犬びより

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【紀州犬英雄伝!】渋さと地味さの奥に潜むヒーロー的素質に迫る!

2018/08/02

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太古より、山深い紀伊山地で狩猟犬として活躍してきた紀州犬は、頑強な体躯を持ち、頭が良く、勇敢で主人に忠実な日本犬として知られている。一方、使役犬としてのイメージが強く、家庭犬として飼うのは難しいと思う人がいるのも事実だが、熱狂的なファンがいることは意外と知られていない。そこで、紀州犬の体型や性格、特徴など基本的な情報をベースに、原始から受け継がれてきた英雄的素質にあらゆる角度から迫ってみた。

 

紀州犬ってどんな犬?

毛色
紀州犬といえば白い犬のイメージで、白が圧倒的に多い。たしかに現在は、ほとんどが白毛だが、昭和20年以前は白毛は少なく、胡麻、赤、黒のものが多かったという。白い犬は神の遣いとされ、古い書物などによく登場する。


耳は薄からず、耳の付け根の幅は狭からず。小さな三角形で、ぴんと立ち、やや前傾している。細長い耳や前傾の少ない耳は力強さに欠ける。


目は三角形で、虹彩は、濃茶褐色が理想で、黒色ではない。虹彩が瞳を含めて一色に見える濃さを保っているのがよい。


背は、背部から腰部、さらに尾の付け根まで真っ直ぐで、強靭な腰をしていることが望ましい。



巻き尾と差し尾がある。尾は、ゆるやかに巻いたり、だらりと下がったり、犬の精神状態をよく表す。


深く適度に張り、よく発達している。体高のほぼ半分くらいの胸の深さがあるとよい。浅くても体高の45パーセント以上とする。


力強く踏ん張り、四肢の関節は、正しい角度であることが大切。肩甲骨の傾斜角度の浅いもの、四肢の関節の角度が正しくないもの、肘の外転したものは好ましいとはいえない。

性格
日本犬保存会の審査標準「日本犬標準」には、「悍威に富み良性にして素朴の感あり、感覚鋭敏、動作敏捷にして歩様軽快弾力あり」とその本質と表現が記されている。素朴、純情、忠実、頑固、野性的……といったところか。

歴史
三重県や和歌山県など紀伊半島一帯の山岳部で、古くからイノシシやシカなど大型獣の猟犬として用いられてきた。イノシシは、白い毛の犬に向かっていく傾向があったことから、こうした特徴を持つ犬が改良されたという説もある。昭和9年に国の天然記念物に指定された。

性差
オスは、体高体長の比100対100で、頭部が大きく、頬が豊かで、骨量もあり、筋肉がよく発達している。メスは、体に比して体長が長い。

 

紀州犬にまつわる英雄伝

紀州犬のイメージといったら、断然、英雄的勇姿。どんな英雄伝があるのが、早速調査してみた。

小説でも……

果敢に挑む勇者は、決して悪を許さない
社会派ミステリー作家として知られる西村寿行は、「黄金の犬」、「まぼろしの獣」、「旅券のない犬」など紀州犬が登場する数多くの動物小説を発表している。飼い主のため死を賭して闘う犬や、はぐれた後、力強く生き抜き故郷を目指す犬、自然災害から人々を助けたり、強盗を捉えたり等々。飼い主には限りなく従順で、屈強な精神力を持ち、弱き者を助け、憎き者を討ち倒す紀州犬たちが異彩を放つ。

童話や昔話でも……

最後はいつもひとりぼっちだなんて…
絵と文で構成された童話の世界にも紀州犬は登場する。「帰ってきたナチ 紀州犬愛の物語」は、村一番の猟犬に育ったナチが、猪狩りで大ケガをした飼い主を命がけで助け、やがて悲しい別れの時が待っているお話。また、「弥九郎の犬」は、猟師に拾われた子犬が立派な猟犬に成長し、困難に立ち向かい、山に帰って行く物語。このお話に登場する犬のマンが紀州犬の祖先だと言われている。

ドラマでも…

一途で純粋な心
西村寿行の同名小説を映像化したテレビドラマ「黄金の犬」、そしてそれに続く「炎の犬」は、犬と人間との深い絆、犬の親子愛、成長などを描きながら、波瀾万丈なストーリー展開、そして、涙のラストシーンが大いに話題になった感動作として、記憶に残る傑作ドラマ。何度観ても感涙するファンが多いとか。紀州犬が親子で疾走する美しい姿が印象的。

現実でも……

そっと寄り添い、見守る
高野山の案内犬、ゴンは住み着いていた慈養院から高野山、金剛峰寺までの町石道を覚え、大勢の参拝客を先導。ゴンは「お大師様の使いの名人」として脚光を浴びた。ゴンが亡くなった今でも、ゴンの彫像に手を合わせ、お守りを買い求めていく参拝客が絶えない。弱者を助け、守り、無償の愛を貫いた、どこまでも優しいゴンは、まさに現在のスーパーマンとも言える。

 
実話、小説、昔話、ドラマから考察!紀州犬の英雄像

1.孤独を受け入れる潔さ
他犬と戯れたり、群れをなして行動するのを好まない。ひたすら主人に寄り添いながらも、静かに立ち去る覚悟もできている。

 
2.弱気を助け、強気を挫く
自分の家族や弱い者たちを全身全霊で守り抜き、強くて横暴なものを徹底的にこらしめる、限りない優しさを持つ。

 
3.勇猛果敢な攻めの姿勢
研ぎ澄まされた感覚とバネのような強靭な肉体で敵を決して、吠えたり、わめいたりせずに静かに忍び寄り、一気に討ち倒す。

 
紀州犬の生き様はハードボイルドのヒーロー

紀州犬はイノシシや熊を討ち倒すだけではない。主人や家族に危害を加えるものがいたら容赦しない。それが紀州犬の神髄なのだ。鍛えあげられた強靭な筋肉と、しなやかな骨格を併せ持った肉体を武器に、冷静な洞察力、瞬時の判断力を駆使して、主人にはどこまでも従順で忠実。人間と共に生きながらも孤独感が漂う。英雄は残酷なほど悪を憎み、命がけで弱いものを守り、そして静かに立ち去っていく。そんなクールで限りなく優しい英雄像が紀州犬に重なるのは当然かもしれない。

人々を魅了して止まない紀州犬の英雄的勇姿は、実話や小説はもちろん、ドラマやアニメの世界にもしばしば登場し、感動や涙を呼んでいる。

「キミがいてくれさえすれば、何があっても大丈夫」そんな風に感じさせてくれる紀州犬はやっぱり、真の英雄なのかも。

 

真の魅力とは?

飼い主に忠実、それでいて何でも言うことを聞くわけではなく「自分」を持ち、「正義」があり考え行動できる。山では群を抜く力を発揮する猟犬も、家に帰れば普段は穏やか。

紀州犬の猟能は素晴らしい、これは天性のもの。しかし、普段は弱そうに見えるくらいで丁度いい。

本当の強さは、目に見える形で相手を倒すことばかりではない。“力”は、内に秘められ、ここぞという時だけ発揮されるべきもの。目に見えるものばかりに囚われてはいけない。紀州犬の真の魅力ともいえる部分に、皆が気づきにくかった一因かもしれない。紀州犬の意外な魅力を発見する、本特集がそのひとつの機会になれば嬉しい。そして、紀州犬には愛情深い本当のヒーローの素質が確かにあるように思う。

 
Shi‐Ba vol.76『渋さと地味さの奥に潜んだヒーロー的素質に迫る!紀州犬英雄伝』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。