犬があれこれと飼い主に要求してくると、「なんか偉そうでかわいい」と思う。そもそも犬に「威張る」感覚はあるのだろうか。
威張る、というより使い分けている感じか
そもそも、犬には威張ったり、一緒に暮らす家族に順位をつけたりする感覚があるのだろうか?
自分にとってメリットがあるかどうかが犬の中では重要なことなので、ゴハンが大好きな犬ならゴハンをくれる人への注目度は高くなり、散歩が大好きな犬であれば、散歩を担当する人への注目度が高くなるだろう。
ちなみに、自分が家族の中で何番目の順位、と考えていることはないそうだ。
さて、すべてのお世話をしているママが、足を拭くなどの犬が嫌がるお手入れの時に噛まれたり、普段ほとんどお世話をしないご主人の言うことを犬がよく聞く、という話を耳にする。
これは、お世話係のママが「足が汚いまま家の中にはあげられないから、きれいに拭かなきゃ」とか「換毛期だから念入りにブラシをかけなきゃ」など、「きちんとしなければ!」と責任感を感じて、犬が多少嫌がっても強行してしまうのが原因。犬にとっては「嫌なことをする人」というマイナスイメージを抱くことに。
逆に何もしないパパは、休日車に乗せてくれて大好きな公園に連れて行ってくれる「いいことだけをしてくれる人」という好印象が持たれるわけだ。
威張る、というよりはうまく人を使い分けている犬。威張っているように見えるのは、人間側の思い込みや憶測であることが多いのかも。
犬が人よりも先にゴハンを食べると威張る!?
昔のしつけの本に書かれていたのが「人よりも先に犬にゴハンをあげてはいけない」というもの。先にあげたから犬が威張る、なんてことはもちろんない。
しかし、毎回犬に催促されてあげることを繰り返していると、犬の要求がエスカレートすることも。あげるタイミングは飼い主が決めると犬をコントロールしやすくなる。
また、ガムなどをあげると守って唸る場合はガムを与えないなど、その行動が出ない方法を考えることも大切だ。
飼い主の“攻撃性”を引き出さないように注意!
威張るといえば、10年以上前によく聞かれた「権勢症候群」(αシンドローム、α症候群とも言われた)という言葉を思い出す。
これは、狼の群れはα(=リーダー)というオスとメスのペアと、その他の個体で構成されていて、α以外は繁殖に参加しなかったり、群れの中の序列は絶対に守る、という話がベースになっている。
この考えを犬の訓練に取り入れ、当時よく紹介されていたのが「犬は家族の中で群れのリーダーになりたがる」「ゴハンは人よりも先にあげない」「高い場所に座らせると自分がリーダーと勘違いする」「犬よりも飼い主が強いことを犬にわからせなくてはいけない」といった話だ。
犬が飼い主に対して唸ったり噛んだりするのは、人よりも上に立とうとする「優位性攻撃行動」によるものだ、という考え方。今、この言葉をあまり聞かなくなったのは何故か?
90年代頃から、狼を飼いならしたり、犬を自由に暮らさせてみるなど、狼や犬のさまざまな研究が世界の至る所で行われるようになった。その結果、狼も犬も順位というものはそれまで言われてきたほど厳格なものではないのでは? という指摘や劣位の者が常に優位になりたいと思っているわけではない、という説が出てきたのだ。
また、飼い主と犬との関係性についての研究も盛んに行われ、「優位性攻撃行動」という言葉を使うと、犬よりも飼い主が強くならなくてはいけないと誤解し、声を荒げたり体罰を用いて犬と接することを懸念。動物行動学(特に臨床分野)の世界では現在、「序列関連性攻撃行動」「葛藤性攻撃行動」「自己主張性攻撃行動」に分け、診断するようになった。
多頭飼いなどの犬同士の場面では、順位に関わる攻撃行動は起こりえる。しかし、飼い主と犬の場合では、どちらの言うことをどちらが聞くか、自分の欲求がどう通るかといった部分、過去の経験や学習、環境、飼い主との関係性、犬の性格など、さまざまな要素が関係している。声を荒げたり、体罰を用いて犬に恐怖を与えることは、犬の攻撃行動をさらに引き出す可能性が高い。
飼い主の攻撃性を引き出さないためにも、行動診療の現場では優位性という言葉をほとんど使わないようになった。
犬との関係性において、犬に怖い思いをさせる「威張った飼い主」だけにはならぬよう、十分に気をつけないといけない。
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Shi‐Ba vol.101『そういえば昔αシンドロームって言葉よく聞きましたが……そんな話も含めて 飼い主目線で見た我が家の威張る!? 犬』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。