与や、角膜炎や結膜炎の点眼薬、外耳炎の点耳薬の中にステロイドが含まれていることがある。
ステロイド薬による副作用について
投薬中の犬の体の変化を絶対に見逃さないで
下にステロイドによる副作用の一例を挙げた。犬のもともとの体質、病気の症状、ステロイドの種類、投薬量、期間などによって、副作用の有無や出方もさまざまではある。
また、ステロイドに限らず、どんな薬も投与量が増えたり、期間が長くなれば副作用が発生しやすくなる可能性はある、ということは頭に入れておこう。
犬の症状や薬の強さ、投与量にもよるが、基本的には1週間以内の短期間の投与の場合、副作用が出にくいと言われている。
ただし、ステロイドを使うと免疫力が低下するので、細菌感染や真菌感染のある犬は症状がさらに悪化することも。
また、糖尿病や腎不全、消化管に潰瘍がある場合は、深刻な副作用が出るのでステロイド治療はNG。
ステロイドを使って治療したほうがいいと判断した場合、糖尿病や腎不全などが少しでも疑われる場合は、飼い主に愛犬の最近の飲水量をはじめ、健康状態について確認したり、血糖値や尿の検査を行うことがある。
大切なのは副作用を必要以上に恐れることではなく、1)基本的には獣医師の指示通りの用量や投薬期間を守り、2)投薬期間は愛犬の様子をしっかり観察、3)そして、わずかでも異変があればただちに獣医師に相談し今後の治療方法を考え、これらを冷静に行うこと。さらには愛犬の病気とステロイドの必要性の有無についても、飼い主としてしっかり把握しておくべきだ。
■ステロイド薬による副作用の例
・多飲多尿
・多食による肥満
・行動の変化(神経質、過敏性の増加、活動レベルの低下など)
・消化器系(胃潰瘍、胃出血、嘔吐、下痢、急性膵炎など)
・心血管系(血圧上昇)
・糖尿病
・感染症
・医原性クッシング
・骨格筋の筋力低下、萎縮
・表皮が薄くなる
・脱毛
・膿皮症
・肝障害
・ステロイド離脱症候群(急激な休薬による)
・パンティング
・膀胱炎
など
ステロイド薬は日々進化している
ステロイド薬といえば、真っ先に思い浮かべるのがアレルギー性皮膚炎。症状によっては長い期間の薬の投与が必要になり、それによる副作用を心配する飼い主も多かった。
そのような背景もあり、最近では患部で高い効果を発揮後、速やかに分解されて作用の弱い物質に変わる“アンテドラッグ・ステロイド”というものが開発されている。
動物用として出ているものはまだ数種類だそうだが、今後は副作用を出にくくするためのアンテドラッグ・ステロイドがさらに登場してくるはずだ。
皮膚疾患と塗り薬の使い方
皮下の血管が見え出したら注意
塗っている部分の皮膚が他の場所に比べて弾力性がなくなったり、皮下の血管が見えてきたら、皮膚が薄くなってしまった証拠。そんな時にはただちに獣医師に相談して、今後の治療法を考えよう。
皮膚が薄い所に塗り続けると、その部分からさらにステロイドが吸収されて内服薬と同じような副作用が出たり、過剰投与が進むとクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)になる可能性も。
また獣医師の指示通りの期間塗らず、自己判断で塗ったりやめたりを繰り返していると、結局は長い期間塗り続けることになり、全身性の副作用につながることもあるそう。
塗り薬を侮ってはいけないのだ。
薬を処方される時、獣医師に聞くべきことは?
■処方目的、投与期間、副作用、薬の名前は必須
比較的軽い症状の場合、「塗り薬を1本出しておきます」とか「のみ薬3日分です」と言われて、薬の名前などを聞かずにそのまま投与している飼い主も多いだろう。
また、薬の名前が処方箋の袋に書いてあっても、その薬が具体的にどのような成分でどんな効き目や副作用があるのか、わからないこともある。
その薬がステロイドなのかどうか、ステロイドであればその使用目的、投与の期間、副作用に関すること、薬の名前を聞いておくとよいだろう。
“薬の具体的な名前を聞いても、難しくてよくわからなさそう”“先生が気を悪くするかも……”と思う人で、薬の投与期間が3日以上になりそうなら、せめて「この薬を何日間使ってみて効果が出なかったら、先生に相談すれば良いですか?」と聞いておきたいもの。
何らかの事情により別の動物病院で診察をしてもらって薬を処方される場合は、当然ながら今までの既往歴をはじめ、他の病気治療中であればその経過や現在投与中の薬についても、きちんと獣医師に説明しておこう。
ステロイドに限らず、処方される薬に関しては納得のいく知識を得ておくようにしたい。愛犬の病気を治すのは獣医師だけではなく、飼い主としての使命感と責任感、そして細やかなケアが必要であることもどうか忘れずに。
■こんな場合はどうする?
→獣医師が薬の説明をしてくれない
ステロイドを使用する目的をいくらたずねても明確に答えてくれない場合は、“原因や治療内容が定まらずにとりあえず使っている”可能性もある。また、診察の際に全身をしっかり見ず、体を触らないで薬を処方する場合も注意が必要だ。ステロイドの副作用が怖いと思うのなら、飼い主は薬の処方時の段階で、愛犬の症状に本当に必要な薬と量を処方してもらうべく、納得のいく説明を求めるべきだ。
→獣医師がとりあえずステロイドを使い続ける
原因がわからず、ただとりあえずステロイドを使い続けるのは絶対に避けたいもの。また長期治療の場合は、定期的に検査をしてステロイドによる副作用が出ていないか、臨床症状や血液検査などを合わせみて、慎重にステロイドを投与する計画を立てるはず。検査もせず、症状の改善も見られず、同じ薬をずっと使い続けている場合は、セカンドオピニオンも視野に入れよう。
薬の正しい使い方は?
自己判断による投薬の中止はやめよう
基本は獣医師の指示通りに、用量、用法を守ること。自己判断で薬を使用するのはかなり危険な行為だ。“前にもらった薬が余っていてまたかゆがったので塗ってみた”といったことは、素人目にはその症状が前と同じように見えても、別の病気で今回の症状が出ていることも考えられ、思いがけない副作用が出ることも。
特に目薬の場合、症状によっては一気に失明につながることもあるそう。薬はその都度、動物病院で処方されたものを使い切るか、治療が終わったら廃棄するのが望ましい。
動物病院から『最低1週間は続けて』と言われて投与し、症状が改善しているようなら、途中で投薬をやめずに指示された期間使い続けよう。のみ薬、塗り薬、点耳薬、点眼薬のいずれにしても、飼い主から見てなんとなく治ったように思えたからと、そこで勝手に投薬をやめると症状が戻ってしまい、再び一から薬を使うことに。そうすると結局は長期使用をすることになる。
ただし、投薬中に症状が悪化したり、愛犬の体調が悪くなった場合は、ただちに投与を中断し獣医師と相談をしよう。そして、改善が全く見られない時も遠慮せず獣医師に相談するようにしたい。
また、数ヶ月におよぶ長期投与の場合は愛犬の体重が増減すると、薬用量が変わることもある。定期的に体重を計り、変動があれば薬の量を獣医師に調整してもらおう。
転院したいと思った時は……
納得のいくまでかかりつけの獣医師に相談を
“副作用が出たからこの動物病院はもうやめよう”と転院をする前に、冷静になって考えたいことがある。
それは上述でも書いたが、「愛犬の病気とステロイドの必要性」についてだ。病気によってはステロイドが最もその治療に効果的なこともある。
ステロイド治療を始める前に獣医師から治療の目的や薬の副作用、投薬期間や減薬についての分かりやすい説明があった、きちんと検査が行われた、また、長期の投与中にその間も副作用についての検査が行われているのであれば、副作用が出た時もステロイドを減量しつつ、別の方法を検討するなど、その時点での何らかの最善の方法を示してくれるはず。
場合によっては代替えとなる非ステロイドの薬が高価だったり、飲ませずらい事もあるので、飼い主は納得がいくまで獣医師と相談し、治療方法を検討していくのが望ましい。
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Shi‐Ba vol.85『安全に、きちんと病気を治すために!副腎皮質ステロイド薬』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。