鳴き声で伝わるお互いの気持ち。犬が鳴く時『野生・番犬』の場合……

何のために犬は鳴く。そこには飼い主に対するメッセージとか、意見や苦情とかあるのではないか? まあ、飼い主にも犬に吠えて訴えたいことはあるのだが……。
 

 

犬が鳴く時『野生・番犬』編

柴犬の鳴き声

・挨拶
散歩中に出会った犬同士、挨拶することは珍しくない。音声を発することなく鼻をくっつけあう挨拶は、人間でいうならば社交儀礼的なオジギみたいなものか? でも、親しい間柄の犬とかには、「ワン、ワン」とやや興奮気味に鳴くことがある。「やぁ、久しぶり!」ってな感じだな。犬も人間と同様に、相手により挨拶のしかたを変えているのかも。

 
・テリトリーの主張
犬は狭くて暗い場所を好む。居心地のいい場所を誰にも渡したくないと、近寄ってくる人や犬に対して縄張りを主張して凄むこともある。そんな時は「鳴く」というよりも「グルル~」と唸る。お気に入りのオモチャとかオヤツを奪われそうになった時も、同様の唸りを発することがある。「これは俺のもの!」と自分の所有権を強く主張している感じか。

 
・威嚇
恐怖に駆られビビッてる時にも犬はうなるもの。よーく観察してみれば、所有権を主張している時のやや余裕かました唸り方とは、ちょっと違う。耳を下げてブル、ブルと震えて、見るからに一杯一杯な感じ。余裕がない状況なだけに、下手に刺激すると過剰反応して噛みついてくることも。「やんのか、コラ!」と必死に威勢を張ってるってなところか。

また、不審人物を見かけた時、犬は吠える。この場合は相手に対する威嚇よりも、仲間に危険を知らせて注意を促そういう意識のほうが強いのかも。「お前、誰だよ」とか言ってるのだろうか。また、訪問者のいる玄関と家族のいる居間を往復しながら吠える犬もいる。この場合は「誰が知らない人が来たぞ~」と、家族に知らせようと吠えているのかもしれない。

 
・合図
狩猟に使われる犬は、近くに獲物がいることを猟師に知らせるために、アイコンタクトや仕草など様々な手段を使って合図をする。また、獲物を発見したときに「キャンキャン」と小さく短い独特の鳴き声を発する猟犬は多いのだが、それもまた合図の意図があるのかもしれない。柴犬の祖は猟犬なだけに、家庭犬であってもそんな気質は残っているのかも?

 

番犬の仕事は吠えること

柴犬の鳴き声

昭和30年代までの日本はとても物騒で、泥棒や強盗もそれなり多かったという。そんな状況なだけに、警戒心の強い柴犬は番犬に最適な犬として重宝した。ただでさえ用心深い性格の柴犬が、屋外に放置されたら鳴きまくって当然。感度の高すぎるセンサーは、近隣で起こる様々な事象に反応して吠えまくる。よく吠える犬が褒められた。そんな時代もあったのだな。現代においては、犬を屋外に繋いで飼うことについて賛否両論ある。けど、外飼いすることで、柴犬本来の野生動物に近い警戒心を鍛えつづけてきたことは間違いない。今時の室内飼いの柴犬にも、その片鱗はまだ見てとれる。玄関に現れた訪問者や散歩中に遭遇する様々なモノに、犬は吠えて反応する。しかし、今時の飼い主のほうは犬たちが鳴き声で伝える様々なシグナルを正確に把握してるのだろうか? 現代人も科学文明に甘やかされて、そっちの方面の感性は鈍ってそうな……。

 

猟犬の鳴き方

猟犬には「鳴き止め」と「噛み止め」のふたつのタイプがある。

鳴き止めとはその名の通り、吠えたり鳴いたりして威嚇しながら、獲物の動きを止める。勇ましく大きな鳴き声であればいいというわけではない。それよりもタイミングが重要。

名犬といわれるような鳴き止め犬は無駄に吠えず、猪や鹿が動いて逃げようとする瞬間に「ワン」とひと声、それで虚をつかれた獲物はピタリと動きを止めるという。鳴き方にも、名人芸というのがあるようだ。

 

犬の言語理解能力は人間の子供とほぼ同等

柴犬の鳴き声

犬とオオカミの最も違う部分は何かといえば「吠える」ことにある。野生のオオカミはめったに吠えることはないが、犬は頻繁に吠えたり鳴いたりする。犬は人と一緒に暮らすようになって、吠えることを覚えたようだ。

犬が吠える理由。それは人に自らの意志を伝えたり、人が犬に求めた「危険を知らせる」などの仕事上の都合で習得した技なのだろう。異種族である人に意志を伝える努力をしているうちに、人の意志や感情を理解する能力も鍛えられていった。人が何を自分に求めているか。それを知らねば狩猟や牧羊といった高度な共同作業をするのは難しい。

現代の犬に関しても、牧羊犬のボーダーコリーが200単語の人語を理解していたという興味深い実験データがある。しかも、これが限界ということではなく、アメリカにおける実験では1000を超える単語を理解したという犬も現れた。言語に関しては、普通の人間の子供なみの学習能力があるのではないか。と、考えられている。

つまり、学習する環境があったり、その必要に迫られたりすれば、犬はいくらでも人語を覚えられるということ。その能力については犬種による差は見られないという。だが、人語を理解することと、理解した後にどんな感情を表すかについては、犬種や個体差が大きい。人間にもリアクションの大きな人と、感情をあまり表に出さない人がいるように。日本犬の性格はどちらかといえば後者か? 飼い主が何を言っても無反応な犬を見て、「うちの犬、言葉を理解してないのだろうか?」と、判断を下すのは早計。理解してるけど、面倒だったり都合が悪いから反応しない。あるいは、犬なりに微妙な反応を見せているが、飼い主がそれを理解できない場合もある。

 

犬だから鳴き、犬だから聞く

柴犬の鳴き声

昔、犬の言葉を翻訳するバウリンガルってあった。その翻訳の精度を過信しすぎて「うちの犬、いつも腹減ったゴハン食わせろって言いつづけてるけど……」と、大量のエサやオヤツを食べさせたあげく「太らせ過ぎ」を獣医師から叱責された飼い主もいたという。はしてホントに犬は、食物を求めていたのだろうか? 実際のとこ分からない。

けど、犬の言葉が正確無比にわかり過ぎるのも、考えもんだと思うですよ。「たぶん、こう言ってるんじゃないかなぁ」ってな程度のほうが、お互いうまくいきそう。

「ワンワン」吠える犬の下腹を触ってみて、ちょっと太り気味かなと思ったら「そーか、散歩行きたいのだな」と、判断してみる。犬的にはオヤツも欲しいが、散歩も好きだし。「まあ、どっちでもいいか」と楽しく散歩して、それで健康が保てるし。犬語を解釈するのに、人の都合が混入するのも結果的には吉となったりもする。

考えてみれば、人は犬との長~いつきあいを通じて、常に犬の言葉を自分に都合よく解釈してきたような……それで意外と不都合なく、狩猟とか牧羊とか、難しい共同作業をこなしてきてる。

そうして考えると、言葉が通じるか通じないかってのは、大した問題ではない。いま何をやれば、お互いのためによい結果を生むのかを「感じる」「悟る」こと。言葉よりもそんな感性を発達させることが、飼い主と犬がより幸せに暮らせる道なのかもしれない。

 
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Shi‐Ba vol.82『声だけで伝わるお互いのキモチ 犬の鳴き声 飼い主の鳴き声』より抜粋
※掲載されている写真はすべてイメージです。

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