犬の健康に欠かすことができない日々の「散歩」。でもこの散歩、実は犬にイイだけではない。では、具体的にどんな効果が得られるのかを紹介していこう。
1.散歩に出かけることで人も健康になれる
2.体にいいこと
2-1 体力維持
2-2 ホルモン分泌
2-3 脳の活性化
3.心にいいこと
3-1 ストレス対処
3-2 リラックス効果
3-3 コミュニケーション
4.人々を感動させる作品は散歩から生まれた?
散歩に出かけることで人も健康になれる
犬にとって“散歩”は、健康な体を維持するための運動であり、日ごろから受けるストレスを解消するための大切な時間。
しかしこの散歩、何も犬を健康にするだけではない。一緒に歩く飼い主にもまた、いい影響を与えてくれるものなのだ。
厚生労働省が定める基準では、健康な体を維持するために毎日の生活のなかで行う「身体活動(生活活動+運動)」を少しでも増やすことを推奨。
その身体活動の強度を「メッツ」、身体活動量をメッツ×実施時間で表す「メッツ・時」という単位で示している。
この「メッツ」とは、安静にしている時を基準にその運動がどのくらいに相当するかを表す単位で、座って安静にしている状態を1メッツ、普通歩行を3.0メッツとしている。
(歩行またはそれと同等以上の動き)の例
厚生労働省が推奨する18~64歳の健康な人の基準は、強度が3.0メッツ以上の身体活動を週に23.0メッツ・時行うこと。犬の散歩の場合なら、毎日60分行うことでこの基準をクリアできることになる。
また身体活動量を増やすだけでなく、適切な運動を習慣にして体力を向上させることも必要だといわれている。
その基準となるのが「全身持久力」。全身を長時間にわたって動かし続けられる力のことで、下の表のように性・年齢別に基準が示されている。
一般的には「粘り強い」「スタミナがある」と言われる、疲労に抵抗して体を動かし続けられる能力のことを指す。
上の表に示す強度での運動を約30分以上継続できた場合、基準を満たすと評価できる。
※表中の()内は最大酸素摂取量を示す。
そんな科学的根拠に基づいた健康づくりは、犬の散歩でも取り組むことができる。
体にいいこと
散歩をすると筋力が付くだけでなく、体にいい効果を与えるホルモンが分泌されたり、脳が活性化したりする。散歩をすると、人は元気になるのだ。
1.体力維持
体力アップで太りにくい体をゲット!
散歩をすることで得られる効果のひとつが体力の増強。歩くことで筋力を維持することができる。
ただしここでいう「筋力」というのは、筋トレなどでつく瞬発的な筋肉ではなく、おもに「筋持久力」。長い時間の運動で筋肉がどれくらい持ちこたえられるかという筋肉の力だ。
この筋持久力が鍛えられることによって「疲れにくい体になる」「免疫力が上がる」「基礎代謝が高まる」などのメリットが生まれる。
また筋力のアップとともに、全身持久力も向上する。全身持久力とは、「階段の上り下りで息が切れない」「動いてもすぐに疲れない」といった力で、筋力とともに心肺機能も高くなる。さらに基礎代謝も高まって太りにくい体質にもなるのだ。
●筋力の維持
筋力とひと言でいっても、大きく分けるとふたつある。ひとつは有酸素運動で鍛えられる「筋持久力」。もうひとつが無酸素運動で鍛えられる「筋力」。有酸素運動である散歩では、おもに「筋持久力」の向上が期待できる。
「白筋」と呼ばれる筋肉の働きで、ダッシュをしたり、重いものを持ち上げたりする時に使う瞬発的な力のことを指す。おもに筋トレなどの無酸素運動で鍛えられる。
→筋持久力
筋肉自体の持久力のこと。筋肉がどれぐらい持ちこたえて長く動かし続けられるかという力。散歩やウオーキングなどの有酸素運動で鍛えることができる。
●全身持久力の維持
全身持久力とは心肺機能の能力で、俗にいう“スタミナ”のこと。心肺持久力とも呼ばれる。
運動生理学の分野では、1分間に体内に取り込まれる酸素の最大量「最大酸素摂取量」を指標に評価される。
全身持久力の高い人と低い人を比べた場合、低い人は高い人に比べると、3~4倍ほど死亡率が高いという研究結果もある。
2.ホルモン分泌
散歩は日の光を浴びる日中がより効果的
散歩をすることによって促されるホルモンの分泌も、人の体に大きな影響を与える。
DHEAというホルモンは、散歩などの有酸素運動で発生し、免疫機能や抗炎症作用を高め、老化の原因となる活性酸素の増加を抑制する。
活性酸素はストレスで増加するので、ストレスをためないためにも散歩は有効なのだ。
DHEAは性ホルモンの原材料だが、20~30歳をピークに減少し、40歳で半減。分泌が少ないとやる気が起きなかったり、だるいなどの症状が現れるが、これも散歩で解消できる。
また、日光に当たることで成長ホルモン、メラトニンといった体にいいホルモンの分泌が増えるので、時間が許すのであれば、散歩は日中に行ったほうが、より体にいい効果が得られる。
●DHEA
副腎で作られる有酸素運動で発生するホルモン。活性酸素増加を抑制して老化を防ぐことから「若返りホルモン」とも呼ばれる。
加齢やストレスによって分泌量が減少するが、運動を続けることで増えることが近年の研究でわかっている。
●成長ホルモンとメラトニン
有酸素運動を行うことで睡眠中に分泌される成長ホルモンの分泌が増える。これを多く分泌させるには、セロトニンという日光を浴びると生成されるホルモンが必要になる。
子供の成長に欠かせないものだが、壊れた細胞の修復にも必要なため大人にも欠かせないホルモンだ。
・メラトニン
新陳代謝を促したり、体をリラックスさせたりするホルモン。夜に分泌されるので、安眠の効果もある。
3.脳の活性化
愛犬と散歩をするだけで頭がよくなる!?
散歩などの軽い運動で、脳が活性化することが知られている。特に注目されているのが、脳の海馬から放出される脳由来神経栄養因子BDNF。
これは脳細胞の発達に欠かせない物質で、軽い運動をすることで脳細胞を増やし、脳の機能を向上させる。
米アップルの創業者スティーブ・ジョブズが歩きながらミーティングを行っていたのは有名な話だが、これもBDNFの働きにより、脳が活性化することからだといわれている。
犬と行く散歩でも、脳細胞が活性化している。たかが散歩と侮ることなかれ。
※BDNF
80年代にアメリカで発見された脳由来神経栄養因子。脳機能の低下も防ぐことから、認知症予防にも注目されている物質だ。
心にいいこと
散歩というと体力に関する効果だけを考えてしまいがち。けれど散歩は、ストレスを解消したり、リラックスしたりと、健やかな心も育ててくれる。
1.ストレス対処
散歩するだけでストレス解消になる!
散歩が心にもたらすいちばんのメリットは、ストレスに対処すること。
先に紹介したBDNFに抗ストレス作用があるだけでなく、脳から出る神経伝達物質のひとつβエンドルフィンにもストレスを軽減させる作用があることも知られている。
このβエンドルフィンは、しっかりと歩くスポーツとしての「ウオーキング」でなく、のんびりと歩く「散歩」で多く出るといわれている。
体力増強を考えるのであればウオーキングのほうが効果的なのだろうが、ストレス軽減という面から考えると散歩のほうがいいとされるのだ。
犬との散歩は単にかわいい愛犬と出かけているからストレス解消になっているのではなく、科学的にも立証されている。
●βエンドルフィン
脳内で働く神経伝達物質のひとつで、鎮痛効果や幸福感を得ることから「脳内モルヒネ」とも呼ばれている。
家族や友人、愛犬に愛情を注いだり、おいしいものを食べたり、瞑想したりすることなどでも分泌される。
また免疫力を高める作用もあり、病気にかかりにくくなったり、自己治癒力を高めたりする効果もある。
さらに、体を老化させる活性化酸素を減らす作用もある。
運動を適度に続けてβエンドルフィンをたくさん分泌している人が若く見えるのは、この効果のおかげでもある。
日ごろの疲れをいやすために人間には休養が必要となるが、ソファでくつろいだり、寝たりすることだけが休養ではない。体を動かすことでリフレッシュするのも休養のひとつだ。
前者の休養は「消極的休養」、後者を「積極的休養」と呼ぶ。積極的休養は軽い有酸素運動がいいとされ散歩もそのなかに含まれる。
例:散歩、ヨガ、ストレッチ、ハイキング など
・消極的教養
例:寝転ぶ、ソファでくつろぐ、入浴、マッサージなど
2.リラックス効果
散歩に出たら深呼吸をしてリラックス
散歩自体の直接的な効果だけでなく、散歩に出かけた先でリラックスできるというのも、散歩をする楽しみ。そのひとつに、空気のいい環境で深呼吸するというのは、大きなリラックス効果を生み出す。
実はこれ、気分的に気持ちがいいだけでなく、科学的な根拠がきちんとある。深呼吸をすると自律神経である副交感神経が活発になってリラックスできるのだ。
自律神経の乱れ・不調は現代病のひとつ。普段から乱さないためにも、自律神経を整える方法として深呼吸がおすすめだ。
いつでも、どこでも、誰でも、簡単にできる方法なので、散歩で出かけた公園などで、おいしい空気を思い切り吸い込んでみよう
体の疲れを回復させる自律神経のひとつ。副交感神経が優位に働いていると、人はリラックスする。睡眠時や入浴時、食後などに活発になる。
・神経交感神経
副交感神経とは反対に、活発に活動をしている時などに働く自律神経。緊張している、ストレスを感じている時にも優位に働いている。
3.コミュニケーション
散歩はコミュニケーションをとるのに最適
家族や友人などとコミュニケーションをとれるのも散歩のメリット。
ある研究によると「ほぼ毎日」「同じ時間帯」「同じ地域」で会う人とは親密性が高まるという結果が報告されている。
特に犬の散歩のネットワークでは交流関係がつくりやすいといわれている。他のコミュニティーに比べると、あまり濃厚な関係は築けないようだが、ほどよい距離の関係が築けるそうだ。
犬という共通の話題で気軽に話ができる場は、リラックスするのに最適なのかもしれない。
また家族と一緒に散歩をすることも、非常にいいコミュニケーションの時間になる。歩くことで脳が活性化して会話が弾めば、普段聞けない子供の悩み事が聞けるチャンスかも?
人々を感動させる作品は散歩から生まれた?
散歩は気持ちをリラックスさせるために有効な手段。気持ちを落ち着けるだけでなく、脳の働きが活性化してインスピレーションやひらめきがわきやすい。
スティーブ・ジョブズが“散歩ミーティング”を行ったように、歴史的な芸術家たちも、散歩で作品のインスピレーションがわいたという。
代表的な芸術家には、夏目漱石、国木田独歩、島崎藤村といった日本人作家の他、ベートーベン、ツルゲーネフといった海外の芸術家たちもよく散歩をしたそうだ。
多くの人たちを感動させる彼らの作品は、もしかしたら散歩なしには完成しなかったかもしれない?
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Shi‐Ba vol.101『雨降りでも、めんどうでもイケイケGOGO! 思わず犬を連れ出したくなる飼い主サイドの散歩の科学!』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。