犬の笑顔は見ているだけで癒される。擬人化は禁物というけれど、愛犬はきっと笑うはずだ。……と思いたいのが飼い主の心。犬は本当に笑っているのか徹底的に検証してみた。
犬の笑顔の研究は発展途上国
犬の笑顔は元気の源!……と書いてみたが、犬は本当に笑うのだろうか。「何を今さら」とお叱りを受けそうだが、動物行動学的に解明されていないことも多いのだ。
まず、人以外の種に表情があることを提唱したのはダーウィン。犬の笑顔の研究は、1960~70年代にマイケル・W・フォックス氏が行った。実はそれ以来、研究があまり進んでいない。
というのも、人に対して友好的な行動はほぼ無害なので、積極的に研究する必要がなかったからだ。逆に攻撃的な行為は、人が危険を避けるために研究が進んでいる。
しかし、犬が人のように感情を持っていることは、行動学的にも生物学的にも証明されている。
ただし、人とは脳や骨格、筋肉の発達が異なるため人のように笑ったり、涙を流して悲しむことはない。犬の感情を理解するためには、表情だけではなく、ボディランゲージ(全身の動き)をみる必要がある。
ボディランゲージで意志の疎通がスムーズにできるのは、犬同士にほぼ限定される。顔つきが全く違う人が犬のしぐさを真似して感情表現することは容易ではない。愛犬との暮らしの中で、お互いにコミュニケーション方法を確立していく方がいいだろう。
犬もコミュニケーションの手段として笑顔を用いる
人の笑顔はコミュニケーションツールとして発達したものである。起源をたどって説明しよう。
まず、サルからの進化の途上で顔が扁平になって両目が並び、立体的に見えるようになり、表情筋も発達しやすくなった。
また、顔の毛もいらなくなったため、表情が見えやすくなる。視覚による情報伝達手段として顔の表情筋が確立し、笑顔をはじめとしてさまざまな表情を進化させていったとも考えられる。
犬の笑顔も人と同様にコミュニケーションの役割がある。犬は人よりも優れた嗅覚を持っているが、まず視覚で探っているはず。近距離であれば表情でコミュニケーションは可能だろう。
また、犬の笑顔は社会化の過程で身につける他、人の笑顔を真似しようとしている笑顔があることが分かっている。下の項目で人と犬の笑いを比較してみよう。
人の笑い
□緊張緩和の笑い
一息ついた時にゆるんだ表情が笑いの形になる
文字通り、緊張をゆるめるための笑い。相手に対して意識的に浮かべる笑いと自然に出るホッとした微笑みなど。ただし、極度の緊張後は笑うよりも放心状態になる。
□社交場の笑い
あいさつの時の笑みや愛想笑いが分類される
人間関係を円滑に行うための技術としての笑い。3種類の笑いの中でもっとも頻度が高いと推測される。
□快の笑い
精神的にプラスの要素が多い笑い
この笑いの基本は新生児微笑(赤ちゃんが授乳後に満足して浮かべる微笑)である。
犬の笑い
□あいさつ(期待する)の笑い
犬が日常的にもっとも多く浮かべる笑顔
目を丸くして軽く口を開ける表情。ストレスがかかっていない、ちょっと楽しい、期待を感じている、そんなポジティブな表情だと推測できる。人や犬に対する他、来客時や好きな場所にお出かけしたときなどにも浮かべる。
□服従(子犬)の笑い
自分を子犬のように見せる控えめな表情を浮かべる
唇を後ろに引き、耳を後ろに倒した笑い。相手の口を舐めようとすることがあったり、相手に服従する時の顔だったりもする。動物行動学的には、受動的服従と呼ばれる。
□ものまね(歯をむく)笑い
歯を見せて笑う人の表情を真似した一見怖そうな笑顔
好きな人が近づくと出ることが多い表情。犬に対しては威嚇になる表情なので、人にしか見せない。人が注目した結果、学習して繰り返すようになったのだろう。
□プレイフェイス(遊ぼうの笑顔)
興奮気味に相手を遊びに誘う時に浮かべる
遊びに誘うときに浮かべる笑い。挨拶よりも興奮し、耳を前に立てて、息遣いが荒くなる。立ち耳の柴犬の場合、全身を見たほうが分かりやすいだろう。
関連記事:【柴犬の表情図鑑】あの顔の時どんなことを思っている?笑顔編
笑顔のレッスン
愛犬に笑いかけてもらいたい……と片思いしている方に朗報。犬に笑ってもらえる夢のようなレッスンがあるのだ!
1.犬が穏やかな笑顔を浮かべるものを探す
オモチャやオヤツなど、見せると犬が穏やかな表情をするものを把握する。
2.笑っているときにオヤツを与えてほめる
笑ったらほめてオヤツ。口を閉じたらすべてを一旦やめ、口を開けたら再開。
3.7割以上すぐに笑えたらコマンドをつけて教える
オモチャを見て笑った瞬間に「笑って」とコマンド、1秒後にほめよう。
犬が期待して笑顔を向ける飼い主になろう
犬と人が同じような感情を持ち、笑うことは証明されている。犬の表情の研究は発展途上の分野だが、専門家の間にも「犬は笑う」いう事実は浸透している。そのことを証明する興味深いデータがある。
1970~80年代頃、イギリスの獣医師に犬の感情のデータをとったところ、半数以上が『犬に喜怒哀楽の感情はない』と答えたそうだ。
しかし、2000年頃に再度アンケートを行うと、9割が『感情はある』、残りの1割は『わからない』という回答に変わっていたのだ。『わからない』と答えた1割の獣医師も「犬に感情があるかわからない」ではなく、「人と同じ喜怒哀楽があるかわからない」というニュアンスの回答だったという。
すべての柴犬が先ほど紹介した笑顔を浮かべるとは限らない。笑顔の種類や浮かべる頻度は個体差が大きいからだ。
また、『子犬の笑い』『歯をむく笑い』は出なくても気にすることはない。しかし、『期待する笑い』をしない犬は、感情の動きが乏しいと考えられる。内面や環境に問題を抱えている可能性があるので、心配な場合は専門家に相談するといい。
ところで、柴犬をはじめ、日本犬特有の笑顔はあるのだろうか。笑顔に限定すると、日本犬ならではの表情はあまり感じないが、耳の表現は豊かだ。平らにしたり、耳の間を狭くしたり、よく動かしている。
また、笑顔ではないが、盛り上がっている飼い主さんを、冷ややかな目で見ている日本犬は見かける。日本犬特有の顔と言えるだろう。
犬にポジティブな笑顔を向けてもらうためには、まずコミュニケーションをとること。単にオヤツを与えるだけでなく、オモチャで遊ぶなど共同作業で笑ってもらえる関係がベストだ。
『一緒にいて楽しい存在だ』と犬に期待してもらえるような飼い主さんを目指そう。
関連記事:表情が変わる仕組みは人間と同じ?柴犬の【顔筋】大研究!
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Shi‐Ba vol.52『今さらですが、犬に感情があることを証明したいと思います!』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。