気管虚脱とは「気管が押しつぶされたような形に変形して、呼吸が苦しくなる」病気。特に寒い時期に症状が悪化するので、冬は十分に注意したい病気だ。
気管虚脱とは
気管のまわりには軟骨や筋肉が取り巻いている。犬の気管は35~45個の気管軟骨でできた気管輪を輪状靱帯が連結した筒状のような形をしている。
気管虚脱箱の気管が何らかの原因で押しつぶされることで、気管が変形したり正常な弾力性がなくなるので、呼吸困難を起こしたり、咳が出るという病気。
正確な原因はわかっていないが、遺伝的な要因、肥満による気管周辺の脂肪層の増加、首輪による物理的な気管の圧迫、呼吸器疾患や心臓疾患、クッシング症候群などホルモン関連の疾患の影響、体内のコラーゲンが不足するエーラスダンロス症候群によるものなど、考えられる原因は様々なのだ。
若い犬でも散歩の時に首輪をつけていてグイグイ引っ張れば、気管が変形して気管虚脱になる可能性もあるし、肥満でなくても高齢による心臓疾患からこの病気を発症する可能性もある。飼い主としては愛犬のどんな様子に気をつければ良いのだろうか?
散歩の時や寝ている時、寝起きの時、家に来客があって激しく興奮して体温が上がった時などに、カエルが鳴くようなゼコゼコ、ガーガーという粗い感じの咳が出たり、最後にゲッと吐くような感じだったり、ずっと咳をし続けているようなら注意が必要。
ちなみに、気管虚脱には大きく分けると、頸部気管虚脱と胸部気管虚脱の2種類がある。
・頸部気管虚脱の場合は、息を吸っている時に咳が出るパターン。
・胸部気管虚脱の場合は息を吐いている時に咳が出る。
息が吸いづらそうなのか、それとも吐く時につらそうなのか、また、咳が出るタイミングなども見極めの重要なポイントになる。
さて、気管虚脱は春先から夏にかけてと、冬場に見られるが、特に咳が悪化する冬は気をつけたい。
冬は空気が乾燥しているので、咳がひどくなる傾向が見られる。冷たい空気を吸うことで喉が刺激され、空気が乾燥しているので気管内の分泌液も出にくくなる。
乾いた状態になっている気管に乾いた冷たい空気が入り込むと、その刺激が気管の壁を刺激して咳が出やすくなる。特に空気が乾燥する日などは、加湿器を上手に利用して、喉への刺激を緩和したい。
ただ、気管虚脱は夏の散歩時でも、温度の高い空気を吸ってそれが刺激になり咳が出ることもあるそう。暑い日、空気が乾いて寒い日、いずれも注意が必要だ。
この病気に限ったことではないが、気管虚脱はとにかく早めの発見が大事だ。どんなに軽めの咳でも、「今まで咳なんかめったにしなかったのに」とか「なんか咳してる?」と感じたら、即かかりつけの動物病院へ。
気管虚脱に気をつけたい犬
■肥満の犬やシニア犬は要注意
中高年期の犬は気管の構造が変性しやすくなる。また肥満の犬は気管周辺の脂肪が気管を圧迫し気管を変形させるので、気管虚脱になりやすい。
■首輪でぐいぐい前に引っ張る犬
首輪をして散歩をすると、首輪が喉を直接圧迫することに。それによって咳が出やすくなったり、気管虚脱が起こりやすくなる可能性がある。
遺伝的に気管虚脱になりやすいとわかっていたり、散歩の際、前に強く引っ張るタイプの犬は首輪よりもハーネスがオススメ。
咳の症状が悪化する場合は……
さて、少しショッキングな話だが、気管虚脱と診断された場合、実は完璧に病気を治すのは難しいのだそう。
ただ、症状が軽い段階なら、首輪をハーネスに替えたり、内科的治療で咳を鎮めることは可能。
炎症を伴っている場合は、抗生物質や消炎剤、気管支拡張剤を使う。他にもいくつかの薬があり、それらを組み合わせたりして治療していく。
しかし、咳が出るのを放置しておいてだんだんと症状が悪化すると、四六時中咳が続くことになるし、慢性化してしまう。
咳が激しくなると、苦しくなってヨダレを垂らしたり、呼吸困難に陥ってチアノーゼ(酸素欠乏状態)になることも考えられるし、気管の中に合併症を引き起こしていることもあるそう。その合併症によって余計に咳が止まらなくなることもある。たかが咳と侮ることにないようにしたい。
ところで、内科的治療を行っても症状が改善しない場合はどうすれば良いのだろう?
検査をしないで薬をのんでいた場合は、犬が高齢でなければ、気管支鏡やレントゲンを撮って検査を行い、気管の構造の変化を診ていくことになる。聴診器で心臓に雑音が聞こえた場合は、超音波検査で心臓の状態をチェックすることもある。
検査の結果、手術を行う場合もあるが、気管虚脱を発症している場所により、手術ができる範囲とできない範囲がある。
また、胸部気管虚脱の手術は、胸を開く大手術になるそう。術後の合併症などにも十分な注意が必要なので、数日間~1週間、場合によってはそれ以上の入院をすることになる。
気管虚脱との診断を受けて、薬を飲んでいるのに咳が止まらず、検査をしてみたら別の病気を発症していたケースもある。
内科的治療を続けているのに症状が悪化している場合はセカンドオピニオンも視野に入れ、とにかく早めの対応を心掛けるようにしたい。
【今回の教訓】
咳が出始めたり、続くようならどんな咳であっても直ちに動物病院へ行くべし!
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Shi‐Ba vol.92『日本犬に多い意外な病気 気管虚脱』より抜粋
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