柴犬の毛=ダブルコートは周知の事実。「うちのコはダブルコートだから、抜毛が多いのは仕方ないよ……」なんて一度はつぶやいたことがあるのでは?でもダブルコートって実際どんなもの? 今回はそんなダブルコートについて解説。
1.ダブルコートの基本知識
2.シングルコートとダブルコートとの違い
2-1 同じダブルコートでも感触はいろいろ
2-2それぞれのメリット、デメリットは?
3.ダブルコートの予備知識
4.ダブルコートのお手入れのコツ
5.毛のあれこれ Q&A
6.今と昔の換毛期
7.毛の多さは柴犬の個性
ダブルコートの基本知識
人の髪の毛は1つの毛穴に対して1~2本だけ生えているのに対して、犬は1つの毛穴にたくさんの毛が生えている。
しかも、ダブルコートの犬は主毛と副毛の2種類がセットになってびっしり……。一体、なぜこんな変わった構造になっているのだろう?
まず犬を毛の生え方で分類すると、ダブルコートとシングルコートの犬に分かれる。
ダブルコートの構造は、主毛がウインドブレーカーのように直射日光や草むらの刺激などから肌を守るためのものであるのに対し、副毛はカーディガンのように保温の役割を担っている。
ダブルコートになるのは寒いところや四季のあるところで生まれた犬種。
こうした犬たちは、一年中同じ毛の生え方でいると、気温の変化に対応できない。このため、副毛を寒い時期に増やし、暑い時期に減らすことによって、体温を適切に調整するようになった。ダブルコートは、いわゆる衣替えをするために便利な構造だ。
副毛の生え変わりは春と秋で、まさに衣替えのタイミング。地域にもよるが、通常、春はGW明けくらいの暖かくなる頃に、副毛がごっそり抜けて少なくなり、秋は副毛が増えてふかふかした感触になってくる。
春になると多くの飼い主さんが、犬との散歩が気持良くなって喜びを感じる反面、抜毛の多さにぐったりするのはこのためである。
ちなみに主毛は季節とは関係なく生え変わる。
ダブルコートの犬でも、子犬の頃は副毛のみが生えていて、1~2回目の換毛期で主毛が生えてくる。
性別による生え方の差はない。
一方、シングルコートの犬は、副毛に近い毛がメインに生えていて、その毛がすべての役割を果たしている。
シングルコートとダブルコートとの違い
■同じダブルコートでも感触はいろいろ
皮膚を守る主毛と保温のための副毛を持ち、暑い時期には副毛が抜けて、寒くなると生やしながらいわゆる衣替えをするダブルコート。
それに対し、副毛に近い毛がメインに生えていて、その毛がすべての役割を果たしているシングルコート。
同じダブルコートの犬でも毛質はいろいろで、すべて柴犬のようにふさふさした見た目、感触ではない。
上から手でおさえた時に、みっちりと反発性がある感じは柴犬ならではの特徴だ。それだけ副毛が分厚く、抜毛も多くなるということが理解できる。柴犬の場合、いわゆる夏毛になると副毛が抜けて主毛がメインになるので、ごわごわとした麻のような感触になる。
一方、シングルコートの犬の場合は夏毛になっても触った感じは特に変わらない。
また、ダブルコートの犬種でもシングルコートの犬種でも、体温に違いはなく、毛の生え方よりも個体差によるところが大きい。
シングルコートでも、毛の硬い犬、カールしている犬などさまざまな毛質がいる。主毛が少なく副毛が発達しており、保温や皮膚の保護の役割を担っている。換毛期でもほとんど抜毛が目立たないので、ダブルコートの犬に比べてお手入れは比較的楽。
■それぞれのメリット、デメリットは?
ダブルコートのメリットは、副毛を増やすことで保温性を維持でき、また四季のある場所では換毛で体温を適切に調節できるということ。
デメリットは、抜毛が多いのでブラッシングが欠かせないこと、部屋や庭における犬の居場所が散らかることなど。ブラッシングしてもすぐにブラシが毛でいっぱいになる、毎日の掃除機が欠かせない、庭に犬の毛玉が飛んでいる……などは、柴犬のいる家庭ならではの風景かもしれない。
また、毛が密に生えているため皮膚がむれやすく、においやすい、体温が下がりにくく、一度副毛が濡れると乾きにくいので、放置すると細菌が増殖して皮膚炎やあせものような状態になることがある、などもダブルコートのデメリットといえるだろう。
また夏には副毛を抜いて体温調節ができるとはいっても、最近ではエアコンの影響などで換毛サイクルが乱れている犬も多く、うまく夏毛になりきらない場合も。したがって夏場は特に気温に配慮してあげる必要がありそうだ。
暑い時期は熱中症の一歩手前になりやすいのもダブルコートの犬の特徴。特に日本犬は夏ばてしやすく、暑くなると食欲が落ちる犬が多いかもしれない。
ちなみに獣医師からみると、ダブルコートの犬は毛をかきわけにくいので採血しにくい、ノミダニの投薬がしにくいという印象もあるそうだ。
シングルコートのメリットは、換毛が少なくお手入れの手間が比較的少ないこと。
デメリットは寒い環境に弱いことなどがある。
ダブルコートの予備知識
抜毛が多く、家は散らかるわ、ブラッシングは大変だわ、しかも夏バテの原因にもなりうる……とデメリットも多いダブルコート。でも、そのふさふさした毛並みこそが柴犬の魅力ともいえるだろう。
ダブルコートが一番美しい時期は、副毛のボリュームがある冬。春夏は副毛が抜けてボソボソして貧相に見えがちだが、副毛が映え揃う寒い時期には立派な姿になる。
実際、季節ごとの毛の状態はどのように変わるのだろうか。変化の度合いは以下の通り。
夏 1本の主毛に対して副毛が5本くらいに減る
秋 夏と冬の中間くらい
冬 1本の主毛に対して副毛が10~15本くらいに増える
春~夏にかけて副毛がごっそりと抜け、秋~冬にかけては副毛が2~3倍にも増えてくることがわかる。
このため、例えば手術で毛を剃った場合、季節が夏だとその後の秋の換毛に合わせて副毛がすぐに生えやすい傾向があるが、反対に冬だとなかなか生えてこないことになる。
ちなみに他犬種だが、ポメラニアンの場合、一度サマーカットをするとなかなか毛が伸びてこない犬が多いといわれている。これはポメラニアンの場合、成長ホルモンの問題を持っており、発毛にハンディキャップがあるため。
柴犬の場合はこうしたトラブルはないが、主毛が皮膚を守る働きをさまたげないよう、サマーカットにはしないほうがいい。普段からエアコンなどをかけすぎないようにし、自然な換毛を促進させながら、暑い時は副毛をしっかり抜いてあげることを意識しよう。
ダブルコートの美しさを保つためには、日常のお手入れの他にどんなことが必要になるのだろうか。まず健康状態を良くすること。体調を崩すと毛がボソボソになる犬も多い。体調を良くするには食事に気をつけてることも大切。特に油分を多くとるなどの必要はないが、栄養バランスのよい食事をとらせてあげよう。
また、アトピーやアレルギーなど皮膚のトラブルがあると、かきこわしたり、毛が薄くなったりするので治療すること。ノミダニ予防も欠かさないようにしよう。
ダブルコートのお手入れのコツ
柴犬の毛のお手入れのポイントは、とにかく浮いている毛はどんどん抜くこと。
換毛の時期は、まず大まかな抜毛をスリッカーブラシでとり、ラバーブラシで仕上げるのが基本。ただしスリッカーブラシをしつこくかけすぎると皮膚が傷つくので、力加減には気をつけよう。
また手を濡らしたり、しぼったタオルで拭いたりして毛を取り除く方法もある。この方法だと毛が濡れて飛ばないのでおすすめ。いずれの場合も毎日やることが肝心だ。
シャンプーする際も、事前にブラッシングを行おう。特に冬は副毛が乾きにくいので注意。ドライヤーを当てて毛の温度が上がっていると、触ってみて乾いた印象があるが、実際は湿気が残っていることも多く、蒸れたり、冷えの原因になることもある。
ちなみにシングルコートの犬もお手入れ方法は同じだが、長毛の犬は耳、脇の下などが毛玉になりやすいので、ていねいにブラッシングを。
関連記事: 抜け毛を100%退治!柴犬が嫌がらないブラッシングのコツを知ろう
毛のあれこれ Q&A
Q.食事の改善で被毛は抜けにくくなる?
A.毛のお手入れは飼い主さんにとっては手間のかかることだと思うが、犬の健康上、抜ける時には抜けたほうがいいので抜毛を減らそうとは思わないこと。毛が抜けるのは柴犬の個性だと思って付き合ってあげよう。また食事内容を変えても抜毛の量に変化はない。
Q.ダブルコートの犬の方が中年・老犬期に入っても“立派な毛並み”が保ちやすいように思える……
A.同じダブルコートでも体質や犬種で毛並みは変わる。人間でも髪がふさふさの人のほうが若々しく見えるのと同じで、犬もダブルコートだと毛並みが良く見えるかも。しかし柴犬でもアトピーなどで毛が薄いと貧相に見えることも。また同じダブルコートのポメラニアンも、成長ホルモンの関係で発毛にハンディキャップのある犬もおり、ダブルコート=毛並みが立派とは限らない。
Q.冬のダブルコートは人の服で例えると、どのくらいのあたたかさ?
A.人間も寒くなると着込むが、犬も冬が近づくと副毛を増やして体温を温かく保つ。冬に副毛が最大限になった状態の温かさは、実際に犬になってみないと分からないが、ラクダのももひきや、ウールのセーターみたいな感じだろうか。特に庭で飼われている犬は副毛がたくさん増えて保温性が高くなる。
Q.どの程度の雨であれば完全にはじく?
A.ほんの短時間、小雨の中を歩く程度ならはじく。ただし小雨でも途中で大降りになるかもしれないので、レインコートを着せたほうが安心。完全に濡れてしまうとタオルで拭いても乾きにくくなる。柴犬の場合、ドライヤーをあてても湿気が残っていることも多く、乾燥させるのがひと苦労。放置すると皮膚炎になることも。
Q.換毛期、無理に抜いたせいか、抜けた毛束に白い皮膚のようなフケのようなものがついている……
A.毛と一緒に角質がはがれただけ。必要な毛はめったに抜けない。ダブルコートの犬の場合、ブラッシングをすると、主毛と副毛、さらに角質がセットになってはがれて抜けてくることがある。普通にブラシをかけたり、引っ張ったりしたくらいで必要な毛が抜けることはあまりないので心配することはない。抜けるべき毛が抜けているだけなので問題ない。
Q.オーバーコートとアンダーコートで毛の色が違うのはなぜ?
A.毛質や皮膚の色に準じて変わることも。一般に、毛の太さ、質の違いで色は違ってくる。硬くて太いのが主毛=オーバーコート、柔らかくて細くちぢれているのが副毛=アンダーコート。主毛は保護色という説もある。また皮膚の色と同じ毛が生えるケースも。主毛は茶色でも、副毛は皮膚の色に準じた色になる犬もいる。
今と昔の換毛期
柴犬の換毛期が変わりつつある。庭で飼われている犬は、まともに気温の刺激を受けることになるので、秋に涼しくなれば副毛が急激に増え、春に暖かくなるとごっそり減る。これが通常の換毛期のあり方だ。
一方、現在家庭で飼育されている柴犬はそのほとんどが室内犬。夏や冬も冷暖房によって、居場所が快適な気温設定にされていることが多い。
しかし、夏に涼しく、冬に暖かい生活を続けていると、副毛の生え変わりの必要がなくなり、換毛のサイクルが乱れることも。実際、室内飼いの犬の飼い主さんからは「一年中だらだら抜けている」という声が多く聞かれる。
換毛が通常通りになされなくても、特に体に悪影響はないが、冬に副毛が十分でないと散歩の時に寒く、反対に夏は副毛が抜け切らないので暑いというデメリットがあり、体調を崩しやすいともいえなくない。
なるべく正しく換毛させるために、普段から四季に応じた生活をさせてみてはいかがだろうか。
毛の多さは柴犬の個性
柴犬はダブルコートを持つ犬種の中でも副毛が特に多く、その個性が楽しめる犬種といえる。
ダブルコートを美しく保つには食事が重要だが、その他適度な運動や睡眠をとらせ、生活リズムをととのえることももちろん有効だ。
換毛の時期には、毛が散らかってついイライラしてしまう飼い主さんも少なくないが、Tシャツを着せておくだけでも抜け落ちる毛の量はだいぶ変わる。あとは掃除をこまめに。
犬種にはそれぞれ個性があるので、柴犬の換毛は宿命だと思って付き合おう。
換毛の時期には手を焼くが、お手入れの機会が多いということは、逆に毛並みの変化を日常的に観察しやすいということで、犬の体調を把握するヒントにもなる。
毎日のケアを面倒なことととらえず、犬の体調管理や美容につながることとして意識し、スキンシップとして楽しむことで、もっとダブルコートを愛せるはずだ。
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Shi-Ba Vol.71 『今さら人には聞けないけど・・・日本犬のダブルコートってナンダ?』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。