気がついたら愛犬の歯がすり減っていた!飼い主が知っておくべき咬耗のこと

犬の歯の咬耗

歯の病気と言えば歯周病を真っ先に思い浮かべる人もいるだろう。しかし、硬い物を噛んだり、ぶつけたりして歯を折る(=破折)ケースや、いつの間にか歯がすり減っている(=咬耗)ことも多いもの。今回は「咬耗」のことを詳しく紹介しよう。
 

 

咬耗(こうもう)とは

咬耗とは本来、上下顎の歯が咀嚼運動で咬合接触することによって、エナメル質や象牙質が摩滅すること

また、自らの意志で石や玩具、ケージなどの硬い物を噛むことにより、歯面に生じる摩滅も咬耗という

年齢とともに自然な形で歯がすり減ることを“生理的咬耗”といい、これは人にも犬にも見られる。特に歯が堅い犬、柔らかい犬がいるわけではなく、歯の堅さは基本的にみんな一緒(エナメル質形成不全など特殊な例を除く)。

外で暮らす犬にも、室内で暮らす犬にも、昔の犬にも今の犬にも多少の咬耗はある。ただ、人に飼われている犬は飼育環境や食べ物の嗜好性、その犬の噛み癖(例えば、左の歯で噛むことが多いなど)などにより、象牙質の消耗程度が異なるそうだ。

歯は生きている。歯が摩滅すると、象牙芽細胞の突起が刺激され、歯髄腔表面象牙芽細胞から象牙質が新生され、修復象牙質が形成される。修復象牙質が形成されるようなゆるやかな速度で咬耗や摩耗が進む場合は、歯髄は後退し、露髄(歯髄が露出すること)することはない。

問題なのは修復象牙質の形成速度を超えるような急激な咬耗や摩耗。これらは、露髄してそこから感染し、歯髄炎などを引き起こしてしまう。

ほとんどの咬耗はなんの症状も示さないが、歯髄が露出する「露髄」は痛みをともない、深刻な病気を発症する。

 

歯がすり減る原因は?

犬の歯の咬耗

■どんなものでも噛めば咬耗の原因に

硬い物でも布やゴムボールのような柔らかいものでも、長時間かめば歯はすり減ってしまう。何を何時間噛んでいたら咬耗になった、というデータはないが、留守番の時に与えるオモチャやその与え方には十分注意したいもの。

ヒヅメや骨、ケージなど硬い物のほうがすり減るが破折のほうが多い。いずれにせよ硬い物は噛ませない方がよいだろう。

また、やわらかいものは長時間与えないようにすること

日本犬は外飼いの場合も多いが、生活スペースに石や木、ボールなど犬が常に自由に噛めそうなものを置きっぱなしにしないことも大切だ。

また中には何らかの口腔疾患により、歯ぎしりをして歯が摩滅することもあるそう。愛犬がギリギリと歯ぎしりしているようなら、歯科専門医に相談してみよう。

 
■年齢と歯の関係について

よく「歯のすり減り具合を見れば、その犬の大体の年齢がわかる」という話も聞くが、家庭犬は食べている物をはじめとして、日常どんな場所でどのように過ごしているか、どんなもので遊んでいるか、ハミガキをしているかどうかなど、生活環境がそれぞれ違うもの。

咬耗の状態を見て、その犬の年齢を判別できるかというと、一概には言えない。

ただ、口腔内のX線検査をして、歯髄腔の根管の太さを見れば、おおよその年齢はわかる。

 

治療が必要な咬耗

血管、神経、リンパ管が集まった線維性結合組織である歯髄が、歯の急激なすり減りによって露出した状態は要注意。

通常、歯がすり減ると歯髄を守ろうとして象牙質が厚くなり(=修復象牙質)、歯髄が後退して露髄を防ぐという体の中の生体反応が働く。

しかし、象牙質が作られるよりも歯のすり減りが早いと、象牙質の修復が間に合わず、露髄してしまう。

露髄は相当な痛みを伴い、かつ、深刻な口腔トラブルも引き起こすので、ただちに治療が必要となる。

 

露髄するとこんなことが起こる!

犬の歯の咬耗

露髄を放置すると、細菌が露髄した部分から入り込み、歯髄炎から歯髄壊死に至り、その後、歯の根っこの周囲の強い炎症(根尖周囲病巣)、さらには外歯瘻、内歯瘻、下顎骨骨折を引き起こす可能性がある。

・根尖周囲病巣
歯根の先端を根尖といい、この周囲の病巣のことをいう。歯髄壊死から根尖より炎症が波及すると膿瘍などの病巣があらわれる。
 
・外歯瘻
炎症が根尖の周囲まで及び、根尖周囲の骨が溶け、瘻管(トンネル)が作られてしまい、皮膚に穴があく状態。
 
・内歯瘻
炎症が進み、歯周組織が破壊されて瘻管が形成され、歯肉に穴があく。
※外歯瘻、内歯瘻ともに、穴からは膿や出血がある。
 
・口鼻瘻管(こうびろうかん)
根尖で炎症が進んだ結果、骨が溶けて口腔と鼻腔が貫通してしまう状態。口腔と鼻腔とを隔てる骨の厚さはとても薄く、骨が溶けると容易に穴があいてしまう。くしゃみや鼻汁、鼻血などの症状が多く見られるのもこの症状。
 
・下顎骨骨折
小型犬は下顎骨の厚さに比べて歯が相対的に大きいため、根尖が下顎の下のラインとほぼ同じような位置についている。露髄や歯周病が進行し、下顎骨が重度に溶けると、硬い物を噛んだり、外からの衝撃が加わるだけで、薄くなった下顎が簡単に折れてしまうことがあり、これを下顎骨骨折という。

 

咬耗の検査や治療方法について

■検査

飼い主から聞いた日頃からの犬の生活習慣や、獣医師の所見の結果、要検査ということになれば、口腔内X線検査や探針を使っての検査を行う。いずれも全身麻酔をかける。
 
■治療が必要、不要の境目は?

露髄をしていなくて、修復象牙質によって歯髄が守られていれば、治療の必要はなし。しかし、露髄が確認できれば、犬は相当な痛みを抱えていることになるので、露髄の程度により、歯内治療か抜歯による治療を行うことになる。露髄の痛みは口腔内で最も痛いレベルのこと。後述で紹介する「露髄の兆候」に当てはまることがあれば、ただちに獣医師に相談を。
 

咬耗の治療内容

犬の歯の咬耗

■歯内治療

咬耗により露髄が認められた場合、歯面の摩滅や露髄の程度、咬合形態によっても異なるが、歯内治療の流れ(あくまでも一例)は次の通り。

1.全身麻酔
2.口腔内X線検査
3.歯内治療か抜歯かを決める
4.口腔内の消毒
5.スケーラーで歯石歯垢の除去
6.歯に歯根に通じる穴を開ける
7.患部の腐った歯髄を抜き、根管の拡大•形成
8.中の穴を洗浄、消毒、乾燥
9.水酸化カルシウム剤を入れて充填
10.ガッタパーチャで根管を充填、セメント剤を入れる
11.最後に歯と同じ色の最終充填剤(コンポジットレジン)を充填。

1本の歯について治療時間はおよそ2時間ほど。退院時に抗生剤や痛み止めの薬を処方し、3ヶ月後位にレントゲンで治療した箇所を確認するのが理想的。

 
■抜歯

検査の結果、根尖周囲病巣、外歯瘻、内歯瘻、口鼻瘻管、下顎骨骨折(※いずれも詳しい説明は後述参照)などの症状が確認された場合は、抜歯となる。

治療にかかる時間は歯内治療より短いが、抜歯はじつは大変難しい手術。手術する段階ですでに歯周病を併発している犬が大変多く(3歳以上の犬の80%が持っているといわれる歯周病は、歯垢中の細菌が付着して歯周組織〈歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨〉が炎症を起こす病気)、中には歯周病が悪化して骨が溶けていることもあるからだ。

抜歯後は歯肉を縫い合わせ、日帰りで退院。退院時に抗生剤や痛み止めの薬を処方。

 
※治療を希望する際の動物病院選びは慎重に!

一般の獣医師にとっても歯内治療(抜髄根管充填)や抜歯は難しいという認識があるようだ。今回紹介した治療例は、国内でも限られた専門医しか行うことができず、高度な技術を要するもの。治療を希望する際はかかりつけの獣医師と相談したり、歯科治療の信頼できる実績がある動物病院を選ぶことが大切だ。

 

露髄のチェックリスト

犬の歯の咬耗

□口や床を地面にこすりつける

□前足で口の周辺を気にする素振りを見せる

□口を触られることを嫌がる

□よだれが多い
(口の周りが濡れている)

□前足の手首の所によだれや血がついている

□食事中によく食べ物をこぼす

□食べたものをすぐに口から出す

□食事中に奇声をあげる
(痛いので)

□食器の所まで行くが食べるのをためらう

□柔らかいものしか食べない

□片側だけの歯で噛んでいる
(首を傾けて食べる)

□口臭がある

□ほほやあごが脹れている
(根尖周辺病巣の疑いあり)

□頭をよく振っている
(口の中が気持ち悪いので)

□歯やあごをガチガチ言わせる
(口腔内に違和感があるので)

□歯から出血している

□鼻血、くしゃみ、鼻水が多い
(口鼻瘻菅の疑いあり)

□片方の目からだけ涙が出ている
(上顎の犬歯や第四臼歯などに炎症の疑いあり)

 

皮膚疾患を持っている犬も注意が必要!

咬耗を悪化させない(露髄させない!)ようにできるのは飼い主だけ。ほとんどの咬耗は何の症状も示さないが、露髄があれば話は別だ。「露髄のチェックリスト」に挙げたしぐさが一つでも見られたら、ただちに歯科専門医に診てもらうのがいいだろう。

ところで、今までに紹介した以外にも、注意しなければならない咬耗がある。それは皮膚疾患と深く関わっている場合だ。

不正咬合に関係した異常な上下顎の接触によって生じる咬耗は、切歯の唇側によく見られる。

特に、何らかの皮膚病がある犬は、被毛を絶えず舐めたり、かじったりしているので咬耗が助長される傾向にある。被毛が口腔内に多く存在するようになり、唾液と毛が絡まって結果として歯肉溝の中に被毛が入りやすくなる。すると、外の雑菌、口の中の細菌が繁殖し、歯周病や歯肉炎も進行しやすくなる。皮膚疾患のある犬の場合は、口腔内のトラブルを引き起こしやすいのも特徴のひとつ。

アレルギー疾患が多く、被毛も豊かな日本犬だけに、気になる話だ。

また、現在は露髄していなくても、日々の生活習慣を振り返ってみて「将来的に露髄の可能性があるかも」と今回の記事を読んで背筋の寒くなった飼い主もいることだろう。この機会に、愛犬の生活習慣や住環境を見直してみることも大切だ。

 

歯に安全なオヤツの硬さは?

犬の歯の咬耗

デンタルガムという名称で売られている犬のオヤツはとても多い。しかし、中には歯が折れてしまうほど硬い物もある。

何時間も何日も日持ちするような物を犬にかじらせていると、確実に咬耗の原因になる。比較的短い時間で食べきれて、お腹の中ですぐに消化されやすい物が安全

具体的には動物病院で扱っているデンタルガムを目安にして選べばとにかく安心とのこと。愛犬の歯が心配なら、ヒヅメや硬い木の棒などは避けた方がいいだろう。

 

人的に“すり減る”こともある!?

咬耗は自分の意志によって何か物を噛んで歯がすり減ってしまうことをいう。一方、人の手が加わって歯がすり減ってしまうことを摩耗というのだが、飼い主が愛犬の歯の手入れを念入りにしすぎて歯が摩耗してしまうケースもあるようだ。

ハミガキを一生懸命しすぎると、すり減ることがある。強く磨きすぎて歯肉を退縮させてしまったり、自宅でスケーリングをやりすぎて摩耗させてしまった例も。

ということで、ここで正しいハミガキの方法をおさらいしておこう。ハブラシはヘッドが小さく毛が柔らかめの物を使用し、必ずヘッドを水で湿らせて使うこと。犬専用の歯ミガキペーストもオススメ。ハミガキは力を入れすぎないように行い、歯周病や口内炎などの病気がある場合は、必ず治療を行ってからハミガキを行おう。

ハミガキの時間を飼い主との楽しい時間にすることも忘れずに。

 
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Shi‐Ba vol.84『気がついたら、まる子の歯がすり減ってました(泣)咬耗について飼い主が知っておくべきこと教えます!』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。

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