いつまでもウマイ肉を食べたい……だからボクたち柴犬にも入れ歯をください!

犬の毎日の楽しみといったら散歩や遊び以外に、なんといってもゴハンの時間。おいしそうに食べている愛犬の様子を見ていると飼い主もうれしくなるもの。いつまでもおいしく食べてもらいたいから、今回は犬の歯について考えてみよう。
 

 

犬が歯を失う理由

1.歯周病
犬の歯周病

【歯周病進行の様子】
◆正常
歯の周りにある歯肉、歯根膜、歯槽骨によってしっかりと支えられている。

◆歯肉炎
歯垢が歯の周りにつく。やがて歯垢が歯石となり、歯肉に炎症を起こす。

◆歯周炎(軽~中程度)
歯垢中の細菌により歯肉が腫れあがり、歯と歯茎の間に歯垢や歯石がたまると歯肉が腫れたり退行してくることもある。

◆歯周炎(重度)
最終的には歯肉の退行だけでなく、歯根膜や歯槽骨まで溶けて、歯が抜けてしまうことも多い。

 
3歳以上の犬の80%以上が歯周病」だといわれており、犬の歯が抜ける原因のほとんどが歯周病によるものである。

歯周病は歯にたまった歯垢や歯石によって、歯周組織が炎症を起こし、破壊してしまう病気だ。

歯周組織とはセメント質、歯根膜、歯槽骨、歯肉の4つを示す。

歯の周りに歯垢や歯石がついてしまうと細菌や細菌が出す毒素によって歯周組織に破壊物質が出てくる。

最初は歯肉だけが炎症を起こす。その状態が歯肉炎である。

それを放っておくと歯肉だけでなく歯根膜やセメント質、歯槽骨まで炎症を起こす歯周炎となり、歯肉炎と歯周炎を総称して歯周病という

最終的には歯を支えている骨も全部溶けて歯が抜けてしまうこともあるが、日頃から歯のケアをしていれば十分に防げる病気である。

 
2.硬いものをかむ

犬の咬耗

【こんなものを噛んで歯が欠ける!】

その1.ひづめ
歯を破折する原因で一番多いのがオヤツでよく与えたりするひづめ。8~9割を占めている。また硬いオモチャで破折した例もある。

その2.テニスボール
テニスボールやサッカーボールなど柔らかいものでも、1日何時間もかんでいると歯がすり減ってしまうケースも意外と多い。

その3.ケージ
動物病院で預かってもらった時に、入れられたケージから出たくて必死にケージをかじり、歯を破折してしまったケースもある。

 
硬いものをかんで歯を折ってしまう(破折)も意外と多い。

歯が欠けると歯の中にある神経が出てしまい、中に細菌が入りやすくなり炎症が起こることもある。神経が出てしまうと痛みがあったり、水がしみたりすることも。

また、柔らかいものでも1日何時間でもかませていると歯がすり減って(咬耗)、中の神経が出ることもあるので注意したい。
 
気がついたら愛犬の歯がすり減っていた!飼い主が知っておくべき咬耗のこと

 

1番残ってほしい歯とその理由

ものを食べる際に、人間は前歯でかみちぎった後、奥歯ですりつぶして(咀嚼)飲み込む。

だが、犬はすりつぶすことはせずにすぐ飲み込んでしまう。犬の歯は切歯と犬歯でものをとらえ、前臼歯はほとんど咬み合っていない。

唯一、犬がものをかむ時に使う主な歯というのが、上顎の右と左にある第4前臼歯と下顎の右と左にある第1後臼歯の裂肉歯

はさみのような咬合をしているのではさみ状咬合(シザーバイト)といわれている。

 

歯磨きマスターになる!

犬の歯磨き

愛犬の歯を守るため、まず重要なのはなんといっても歯みがき。

犬の口腔内はアルカリ性が強いため、歯にたまった歯垢は3~5日で歯石になってしまう

歯垢は歯ブラシでとれるが、歯石になるとなかなかとれない。できれば1日1回の割合で歯みがきを心がけよう。

歯みがきを習慣にするためには子犬の頃から慣らしていくこと。また終わった後のごほうびも忘れずに。
 
犬の口について考える。歯の磨き方、年齢ごとに気をつけたい歯の病気

 

治療のサインを見逃すな

歯の治療

愛犬を歯周病など歯のトラブルから守るためには、早期発見・早期治療が大切。以下の様子が見られたらおかしいと疑って動物病院で診察を受けよう。

□ 片側の歯だけでものをかんでいる。

□ 頭を右か左に傾けている。特に食事中その傾向がある。

□ ものを食べている最中に奇声を発する。

□ 硬いものを食べなくなった。

□ 口を開こうとしなくなった。

□ 口の周囲をさわられるのを嫌がるようになった。

□ ものを食べる時間が以前と比べて長くなった。

□ 食欲はあるが、食べにくそうにしている。

□ 頭をよく振っている。

□ 食後に食べたものをすぐ出してしまう(吐出)。

□ 前肢手関節付近の皮膚や被毛がよだれで濡れている。

□ 前肢で口の周囲を気にしてぬぐうしぐさをする。

□ 口を地面や床に擦り付けている。

□ 食事中に食べものをよくこぼしている。

□ 最近、性格が凶暴になったり、怒りっぽくなった。

□ ものを食べている時以外でも歯や顎をガチガチ鳴らす。

□ 鼻から出血がある。

□ 以前に比べてよだれが多くなった。

□ 口の中から出血がみられる。

□ 以前に比べて口臭が強くなった。

□ 口唇が腫れている。

□ 頬や顎が腫れている

□ 口の周囲がよだれなどで汚れている。

□ 片側に流涙あるいは膿性眼脂(目やに)が認められる。

□ 頬や顎から膿のようなものが出ている。

□ 皮膚病がある。

□ 食欲が低下した。

 

どうやって犬の歯を治療する?

犬の歯の治療

1.レジンによる治療
歯が破折したり、咬耗しているが、歯の中の神経(歯髄)が出ていない場合に、一般的によく行われるのがレジンによる治療だ。

レジンとは歯を修復する材料の一種のこと。歯の神経が出てしまった時にはその神経を全部抜いて、歯の根管を洗浄して乾燥した後、根管充てん剤を充てんし、歯の頭の部分である歯冠をレジンによって修復させる。これらの治療は抜髄根管治療といわれている。

人間の場合は歯が欠けた時だけでなく、ひどい虫歯の時などもこれらと同じ様な治療をするが、犬の場合は虫歯がほとんどないので歯の破折や咬耗で行われることが多い。

 
2.クラウンによる治療
歯の欠けた部分が多く、レジンで修復してもまたかんだ時に歯が破折してしまう可能性が高いなど、よくかむ癖があるような犬の場合は、欠けた歯にクラウンという被せ物をして治療する方法もある。

クラウンとは歯根に金属などで土台となる支柱を建て、その上に金属やセラミックなどで作った人工の歯冠を被せる方法。

レジンに比べると耐久力に優れているが、歯根に支柱を建てるため歯根がしっかりしていなければ難しい。

また、レジンによる治療に比べると、クラウンによる治療はあまり一般的ではないため、処置ができる動物病院は限られてしまう。

 
3.インプラントによる治療
インプラントとは歯がなくなった状態のところに骨に穴を開け、チタンなどの金属を差し込み、歯根のかわりにする。その人工歯根の部分を土台として人工の歯を作るというもの。

インプラントによる治療は人間の場合には最近増えてきているが、人工のものを骨の中に埋め込むということもあり、適合するまでに時間がかかったり、不適合を起こす場合も。

また細菌感染の予防のために細かいブラッシングをまめに行う必要があるなどケアが大変な面もある。

犬の歯の治療においてインプラントはまだ実験段階であり、臨床的にはまだ実用化はされていない。

 
4.入れ歯による治療
人間の場合、歯を失ってしまうと食事の時だけでなく、話をする時に息がもれてしまい発音がわかりにくくなるなどさまざまな支障が出てくるもの。

入れ歯を装着することによってそれらの問題が解消できる。入れ歯には総入れ歯と部分入れ歯がある。義歯床といわれる、歯茎の部分を作る素材にはレジンなどプラスチックの樹脂や金属のものなど、さまざまなものがある。それらの素材によって値段に違いもある。

犬の場合は人間の様な入れ歯をすることは難しくてできない。なぜ犬に入れ歯が難しいかは下で詳しく説明しよう。

 

どうして入れ歯がムリなのか?

犬の入れ歯

1.口腔内の構造上の問題
犬の場合は人間と比べると、上顎にも下顎にも深さがなく、フラットに近い。上顎や下顎部分に人間のような深さがなければ入れ歯を密着させるための陰圧にすることもできない。そのため、犬の口腔内に入れ歯を装着させるのは難しいということだ。

 
2.犬特性上の理由
人間の場合は自分の意思で入れ歯を装着することを選択する。入れ歯が出来上がるまでの型採りや調整などに時間がかかるのも覚悟はできる。そして完成してからも慣れるまで違和感があったとしても我慢ができるものだ。

しかし、犬の場合は歯の治療の際におとなしく口を開け続けるということがまず難しいため、毎回全身麻酔が必要となる。

もし入れ歯を口の中に入れたとしても、それを口の中に留めておくという意識はもちろん犬にはない。

吐き出したり、かんでしまったり、飲み込んで食道や気管に詰まらせてしまう可能性がある

人間なら入れ歯を装着することは理性でわかるが、犬の特性上、無理があるというのも理由のひとつだ。

 
3.咬合圧の強さの問題
歯を力いっぱいにかみ締めた状態の時にかかる圧力のことを咬合圧という。このかむ力が人間と犬では違いがある。それも犬に入れ歯が難しい理由のひとつとなっているのだ。

人間の場合の咬合圧はもちろん個人差はあるが、だいたい自分の体重と同じくらいの力が加わるといわれている。

犬の場合は犬自身の体重以上の咬合圧を持っているとのこと。そのため、かなり丈夫な入れ歯でない限り、例えば硬いものをかんだ際に入れ歯が簡単に壊れてしまうことも考えられる。

 
4.ケアの問題
入れ歯には外側だけでなく内側にも食べカスがたまるため、食後は入れ歯をはずして洗うなどのケアが必要となる。食べカスがついたままにしておくと細菌によって歯茎に炎症を起こしてしまうからだ。

また、入れ歯をはずした場合の保管にも気をつけないといけない。水に入れるなどして乾燥させないこと。乾燥させてしまうとひびが入ったり変形する可能性があるからだ。

これらのように犬の場合、毎食後に入れ歯をはずしたり、ケアするというのはなかなか難しい

 

飼い犬の場合、歯が0本でも大丈夫?

犬の歯

どんな病気でも同じだが、愛犬の様子が少しでもおかしいと思ったら、早めに動物病院で診てもらうこと。歯の治療をしたことによって、食欲が出て元気になったり、性格が穏やかになる犬は多い。

だが、治療する時には全身麻酔が必要となる。高齢犬で内科的な病気を持っていたりすれば、麻酔がかけられないため、歯の治療はできない

もしも愛犬の歯が全部無くなったとしても、野生で生活している状態ならば生きてはいけないが、飼い犬として生活している限りは特別大きな問題はない。ドライフードぐらいなら歯肉で食べることもできる。

ただ歯がなくなれば、例えば愛犬が大好きだった引っ張りっこの遊びができなくなるなど、遊び方や食べ物にも多少の制限は出てくるはず

歯周病は日頃からケアをしていれば十分予防することは可能である。そして愛犬の歯を1本でも多く残すためにも一番効果的なのが歯みがきだ。できれば子犬の頃から習慣にしておこう。

成犬になってから歯みがきを始めるのなら、気をつけておきたいことがある。愛犬が中年齢期の場合には、歯肉の炎症が起こっていることが多い。その場合に歯みがきをすれば、痛みが出るなどして、歯みがきを嫌がるようになってしまいかねない。まずは歯肉の炎症を抑えてから行うようにしたい。
 
歯並びが悪いと病気になるかも!? 犬の噛み合わせ大研究!
 
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Shi‐Ba vol.47『いつまでもウマい肉をガツガツ食べたい!だから……ボクたち柴犬に入れ歯をください!』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。

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