同じ哺乳類だから生殖のシステムも似てるのでは、と思ったらこれがちょっと違うらしい。去勢・避妊以外の犬の生殖についてたまには勉強!
1.どこからどこまでが生殖器なのか
2.犬の生殖器の構造
3.ホルモンの種類と働き
4.メスの発情のメカニズム
5.オスの発情と性器の基礎知識
6.犬固有の射精方法と精子の質
7.他動物にはない高い繁殖力の秘密
8.生殖器の病気
9.ブリーダーを震撼させる犬のブルセラ病
10.出産適齢期と高齢犬の性機能
11.避妊・去勢のタイミング
12.犬の性教育 まとめ
lesson1 どこからどこまでが生殖器なのか
■オス
◎生殖腺
精巣/精子を作り出す性ホルモンの分泌も行う。
◎主な副生殖器
・精巣上体/精巣で作られた精子を貯蔵・成熟させる。
・精管/射精の際に精巣上体からペニスに精子を運ぶ。
・陰嚢/精巣と精巣上体を包み、内部の温度を調整する。
・前立腺/液体を分泌し、射精時に精液を押し出す。
・ペニス/交尾時に精子を含む精液をメスの膣に注入する。
■メス
◎生殖腺
・卵巣/卵子を作り出す。 性ホルモン分泌も行う。
◎主な副生殖器
・卵管/卵巣から子宮に伸びる管で卵子を子宮に運ぶ。
・子宮角、子宮体/受精卵を発育させ、分娩まで胎児を宿す。
・子宮頸部/子宮の蓋として分娩まで胎児が外に出るのを防ぐ。
・膣/交尾時は陰茎を受け入れ、分娩時は産道を形成。
・乳房、乳腺/乳汁の分泌、授乳に使われる。
上記の通り、生殖において最も重要な器官はメスが卵巣、オスが精巣である。この二つを生殖腺と呼ぶ。それ以外の生殖に関わる器官が副生殖器と呼ばれ、その二つを合わせて生殖器という。その数は意外と多い。生殖行為に必要な器官がずらりと並んでいるので、言われてみればなるほどと納得できる。
この中にメスの乳腺と乳房が含まれていることに「オヤッ」と思う方がいるかもしれない。だが乳腺は乳汁を分泌し、乳房は生まれた子犬を育てるためには大切な器官であり、その意味で生殖のための器官と言える。
lesson2 犬の生殖器の構造
メスは体の奥まった場所に生殖腺である卵巣がある。ここで生殖子とホルモンを生産する。そこから副生殖器である卵管、子宮、膣で外部と繋がっている。
オスは生殖腺である精巣のすぐ上に副生殖器である精巣上体がある。精巣で作られた精子をストックして成熟させる場所である。それが精管を通りベニスから射精される。
ところで、オスのペニスの部分には陰茎骨という骨がある。ここが人間と大きく違う部分なのである。何故骨があるのか、それはこの後別枠で触れることにする。
lesson3 ホルモンの種類と働き
ホルモンを分泌するのは生殖器であるが、その大元は脳にある視床下部で、下垂体を経て性腺へと移っていく。この視床下部と下垂体を上位ホルモンといい、性腺を下位ホルモンという。この視床下部からの指示でホルモンは分泌され、生殖器はすべてこのホルモンにコントロールされる。
逆に、ホルモン分泌が適量でない場合は、下位から上位へ「足りている」あるいは「足りていない」と伝達し、下位でありながら上位を刺激することもある。
■ホルモン一覧
テストステロン
オスの精巣は生殖子を生産し、ホルモンを出す生殖腺であるが、ここから出る男性ホルモンのことをテストステロンという。いわゆる「男らしさ」を作り上げるホルモンである。
エストロージェン
メスの生殖腺である卵巣には卵子が存在し、さらにここから分泌される卵胞ホルモンがエストロージェン。メスが子供を産むために必要なホルモンである。
リラキシン
メスが妊娠すると分泌されるホルモン。妊娠すると胎盤から放出されるホルモンで、出産時に産道を緩める機能がある。逆に言えば、妊娠しないと出さないホルモンである。
プロジェステロン
メスが排卵した後に、黄体から出される黄体ホルモンをプロジェステロンと言う。このホルモンとエストロージェンのふたつがメスのメインのホルモンである。
lesson4 メスの発情のメカニズム
ご存知の通り、犬の発情期は年に2回ほど、およそ6~10ヶ月のサイクルで回っている。このような動物を単発情動物と言い、特殊なタイプである。
ちなみに人や牛、馬などは多発情動物、基本的には1年中受精可能だ。だから犬の場合は繁殖のタイミングに神経を使う。
そのタイミングはいつか。俗に言う犬の生理は、実は人の生理とは意味合いが異なる。犬の場合、卵胞からの作用によって出血し、これは妊娠の可能性が高いというサインなのだ。つまり、出血後に妊娠可能となる珍しい動物なのである。人の生理は妊娠しなかった時に子宮内膜が脱落する現象。
lesson5 オスの発情と性器の基礎知識
メスには発情周期があるが、オスにはいつでも交尾可能だ。メスの発情に合わせて交尾を行っているわけだが、交尾の直前、オスのペニスは勃起状態にはない。
それで膣に挿入できるのか。先に少し触れたが、犬のペニスには骨がある。これにより挿入可能となるのだ。
犬は遅延勃起する動物で、挿入後にペニスの根元に血液が充満して大きくなり、外れないようにロックする。これは野生動物としては、迅速な行動を妨げることになり危険だが、確実に精子を子宮に送り込むための知恵として得たものという。
lesson6 犬固有の射精方法と精子の質
犬は一度の交尾で3回射精するのだが、それぞれに意味がある。
最初の射精はメスに乗る前に、精子の通り道である尿道を清掃するため(と思われる)に少量の精液を放出。このあとメスの上に乗りペニスを挿入すると、膣の中で亀頭球が大きくなりがっちりロック。ここで2度目の射精で、これが本番。しっかりと精子を放出する。最後は前立腺から分泌される液を出して終了。
つまり2度目の射精時に受精可能な精子が含まれているのである。一般の人にはあまり必要のない知識だが、知ってればより犬を理解できる。
lesson7 他動物にはない高い繁殖力の秘密
さきほど犬は単発情動物であると説明した。発情期が年に2回ほどしかないのに、繁殖力が高い、というのはどういうことなのか。いくつかの事象や機能がそれを証明する。
まず、犬の場合は精子の寿命が5日くらい、卵子は4日くらいと言われており、他の動物はそれぞれだいたい2日程度。哺乳動物の中ではダントツで長生きなのだ。精子が放出されたあと、生殖道内で生きている時間が長ければ長いほど、受精の確率は高くなる。したがって、繁殖力が高いと言える。
もうひとつは、メスの排卵システムにある。一般的な動物の場合、排卵後の卵子は老化していく。それは人にも言える。
だが犬の場合は、排卵時の卵子はまだ未成熟な状態なのである。排卵され、卵管を下っていくうちにだんだんと成熟していき、子宮に降りてきた時に一番いい状態の卵子となるわけだ。老化している卵子よりは、フレッシュな卵子の方が活発で、受精しやすい。
これらのことから、精子と卵子が出会う確率が高くなるのである。
lesson8 生殖器の病気
動物の生殖器の病気は少なくない。ましてや生殖器官をさらして、しかも地面に近い位置にある犬は、衛生状態も含めて病気になりやすいのでは、と感じる方は少なくないはず。確かに菌はつきやすいので、気をつけたいところだ。犬の生殖器の病気を以下の表にまとめてみた。
これ以外の珍しい病気に、持続性陰茎勃起症がある。ペニスが大きくなったまま戻らないというもの。交尾中に神経が傷つけられて血液が引かなくなり、戻らない。このままの状態だと、ペニスは壊死してしまう。
■犬の生殖器の病気一覧
・偽妊娠
妊娠していないのに、妊娠しているような兆候を示す。乳房が発達し、巣作りをし、性格が凶暴になるなど。他の動物に比べ、犬は黄体期間が長いということが原因の一つと言われている。最近の研究では、大切に飼われていると発症することが多いともいう。
・悪性腫瘍(ガン)
前立腺腫瘍、精巣腫瘍、卵巣腫瘍、膀胱腫瘍、乳腺腫瘍など挙げることができるが、いずれもホルモンが発症に関わっているケースが多い。また、腫瘍が良性であることも多いが、卵巣腫瘍などは早期発見が難しい。去勢、避妊で発症確率が抑えられる病気もある。
・子宮蓄膿症
通常、子宮内には細菌が生じにくいのだが、加齢などでバランスが崩れると、細菌感染が生じ、膿汁が貯留する。おりもの、食欲不振、さらには腹膜炎が起こりやすくなり、命の危険も伴ってくる。産歴のない犬の発症率の方が高いと言われている。
・前立腺肥大症
5歳以上の発症例が顕著なオスの病気。精巣から出るホルモンの量によって肥大化し、それによって直腸などが圧迫され、排尿障害等を引き起こす。犬の場合は人と違ってウンチが出づらくなったり、腰のふらつきが現れる。早めの去勢を行った場合は肥大化しない。
・潜在精巣
精巣は熱に弱く、そのため体の内部ではなく股間の陰嚢に存在している。出生直後は腹腔内にある精巣は、その後1か月ほどで陰嚢に収まるのだが、陰嚢に降りてこない状態を潜在精巣(停留精巣)という。精子を作らないだけではなく、精巣腫瘍の発症率も高くなる。
・膣炎・亀頭包皮炎
症例はそれほど多くなく、また発症しても治療は困難ではない。犬は地面にお尻を直接つけるので、細菌が入りやすい。包皮内にも常在細菌が多い。免疫が落ちていたり、膣に傷が付いていた時などは、これらの
菌による感染症が起こりやすくなる。
・子宮内膜炎
子宮蓄膿症の前段階のような病気で、流産や早産、難産などで子宮や胎盤、膣などに傷が付いた時に発症しやすい。外陰部から粘性の膿や白濁した分泌物がでやすくなる。不妊症の原因にもなる。子宮蓄膿症と同様、卵巣を取っていれば発症しない病気である。
・前立腺嚢胞
前立腺が肥大化すると、その中に空胞ができる。これが嚢胞で、ここに前立腺の分泌液が貯まっていく。血液が混入することも多く、排尿時でなくても尿道から血のような分泌液が出るようになる。嚢胞が大きくなると、便秘や血尿などの症状が現れてくる。
lesson9 ブリーダーを震撼させる犬のブルセラ病
ブルセラ病とは細菌感染する病気で、完治する治療法はない。
生殖器が好きな細菌で、感染するとメスは流産、オスは無精症になる。菌は経口感染だけでなく、精液中にも存在するので、交尾でも感染する。排泄物や分泌物にも存在する。
つまり、ブルセラ病に感染した犬が1匹いると、そのコロニーは全滅するという恐ろしい病気なのである。
ブルセラ病は家畜伝染病なので、感染した個体は法律で殺処分が義務付けられているが、犬だけはその義務がない。ちなみに人にも移る。
lesson10 出産適齢期と高齢犬の性機能
まず、犬のメスに閉経はない。卵子になる細胞の数は生まれた時から増えることはないので、年を取っていけば減っていくのだが、それでも寿命を全うするまでは尽きることがないと言われている。
一方のオスは、高齢になっても精子を作り出すことができる。
理論的には高齢な犬同士でも子供を作ることは可能なのである。実際、12~13歳で妊娠したという例もあるという。これもまた犬の繁殖力の高さを証明するものである。
ただやはり、メスの場合は年を取ると受胎率は低くなるし、生まれた子供の発育にも少なからず影響が出てくる。オスは高齢でもメスほどの影響は出ないという。そのようなことから、2~4歳の頃に子供を産むのが一番いいということである。
lesson11 避妊・去勢のタイミング
もし、繁殖の予定がないのであれば、避妊、去勢はなるべく早く行ってしまった方がいい。生殖器の病気を低減できるからだ。
メスの場合は、初回の発情の前に卵巣を取ると、乳腺腫瘍の発症率が劇的に減る。だが初回発情後になると、発症率が減ることはない。したがって、生後半年くらいが避妊手術のタイミングとなる。
避妊手術は卵巣だけ取る方法と、卵巣・子宮を取る方法があるが、卵巣だけ取った場合でも、そのことで子宮も萎縮してしまうので、子宮蓄膿症を発症することもなくなる。
オスの場合、悪性腫瘍の確率が高い前立腺腫瘍の発症率がかなり低くなる。その他の悪性腫瘍に、去勢、避妊はあまり関係がない。避妊、去勢によって副生殖器の病気はかなり少なくなるのだ。
ただ、避妊や去勢をすることでステロイドホルモンが減り、運動能力がなくなるという「副作用」もある。同じ量の食事量であれば、当然肥満傾向になる。
また、ホルモンの影響がなくなることで、高齢化した時に反応が鈍くなるというケースも多い。
犬の性教育 まとめ
生殖のシステムは奥深い。ここではほんの触りの部分しか紹介できなかったが、それでも「なるほど」と思うことが多い。
それだけでなく、何故このシステムを選んだのか、ということを考えることで、犬が自然界の中で生きていくためのスタンスや哲学まで感じ取ることができる。交尾中に天敵が現れてもすぐには外せない機能などは、確実に受精させることを選択した犬の生き方の表れとも思える。
しかしそれは本能、当の犬たちはそんなこと考えて行動しているわけではない。生殖関連のことをうまくコントロールするのは、やはり飼い主の仕事なのである。
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Shi‐Ba vol.92『知っているようで知らない犬の生殖器のこと 犬の性教育 11のLesson』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。