日本犬ならではのしつけ法。散歩中に見られる行動理由と覚えておきたい号令

犬と散歩を楽しむためには、犬が見ている世界に入り込む=犬のやりたいことを予測して飼い主との共同作業のように演出する、という工夫を心がけたい。コミュニケーションが上手にできるようになってから、号令を教えるようにしよう。

犬が見ている世界を教えてもらおう

■犬の行動を共同作業にする

柴犬の散歩

・犬が次にやろうとすることを予想する
・行動範囲を制限しておき、許可の合図でゆるめる

犬が次にやろうとすることが予想できたら、気づかれないうちにリードを短く持って行動範囲を制限。その後、「OK」どの許可の合図でリードをゆるめて自由にやらせる。例えば、犬が「電柱のニオイを嗅ぎたい」と思っていた場合は、飼い主の許可の合図で嗅げたように演出でき、散歩中の行動を共同作業と意識するようになる。犬本来の行動を飼い主の許可の合図でやらせる習慣を作れば、自立心の高い日本犬でも自然に飼い主に意識が向くようになる。

■犬が興味を持つものを見つけて教える

・犬が興味を持つものを把握しておく
・発見したら犬を呼んでそこへ連れて行く

犬が興味を持ちそうなものを飼い主が先に発見する。そして犬に「こっち」と呼びかけ、その場所に連れて行く。例えば、モグラの穴を発見したら、犬に「こっち」と呼びかけて連れて行って穴を指さし、ニオイを嗅がせたり掘らせたり自由にやらせる。このような経験を繰り返せば「飼い主と一緒に探検している」という気分になるはずだ。

 

散歩中に見られる行動の理由と対処

■落ちているモノをくわえる
柴犬の散歩
食べられるものを食べる、気になるものを拾う、という動物本来の行動。
→むやみに叱ると利害の対立に繋がり、噛むようになることも。普段からくわえたものを人に渡す訓練をしておこう。

■先に行こうとする
早く目的地に行きたい、自分本来の速さで歩きたい。
→ 早足の号令を教える、望ましい行動のごほうびとして走る。ただし、リードを引っ張る訓練にならないように。

■ニオイ嗅ぎ
その場所の状況確認を行っている(犬にとって嗅覚は視覚以上に重要な手段)。
→ 飼い主が率先して連れて行ったり、指さしで教えたりする。または、ごほうびとして許可する。

■気になるところを掘る
気になるニオイのもとを確認、感触がおもしろいので掘る。
→ 掘らせない方がよい場所はすぐに歩き出す。掘ってもよい場所であれば、飼い主も一緒に掘ってみる。

■キョロキョロ見回す
その場所の状況確認を行っている(野生で生き抜くための知的好奇心)。
→関心を向けてよいものであれば一緒に眺める。関心を向けて困るものであれば、すぐに立ち去る。

■虫や小動物を追いかける
生き物がいれば捕まえたくなるのが肉食獣の基本的な本能。
→犬が虫に気づく前に飼い主が教える。トカゲなどの小動物の場合、追わせるか禁止するかは飼い主次第。方針を決めること。

■ケンカを売る
生存能力があるオスが遺伝子を残す目的で行うもので、性格に問題があるわけではない。
→「猫を襲う」と同様に対処すること。通行人に飛びかかる場合も同様に対処する。

■猫などを追いかける
→日常生活で出会う動物には子犬の頃に慣らし、狩猟の対象ではなく仲間だと認識させる。成犬は、追った瞬間に全力で反対方向へ走り、あきらめたらほめてオヤツを与える。

■建物などへのマーキング
→マーキングの前兆行動が見られた段階ですぐに小走りで立ち去る。その代わり排泄してよい場所では「ワンツー」などの排泄の号令をかけてゆっくり待ち、できたらほめる。

 

散歩を楽しむための号令

行くよ(歩かせる合図)
柴犬の散歩

・動かない犬に「行くよ」と声をかけて動き出す
・歩き出したら数回に1回はほめてオヤツを与える

犬が興味を引かれてのぞき込んだり、ニオイを嗅いだりして動かなくなってしまった時に活用する。「行くよ」と声をかけたらただちに歩き出す、ということを習慣にする。犬が歩き出したらすぐにほめて、数回に1回はオヤツを与えてほめる。犬が動かなくなった時に、無理に引きずって立ち去る、リードを中途半端にツンツンと引いて様子を見る、という飼い主は多いが、犬に自分の意志と飼い主の意思が対立していることを意識させてしまうので避ける。

ついて(期間限定の集中の合図)
柴犬の散歩

・犬が飼い主に集中できる環境で横へ移動する

一般的には散歩のしつけの中心として教えられることが多い脚側行進の号令。ここぞという時に飼い主に意識を向けて歩いてもらうための時間限定の集中の合図として教えた方がよいそう。普段から犬の気が散らない環境で、オヤツなどで人の横に誘導して歩調を合わせて歩き、解除(許可)の号令で終わりにする練習をする。最初から長くついて歩かせることは失敗のもと。身体的苦痛をともなう強制も禁物だ。

待ってて(次の指示まで待機の合図)
柴犬の散歩

・静かな場所にリードをつないで離れる
・戻ってその場で褒めてごほうびを繰り返す

信号待ちの時や排泄物を回収する時などに、次の指示があるまで自由な姿勢でその場所にいる、というアバウトな号令として教えておくと役立つ。「マテ」が完璧なら不要だが、完全にフリーズするように教えることは難しいので、「待ってて」を活用しよう。最初は静かな公園などの木にリードを短くつないで、「待ってて」と声をかけてから離れ、何度か戻ってはその場でほめてオヤツを与える。終わりにする時は解除(許可)の号令を言ってから。

早足(トロット)
柴犬の散歩

・早足を始める号令と終わりの号令を決める
・号令を開始と終了のときにわかりやすく言う

犬をゆっくり歩かせてばかりいると人が少し早く歩いたとたんに全力疾走になってしまうことが多い。しかし、日本犬の全力疾走に付き合える人は少なく、市街地では安全面でも心配。(トロット)で早く歩くことを教えよう。人のジョギングくらいのスピードなので、適度な運動にもなるはず。早足の号令を開始と終了の間に犬にはっきりいえば、飼い主の体調に合わせて無理なく続けられる。

こっち(興味を共有する合図)
柴犬の散歩

・犬の興味を引くものを指して「こっち」と言う

犬に言うことを聞かせるためではなく、興味の対象を共有するための合図として教える。飼い主が「こっち」と指をさした方を見れば必ず興味深いものがある、と犬に意識させることから始める。それが十分にできてからであれば、数回に一回は犬をコントロールするために使ってもよい。

 

犬の安全や周囲への配慮を心がけることが大切

柴犬の散歩

野生の本能に基づく犬本来の行動は、達成感やわくわく感を与えるためにもやらせてあげたいもの。しかし、現代社会で暮らす以上、上記に挙げた欲求自体をなくす行動に加えて、注意が必要なことが3つある。

まずは、防御的な攻撃。警戒心が強い犬は、他人がいきなり手を伸ばしたり、他犬が急に近づいたりすると、威嚇や噛むことがある。これは犬にすれば自分の身を守るためのやむを得ない行動。自分で身を守る必要がないように、飼い主が相手を制止しなければいけない。『相手は善意だから』と遠慮していると、警戒心の強い犬の場合、先制攻撃をさせる訓練になってしまう。

次に、過剰な友好的行動。他人への友好的な飛びつきやじゃれ噛みなど。犬がいったん落ち着いてから接してもらうよう習慣づけよう。多くの日本犬はおとなになれば自然に落ち着くが、意識しておくに越したことはない。

最後に、管理不足による問題。自立心が高い日本犬は、十分にしつけができていない時にドッグランなどに放すと、飼い主の呼びかけを無視させる訓練になり、他犬とのトラブルも起こしやすくなる。ロングリードで目を離して放任することも同様。管理不足による問題行動は犬ではなく飼い主の責任だ。

また、共同作業を演出するために大切なことは、愛犬が何をやりたがるのかしっかり把握しておくこと。しかし、行動が予測できても、時には犬が先に始めたり、おもしろいものを見つけたりすることもあるだろう。そのような時はむやみに叱るのではなく、飼い主側も「それ、何?」と一緒にのぞき込んで、犬の“発見”を讃えてあげよう。うわべの演技ではなく、人が見過ごしているもうひとつの世界を教えてくれた、という感謝の気持ちを込めることが大切

現代社会の犬、特に室内飼育の犬には、人のようにふるまうことを強いる場面が多くなる。散歩の時は人が犬に近づけるように意識してみてもよい。どこまで犬の感覚になれるのか、ゲームだと思って楽しんでみよう。

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監修:山下國廣先生
 
Shi‐Ba vol.79『日本犬ならではのしつけ法、はじめました。 散歩の時に犬と同じ世界を見よう』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。

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