マッチョな人が好き、筋肉に惚れ惚れしちゃう……ってな人も意外と多いようだが、愛犬の筋肉について意識したことはあるだろうか。柴犬の筋肉はどんな役割をしているのかなど、筋肉にまつわるアレコレを詳しく学ぼう。
1.筋肉の構造
2.筋肉の種類
3.筋肉の名称
4.主な筋肉の役割
5.筋肉の成長は性別で違いが出る
6.筋肉を維持&鍛えるには……
7.筋肉の病気
8.もっと知りたい筋肉のコト Q&A
9.健康的な筋肉を目指そう!
筋肉の構造
筋肉は数多くの筋の細胞が集まった筋速筋となる。
筋原繊維同士が融合しているのが筋繊維。
筋源繊維の中にあるアクチンとミオシンのフィラメント構造部分がスライドすることにより筋肉が収縮するしくみだ。
筋肉の種類
犬の筋肉にもさまざまな種類がある。具体的にどのようなものがあるのか、まずは筋肉の構造や種類によって知っておきたい。
内臓筋(ないぞうきん)
心臓に関連する心筋、心臓以外の内臓に関連する平滑筋があり、これらは自分の意思で動かすことはできないため、不随意筋として分けられる。また、舌や咽頭などは横紋筋であり、意識して動かすことができる随意筋に含まれている。
骨格筋(こっかくきん)
骨格に付随して、身体を動かす役割をしている筋肉。ほとんどが横紋筋であり、自分の意思で動かすことができる随意筋。
・遅筋(ちきん)/速筋(そっきん)
ゆっくりとした動きや持続性のある動きに使われるのが遅筋。長く動かしていても疲れにくいという特徴がある。その反対なのが速筋であり、遅筋に比べると疲れやすい。骨格筋の多くは速筋といわれている。
・赤筋(せっきん)/白筋(はっきん)
白筋と赤筋の違いは、筋色素であるミオグロビンが含まれている量による。多く含まれていれば筋肉は赤く見える。白筋は速筋と同じ瞬発的な動きを得意としており、赤筋は遅筋と同じく持続的な動きを得意とする。
骨格筋はこれらのような種類に分けられているが、例えば短距離ランナーとマラソンランナーでは筋肉の質に違いがある。一気にパワーを爆発させ速い動きが必要な短距離ランナーは速筋と白筋が多く、マラソンランナーは遅筋と赤筋が多いといわれる。これらの割合も生まれながらに決まっているそうだ。親や兄弟が長距離が得意であれば、短距離を目指しても、ある程度までは努力で可能かもしれないが、生れ持った筋肉の質の影響は大きいとのこと。
筋肉の名称
身体を動かす上で欠かせない筋肉は、全身いたるところにある。どのような動きをしているかなど犬の筋肉の役割について紹介しよう。
胸骨頭筋(きょうこつとうきん)
頭を上下させたり、左右に動かす役割をしている筋肉。
鎖骨頸筋(さこつけいきん)
前足の挙上、頭や首を挙上させたり、左右に動かす。
僧帽筋(そくぼうきん)
肩甲骨を前に出したり、後ろに引いたりの動きをする。
広背筋(こうはいきん)
上腕骨を後ろ上方に引いて、肩関節を屈する筋肉。
縫工筋(ほうこうきん)
股関節を曲げる。後ろ足を前に出す、または回転させる。
中殿筋(ちゅうでんきん)
股関節を伸ばし、後ろ足を後方や外に引く、伸ばす。
浅殿筋(せんでんきん)
股関節を曲げ、太腿を前に伸ばしたり、回転させる。
大腿二頭筋(だいたいにとうきん)
後ろ足を外側に向けるなど、外転させる動きをする。
外腹斜筋/腹直筋(がいふくしゃきん/ふくちょくきん)
どちらも同じ働きをしている。お腹を支え、お腹に力を入れたり、身体を左右に動かすための筋肉。
深胸筋(しんきょうきん)
肩関節を伸ばし、前足を後ろに引く動きをする筋肉。
鼻唇挙筋(びしんきょしん)
上唇および鼻の外縁を挙げる動きを担っている筋肉。
咬筋(こうきん)
下顎を挙げる動きをする。物を咬むために欠かせない。
顎二腹筋(がくにふくきん)
下顎を後方に引くという動きを担っている筋肉。
口輪筋(こうりんきん)
口の周りにある筋肉で、口を閉じるなどの動きをする。
胸骨舌骨筋(きょうこつぜっこうきん)
嚥下の際に引き上げられた咽喉頭部を下方に引き戻す筋肉。
三角筋(さんかくきん)
肩関節を屈曲させる動きや上腕を回転させる筋肉。
上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)
肘関節を安定させ、前足を挙げた際は肩関節を伸ばす。
深胸筋(しんきょうきん)
肩関節を伸ばし、前足を後ろに引く動きをする筋肉。
主な筋肉の役割
犬の筋肉の役割としては、大きく分けると次の7項目となる。
身体を動かす
なんといっても筋肉の役割において一番重要なのが、身体を動かすということだ。骨格だけでは当然身体を動かすことはできない。筋肉がつくことで思い通りに動かせるようになる。
内臓筋など身体の中の組織や器官も筋肉によって動かされている。筋肉は生命維持のためにも欠かせない。
関節を固定する
骨と骨とをつなぎとめているというのも、筋肉の大事な役割のひとつ。骨の周りにある筋肉や靭帯などによって、関節は固定されている。関節部分に負荷をかけると、靭帯を切ってしまったり、筋肉にも影響を及ぼす。
例えば、人が、激しい運動をしたわけでもないのにひざを痛めるのも、膝関節の周りの筋肉が弱くなってしまうことで、関節の保持力がなくなったために痛みを発症するのだ。
姿勢を保持する
立つ、座るなどの姿勢を保持するためには、骨をそのような形にしておかなければならない。この場合にも筋肉の働きは欠かせない。犬であれば、立っていることはもちろん、オスワリ、フセなどの姿勢があてはまる。
熱を産生させる
人間が運動すると汗をかいたり、身体が熱くなるのは筋肉を使っているからだ。身体の中で筋肉が一番熱を生むといわれている。筋肉を利用するにはエネルギーが必要となり、そのエネルギーを燃やすために熱が発生する。
筋肉量が多い人は食べても太りにくいといわれるのは、それだけたくさんのエネルギーを燃やしているから。また、冷え性というのは筋肉量が少ないために熱の産生が少ないということだ。
血液を送るポンプ機能
心臓から送り出された血液は、全身をめぐり、再び心臓へ戻ってこなければならない。血液を送るポンプ機能が各筋肉にはある。
例えば、人が長時間座っていて足がむくむのは、足の筋肉を動かさないため、血液が停滞してしまうことによって引き起こされる。
衝撃を吸収する
例えば、腕をどこかにぶつけるなど衝撃を受けた際に、筋肉があることで、骨も守られるし、血管や神経なども守られる。
筋肉は腕を動かす役割だけでなく、腕を守るというプロテクターにもなっているのだ。もちろんこれらの役割は腕だけとは限らない。
血管や内臓の保護
身体の中の血管や内臓を保護するのも、筋肉の重要な役割のひとつ。
髪の毛がたくさんある人の方が、より頭を守られるのと同様に、筋肉がしっかりついていればお腹であったり、さまざまな臓器が守られるのだ。
筋肉の成長は性別で違いが出る
人間の場合、男性は体重の約40%、女性は35%が筋肉を占めるといわれているが、犬の場合もオスの方が筋肉は多いのだろうか。
犬の場合、オスとメスでのはっきりした割合はわからないが、オスは男性ホルモンの影響によって、筋肉の発達や成長が促される。
人間も男性の方が身体がかたくて、女性が柔らかいというのは、犬も同じ。男性ホルモンの影響で、オスとメスで違いがあるのかもしれない。人間でいえば思春期の頃。犬の場合は性成熟の手前までは、オス、メスの差はなく筋肉は発達しているといわれている。
性成熟は、柴犬であればだいたい生後6ヶ月頃からはじまり、1歳頃で終わることが多い。その間にそれぞれの性ホルモンの影響を受け、オスとメスで少しずつ筋肉に差が出てくる。早期に去勢をすると、未去勢のオスと比べて、筋肉が柔らかな印象になるというのは、男性ホルモンの影響を受けていないからといえるだろう。
筋肉の成長のピークは、性成熟の終わる1歳頃となる。生まれもった筋肉をしっかりと成長させるためには、1歳までが重要になってくる。
そして、1歳を過ぎると成長した筋肉は少しずつ衰えていってしまう。人間であれば、自分で意識して運動や食事などによって筋肉を維持させたり、弱った筋肉を鍛えようと努力する。犬は自分ではできないため、飼い主が注意してあげることが大切だ。
筋肉を維持&鍛えるには……
【食事のポイント】
よい筋肉を作るためには、たんぱく質を適量で消化しやすいカタチで摂ることがよいと人も犬もいわれている。
犬の場合、もともとは肉食動物のため、例えば大豆のような植物性たんぱく質よりも、動物性たんぱく質の方が消化しやすい。食材の一例としては、カッテージチーズ、鶏肉などがあげられる。
ただし、鶏肉はリンの含有が多いので腎臓に負担をかけてしまう可能性がある。腎臓が悪い犬は鶏肉は避けること。
そして、消化吸収をよくするためには、できれば生のままより、熱を加えた方が胃腸への負担も少ないと考えられる。
筋肉のためはもちろん、健康維持のためにも、信頼出来るメーカーのライフステージに合ったドッグフードが、栄養バランスの面においても理想的だといえる。
【運動のポイント】
筋肉の成長や維持のためには、適度な運動を行い、適度な刺激を加えることが大切。特に1歳までの成長の時期は、激しい運動は避けるこ
と。
例えば、自転車などで伴走させるのは、犬の意思とは関係なく、途中でどこか痛いと思っても犬はやめることができない。将来的に関節を痛めてしまう可能性がある。安全な広い場所で走り回る、たくさん遊ぶなどであれば、途中で犬が休むこともできる。
そして、シニアになっても、動ける限りはいつも通り散歩は続けてあげよう。若い頃と比べて歩く距離は短くなったとしても、同じ時間をゆっくり歩くだけでも筋肉に適度な刺激を与えることになる。
また、年齢に関係なく、できるだけ土の上を歩かせることが、筋肉や関節の保護につながる。
筋肉の病気
筋肉に関する病気にはどのようなものがあるのだろうか。それぞれの主な症状や原因、治療について知っておくと安心だ。
重症筋無力症
神経から筋肉への伝達が上手くできなくなってしまうことで、筋肉の疲労や脱力を引き起こしてしまう病気。先天的な問題といわれている。
主な症状として、よだれが異常に出る、食べるのが遅い、上手く食べられない、食べ物が胃まで入らず吐出する、常にまぶたが落ちて眠そうな顔をしている、筋力が落ちるなど。
治療:
神経伝達物質のアセチルコリンを攻撃する免疫物質であるアセチルコリン抗体を測定し、診断する。基本的には治らない病気であり、適切な投薬によってアセチルコリンの量を維持していくしかない。
また症状によって、誤嚥性肺炎の予防と治療、胃チューブなどで食事を送り込むなどの対処が必要となってくる。
筋ジストロフィー
筋肉の細胞骨格を形成するたんぱく質が不足し、そのために筋肉が正常に構築されず、働かなくなる病気。
遺伝性疾患であり、性染色体に原因があるのではといわれている。メスではほとんど発症しない。主な症状として、成長が遅い、筋肉が少ない、筋肉を触ると萎縮しているような感じで固い、あまり動かないなど。
治療:
治らない病気であり、症状を緩和する薬も今のところはない。生後3~4ヶ月頃に発症することが多く、そう長くは生きられない。筋肉が少ないため、食べ物を上手く飲み込むことができなくなってしまう。
誤嚥性肺炎の予防と治療、胃チューブによって食事を補助していくなどの対処を行いながら、見守っていくしかない。
ミオパシー
ミオパチーと呼ぶこともある。ラテン語でミオは筋肉、パシーは苦痛や病の意味であり、筋肉の病気を総称している。筋肉の萎縮が起こる遺伝性の疾患。
全身に起こるケースもあるが、多いといわれているのが咀嚼筋や目の周りの筋肉、皮膚の下の薄い筋肉の皮膚筋など。萎縮した部分は炎症を起こし、痛みを出す。
治療:
問題の起こっている筋肉を採取して、病理検査によって診断していく。根治は難しい病気であるが、ステロイドや免疫抑制剤などによって症状を緩和することは可能だ。
ただし、薬は一生続けていかなければならない。食事を飲み込むなどに関連した筋肉に問題がなければ、命に関わることはなく、生きていくことができる。
筋肉のケガ(切断)
思わぬことで、身体のどこかをケガした際に筋肉を切ってしまうこともある。考えられるとすれば、犬同士のケンカによるもの。ドッグランなどでは、きちんと管理されていることが多いので、めったに起こることはない。
治療:
傷の大きさや場所によって、治療は異なってくる。大きな傷であれば外科手術によって縫合が必要になる。小さい傷であれば包帯などで傷口を保護することで治っていく場合も。あとは犬が傷口をなめてしまうかにもよる。
傷が治るまで長期間カラーをつけるのが犬にとって苦痛であれば、手術で早めに治すという選択肢も。
▼筋肉の病気は発症すると治らないものが多い
筋肉だけではなく関節疾患なども含めると、さまざまな病気があるが、筋肉のみの病気は、そう多くはない。
重症筋無力症、筋ジストロフィー、ミオパシーは、いずれも先天性や遺伝性によるもの。生まれた時からすでに症状が出ていたり、生後3~4ヶ月、あるいは1歳までに発症するケースが多く、そして発症すれば根治はできない。人間では難病といわれているものがほとんどだ。
これらの筋肉に関する病気は、食道であったり、食べ物を飲み込む筋肉に影響を及ぼすと、食事から栄養を摂ることができなくなってしまう。生まれたばかりの子犬であれば、上手くおっぱいが飲めず、そのまま命を落としてしまうことも少なくない。また、本来、食道へ行くはずの食べ物が気管の方へ行ってしまうこともある。そうなると誤嚥性肺炎を起こす。
筋肉のケガを除いては、どの病気も柴犬ではそんなに多くはないが、全く発症しないわけではないので知っておくことは大切だ。
もっと知りたい筋肉のコト Q&A
Q.犬が生活する上で重要な筋肉はどこ?
どの筋肉も生活する上で必要だが、しいてあげるならば、四肢の筋肉であり、その中でも犬にとって前足は重要。前足は頭と身体を支えるだけでなく、ゴハンを食べたり水を飲んだりなどの姿勢を変える際も前足の筋肉の働きが大きいといえる。
Q.犬も人間が運動した後に起こるような筋肉痛になる?
犬も筋肉痛になるはず。ただ、人間と比べると犬は痛みに対して強い動物。人間が感じるような筋肉痛程度で、歩き方などに変化が見られるとは限らない。ただ、なんとなく元気がなくなっていることもあるので、犬の様子に気づいてあげることが大切。
Q.人間が筋肉をストレッチするように犬も自分でほぐす?
伸びをしたりなどのストレッチを犬もやっている可能性はある。どんな動きが自分にとってラクなのかは、これまでの経験によって犬は学習するもの。スキンシップでできるのなら、犬の様子を見つつ、飼い主さんがマッサージしても良い。
健康的な筋肉を目指そう!
いかがだっただろうか。筋肉にもいろいろな種類があり、どの筋肉も犬が生活する上で欠かせないものばかりだ。
そして愛犬が持って生まれた筋肉をどれだけ成長させ、活かすことができるのか。それをどこまで維持させてあげられるのかは、毎日の運動と食事がとても大切だというのを忘れてはならない。
愛犬の筋肉をよりよいものにさせてあげるのは、飼い主さんの努力次第といえる。これらをよく理解したうえで、しなやかで強靭な筋肉作りを目指そう。
最近、モヤシっ子が犬にも増えてない? 今年こそマッチョな柴犬になりたい!
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Shi‐Ba vol.91『知っておきたい役割・成長・病気 柴犬の筋肉を学ぶ』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。