犬は人類と最もつきあいの古い動物なだけに、犬にまつわる言葉やことわざはおそらくすべての動物のなかでもダントツにその数は多い。
建築・道具関連の言葉
■犬返し
犬も通れないような断崖となっている難所を「犬返し」「犬もどり」などと呼ぶ。
日本全国の山岳地方には、この名がつく場所が意外と多い。
つまり、「犬は山歩きが得意で、そんな犬たちが引き返すような場所は難所である」と、犬の身体能力の高さは全国的に評価されていたわけだ。
■犬防ぎ
昔の偉い人が暮らす御殿や寺、神社などには、その門や殿舎の前に必ず粗い透しの低い柵があって、これを「犬防ぎ」と呼んだ。
昔は犬が放し飼いで、町中をいっぱいうろついていた。
人間ならエライ人や宗教の権威にビビッてとても入れないような場所でも、犬たちはお構いなしで入ってくる。
だからこういった柵が必要だったのだろう。
現在も犬防ぎはあるが、その用途は建物の内陣と外陣の境を区別するためだった。
■狛犬
「高麗犬」という書き方もする。
高麗=古代の朝鮮半島を現す言葉で、古代日本人が大陸からやってきた怖そうな大型犬を畏怖して「コイツに神様を守らせちゃおう」と思ったかどうかは知らないけれど……神社の社殿や鳥居の前には、必ず一対の狛犬が置かれるようになった。魔除け効果も絶大なようだ。
ちなみに、この左右の狛犬の口をよく見れば「阿」ってな感じで口が開いているやつと、「吽」と閉じているヤツがいて、これがいわゆる「阿吽の呼吸」という言葉の語源。
しかし、狛犬ってのは犬に似た想像上の動物で本当は犬ではない……。
ただ、日本津々浦々にある神社の中には、この「犬に似た想像上の動物」ではなく、ホンモノの石造を鳥居前に設置しているとこもあるようで。
例えば、狛犬がわりに日本オオカミ像を設置している三峰神社とかがそれ。
武士・役人関連の言葉
■犬侍
「この犬侍!」なんて呼ばれたら、武士にとっては最大の侮辱。
それは武士道をわきまえない武士を罵る時にいう言葉だ。
でも、犬にとっては「武士道なんて難しいこと理解できるワケねーじゃん。」と、屁とも思わず開き直ってたりする!?
■犬死に
何の役にも立たない死に方をすること、これを「犬死に」と言う。
しかし、モノのない時代には、犬の肉や毛皮だって重宝した時代もあったのに、随分な言われ方だ。
犬たちよ、もっと自信をもってよいぞ。きっと。
■犬人
「犬人」「狗人」などと書く。
妖怪の類ではなく……立派な古代の官職のことだ。
太古の時代、犬の吠え方を真似て宮廷を警備する役の人がいて、それがこの名で呼ばれていたという。
盗賊は「猛犬がいるから、ここに忍び込むのはやめておこう」とか思ったのだろうか?
現代もよく家の前に『猛犬注意』なんて張り紙がよくあるけど、それと似たような効果があったのかもしれない。
でも、犬の吠え方を真似るくらいなら、番犬くらい飼えば?とか、思ったりもする。
植物関連の言葉
■犬のふぐり
「ふぐり」を漢字にすると「陰嚢」。
名の由来は種の形が犬のふぐりに似ているため。
「大犬のふぐり」「立ち犬のふぐり」もある。
ゴマノハグサ科の越年草で、道端や畑によく生えているので、目にする機会も多いはず。
「ひょうたんぐさ」「てんにんからくさ」の別名もある。
■犬桜
バラ科の落葉高木で、山野に自生している。
樹皮は暗灰色で、春先に桜に似た感じの白い小花を咲かすが、本物の桜と比べるとちょっと見劣りするので、この名がつけられたとか……。
他の動物とのコラボ!?言葉
■豚犬
「豚犬」とは古代中国に源を発することわざで「愚かで役立たずな奴」という意味。
自分の息子などを他人に謙遜して紹介するときなどに使うので、「愚息」なんてのと同意義だ。
■犬馬
人に使われる者や身分の低い者を例えるときに使う言葉。
また、自分をへりくだって言う時にも使う。
犬と馬と言えば、人に使われる使役動物の代表格。
まぁ、それだけ人の役に立っているってことで。
■鶏鳴狗盗
中国の春秋戦国時代のことわざ。
鶏の鳴き真似をする者と、犬のようにこそこそと人の物を盗む者という意味。
「いやしくてつまらない者」と人を蔑んだ、かなり侮辱した言葉である。
しかし、中国では犬ってけっこうイメージが悪い生き物なのだなぁ……。
■赤犬が狐を追う
どちらも毛の色が似ていることから、追う者と追われる者の区別がつかないことを意味する。
善悪や優劣の判断しにくいことの例え。
いまどきはキツネを追う犬なんて見る機会は少ないから「チワワがネズミを追う」とか「ダックスがフェレットを追う」あたりに言い換えたほうがわかりやすいか?
■兎を見て犬を呼ぶ
兎を逃してしまっても、犬を呼んで追いかけさせれば、まだまだ捕らえられるチャンスはある。
失敗しても、すぐに対処を考えて行動すれば、挽回できる可能性はあるという意味。
この他にも「兎を見て鷹を放つ」という言葉もあるけど、これも犬の場合と同意義である。
犬のことわざ
■煩悩の犬は追えども去らず
欲望が人につきまとって離れないことをいうことわざ。
犬が戯れて、人の足下にくっついて離れないという状況が、それによく似た感じなので用いたのだろう。
ことわざの世界では、犬ってあまり良い意味で使われないことが多い……。
■犬の糞で敵を伐つ
卑怯な手段で敵討ちすること。たしかに、犬の糞は卑怯だ。
ちなみに「暗がりの犬の糞」という言葉もあるけど、これは、失敗を押し隠して知らん顔する人のことを言うのだとか。
■尾を振る犬は叩かれず
シッポを振ってなついてくる犬ってのはかわいいものだ。
つまりこれは、従順なものには誰でもひどいことはしないという意味。
「尾を振る犬は打たれず」とも言う。
世間を上手に渡っていくには、愛想がいいのが一番だ。
■堅苦しくて犬入らず
家庭内が正しく治まっていれば、それを乱すようなことが外部から入ってくることはない、という意味。
しかし、災いに例えるなんて犬には失礼だ。
でも、昔は放し飼いの犬も多かったから、うっかりしていると隣の犬が土足で乱入……なんてこともよくあったのかもしれない。
犬の側にも反省すべき(?)ところはあったようで。
■犬に論語
「論語」とは年功序列とか目上の人への例とか、儒教のバイブルみたいなもの。
昔の教養人はこれをありがたがって読んだのだが、それなりに書いてある内容も難しかったようで……犬にこれを読んで聞かせても理解できない。
つまり、それと一緒で、無知な人に立派な教えを説いても無駄ってな意味なのだ。
あるいは意固地でワガママな人に「それはマズイんじゃない?」と善意から忠告しても、おそらく聞く耳ももたないだろうから、言うだけ無駄ってな意味もある。
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Shi‐Ba vol.29『ジャポニカShi‐Ba 犬にまつわる言葉辞典』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。